歪みエフェクターの試奏で何を確認するか|面接だと思えば外さない

試奏でとりあえずガーっと弾いて、良し悪しはよく分からないけれど良い感じの音だったから買った。
そして数ヶ月後、思ったより使いにくくて手放した。
そういう買い物をしたことはありませんか。
どうも、新潟市江南区でギター講師をしている吉田です。
試奏は演奏の場ではなく、面接の場です。
こう聞いたらどう返してくるかを確かめる時間であって、好き勝手演奏して自分だけ気持ち良くなるための時間ではありません。
丁寧な試奏で挙動さえ掴んでおけば、そのエフェクターが使えるジャンルの幅も、メイン以外の使い道も購入前に見えます。
この記事では、筆者が店頭で実際に確認している項目を順番に書きます。



試奏で一番よくある失敗は、意識が演奏に向くこと

試奏は、なんだかんだで人前で演奏する機会でもあります。
店員が近くにいて、他の客もいる。だから見栄が出ます。速いフレーズを弾きたくなるし、指板の広い範囲を使いたくなる。
これが一番の失敗です。
意識が自分の演奏に向いている間、耳は出音を聞いていません。
指が動いたかどうかの判定に脳のリソースが持っていかれるからです。
結果として残るのは「なんか良かった気がする」という曖昧な印象だけになります。
承認欲求はいったん置いて、簡単なコードとシンプルなフレーズで確認してください。
オープンコードを一発鳴らして減衰まで聴く。
ローポジションでシンプルなフレーズをいくつか弾く。それで十分に判断できます。
そして、この姿勢は店側から見ても伝わります。
自分の演奏ではなく商品に目が向いている人は、本気で買う気があると判断されます。
この話は記事の後半でもう一度書きます。
エフェクトOFFの状態で、まず自分の音を作る

エフェクターを踏む前にやることがあります。バイパス状態で、自分の好みのクリーンを作っておくことです。
店頭のアンプは、前に弾いた人の設定がそのまま残っています。
極端なドンシャリになっていたり、ゲインが上がりっぱなしだったりする。
その上に歪みを乗せても、何を聞いているのか分からなくなります。
クリーンと一口に言っても、好みの音は人それぞれあります。
そしてクリーンで良い音が出せるかどうかは、良い奏者の条件でもあります。
歪みはクリーンを歪ませたものである以上、スタートラインを自分の好みに寄せておくことで、そのエフェクターが自分に合うかどうかの判断精度が上がります。
ここで作った素の音が、この後すべての比較の基準になります。
まず、どんな音が出るのかを掴む

準備ができたら踏みます。最初に見るのは音のキャラクターです。
TS系、トランスペアレント系、ケンタウロス系といったカテゴライズをする人もいます。ただ、これは事前の知識と経験があって初めて機能する分類です。
知識が追いついていない段階で分類名から入ると、聞こえていないものを聞こえたことにしてしまいがち。
分類より先に、弾き方を変えて出音の変化を確認してください。
- 単音・ローポジション:太さ、輪郭、音の立ち上がり
- 単音・ハイポジション:細くならないか、ハイのキツさ、サステインの伸び
- コード/パワーコード:分離感か塊感か。低域が潰れないか
- カッティング/ブリッジミュート:音の切れ際。歯切れが良いか、残るか
この4つを通すと、そのエフェクターのストロングポイントが浮かび上がります。ハイポジションの単音が艶やかならリード向き、パワーコードで塊になるならリフ向き、といった具合です。
ここで得た印象は、後からカテゴリ名と結びつけていけば十分です。
順番が逆になると、機種選びが伝聞ベースになります。

キャラクターの具体例を耳に入れておきたい場合は、極端に個性の強い機種のレビューが参考になります。ビッグマフやTS808あたりは、そのカテゴリの基準点として頭に置いておくと比較しやすくなります。
ツマミの挙動を確認する

キャラクターが掴めたら、ツマミを回します。ここからが面接の本番です。
ゲイン:レンジと、変化するポイント
確認するのは3つです。
ひとつ目はゲインレンジの広さ。最低から最大までで、どのくらいの幅をカバーしているか。ふたつ目は、上げ下げの途中でキャラクターが変わるポイントがあるかどうか。3時を超えたところで急に別の顔になる機種は珍しくありません。3つ目が最低ゲインと最大ゲインの歪み加減です。
この両端は購入前に必ず把握してください。 家で使う歪み量は、たいてい端ではなく中間です。しかし端が分かっていないと、そのエフェクターの守備範囲が分かりません。最低ゲインがほぼクリーンなのか、それとも既にクランチなのか。ここは機種によって大きく違います。
同じメーカーの近い価格帯でも、ゲイン幅の設計思想は別物です。
SD-1とOD-3の違いを比べると、この差がどう用途を分けるのかが具体的に見えます。
レベル:最大値に余裕があるか
レベル(ボリューム)は、最大値とツマミ真ん中あたりとで、どの程度の差が出るかを見ます。
ここで見たいのは音量そのものではなく、余裕の有無です。レベルの最大値に余裕があれば、メインの歪みだけでなくブースターとしても使える可能性が見えてきます。
判定式はシンプルです。先ほど確認した最低ゲインがほぼクリーンで、なおかつレベルに余裕がある。この2つが揃えば、ブースター適性アリと判断できます。1台で2つの役割を持てる機種かどうかが、この確認だけで分かります。
ブースターとしての具体的な使い道は、EP Boosterのレビューで整理しています。
トーン・イコライザー:音量を揃えて比べる
トーンも同様に、最大値と最小値でキャラクターがどう変化するかを見ます。トレブル・ミドル・ベースと帯域が分かれているものもあれば、トーン1つで一括操作する仕様のものもあります。
ここで、多くの人が引っかかる罠があります。
イコライザーは上げ方向に回すほどその帯域が際立ち、同時に音量も大きく聞こえます。反対に下げ方向へ回すと音量も下がって聞こえる。そして人間は、ふたつの音色を聞き比べた際に、音量が大きい方をより良い音だと判断する傾向があります。
つまり、トーンを上げた状態は無条件に良く聞こえます。
トーンを上げた際にはボリュームを下げ、トーンを下げた際にはボリュームを上げる。 これでキャラクターの変化を公平に見られます。この一手間を入れるかどうかで、試奏の精度はかなり変わります。
イコライザーそのものの効き方を体系的に掴んでおきたい場合は、BOSS GE-7の記事が参考になります。
スイッチとピッキングの反応を見る

音作りの範囲が掴めたら、道具としての挙動を確認します。ここを飛ばすと、買った後の運用でつまずきます。
ON/OFFスイッチの挙動
見るポイントは4つです。
- エフェクトをONにしたときに「バツっ!」というノイズが入るか
- 全てのツマミを12時にした状態で、OFF時との音量差がどの程度あるか
- 踏み心地は軽いか重いか
- 踏み込みに引っかかりがあるか
この4つで、そのエフェクターの運用方法が決まります。ポップノイズが大きく踏み心地も重い機種は、曲中で頻繁にON/OFFする使い方には向きません。かけっぱなしで使うか、スイッチャーを導入するかという判断になります。逆にノイズがなく軽く踏めるなら、細かい切り替えを前提にした組み方ができます。
音の良し悪しではなく、システムの組み方に直結する項目です。
入力した音をどう処理しているか
最後に、ピッキングの強弱に対する反応を見ます。強く弾いた時と弱く弾いた時で、歪み量に変化があるかどうか。
ここは優劣ではなく、性格の違いです。
変化量が少ないタイプは、表現力が少ないと言われる一方で、サウンドが安定しているとも取れます。バッキングで音量と歪み量を一定に保ちたい場面では強い。
また、サステインも長くなるので表現力がないと判断するのは勿体ないです。
変化量が多いタイプは、表現力が豊かと言われる一方で、コントロールがシビアであるとも取れます。手元でクリーンまで戻せる代わりに、雑に弾くと音が破綻します。
また、サステインは短いのでロングトーンは苦手です。
このバランス感が、使いやすさに直結します。コンプ感とも言われる部分です。自分の演奏スタイルがどちらに合うかは、店頭で実際に弾き分けてみないと分かりません。
対比の例としては、OD-3がコンプ感の強い安定型、BD-2がニュアンス追従型です。この2機種を並べて弾くと、違いが一発で分かります。

ブーストスイッチ・ミニスイッチ
追加スイッチが付いている機種は、その効果も確認します。
ブーストスイッチであれば、ブースター単体で使用できるか、ブースターとエフェクトの接続位置を入れ替えることができるか。ここまで確認しておくと、対応力の幅が見えてきます。
ミニスイッチには機種ごとに様々な効果が割り当てられています。変化するのがゲインなのか、音量なのか、帯域なのか、そもそものキャラクターごと変わるのか。ON/OFFしながら確かめてください。
ここを言語化できると、実際の運用で適宜使い分けられます。 「なんか音が変わる」で止めておくと、結局スイッチを触らないまま使うことになります。
歪みのブレンド比率そのものを変えるOS-2のような機種は、この確認の重要度が特に高い部類です。
試奏の精度を上げる、持ち込みという選択肢

ここまでの項目は、店頭の環境だけでも確認できます。ただ、精度を上げる方法が2つあります。
ひとつは、いつも愛用しているエフェクターを隣に並べること。 差が分かりやすくなります。人間の耳は絶対値の判定が苦手で、比較になると急に精度が上がるからです。基準がひとつあるだけで、聞こえるものが変わります。
もうひとつは、自分の楽器も一緒に持ち込むこと。 ピックアップの出力もアウトプットの帯域も機種ごとに違うので、店頭のギターで確認した挙動が自分の環境でそのまま再現されるとは限りません。特にピッキングへの反応は、楽器が変わると印象が大きく変わります。
両方は大げさに感じるかもしれませんが、数万円の買い物をするかどうかの判断です。持ち込みを断る店はまずありません。
楽器店から見た「良い試奏客」

筆者は過去に楽器店に携わっていたので、試奏される側にも立っていました。その視点から、店頭での立ち回りについて書きます。
これは店に気を使えという話ではありません。次に自分が良い買い物をするための立ち回りです。
見られているのは腕前ではない
試奏は練習ではありません。そして店員は、上手いかどうかを見ていません。
見ているのは、自分の演奏ではなく商品に目が向いているかどうかです。ツマミを回して耳を澄ませている人と、フレーズを流暢に弾いている人とでは、伝わる本気度がまるで違います。前者には自然と店員が話しかけますし、話が具体的になります。
冒頭に書いた「出音にフォーカスする」は、判断精度を上げるためのものであると同時に、店との関係を良くする振る舞いでもあります。
買わない場合の断り方を、先に決めておく
試奏を躊躇する理由の大半は、断りづらさです。ここを先に用意しておくと、気持ちがかなり楽になります。
そもそものキャラクターが好みでなかった場合
「ちょっと難しくて、使いこなせそうにないですねー」
そこそこ良かった場合
「好きな音でした。検討させていただきます」
脈ありなのか脈なしなのかは、ハッキリさせた方がいい。曖昧に濁されるのが、店側としては一番困ります。
そして断るときのポイントは、商品ではなく自分を下げることです。
使いこなせそうにない、難易度が高い、自分にはまだ早い。この方向で去った方が、謙虚な印象になります。
「ここが好みじゃない」「音が抜けない」と商品のネガティブポイントを挙げて断ると、印象は良くありません。
なかなか良かったけれど、価格やタイミングで折り合いがつかない場合。
ここでは予算と合わないことを伝えない方がいいです。
「じゃあ試奏しないでくれよ」と思われかねません。
そのエフェクターが好きであることを伝えて、検討させてもらいますと言って去る。
それで十分です。
悪質だと判断されると、試奏自体を断られる可能性もあります。
店にとって無害な客に映るように行動するのが、結果的に自分の得になります。
信用は「買った実績」で積み上がる
合わないものを買う必要はまったくありません。ただ、本当に良いと思ったものは、そのお店で買ってください。この実績があるかどうかで、次からの試奏や相談のしやすさが変わります。
とはいえ、価格の問題は現実にあります。そこで提案があります。
通販3、店舗1くらいの割合で構いません。 試奏の場として利用している店舗があるなら、そのうち何回かはその店で買う。それだけで関係は成立します。
そして中古在庫を買うのでも十分です。 むしろ新品より中古の方が利鞘が取れている場合がほとんどなので、店からすれば中古が売れるのは大変喜ばしいことです。新品はネット、中古は店舗、という使い分けをしても構いません。
手放す際も、フリマサイトではなく店舗の買取を利用すると、その店舗をより利用しやすくなります。買取と販売の両方で顔を出している客は、店にとって明確に価値のある存在です。
試奏の場として使わせてもらう以上、お互いにWIN-WINの形を取りたいところです。
試奏チェックリスト
店頭で使えるようにまとめてみました。
準備
- 前の人の設定をリセットする
- エフェクトOFFで自分好みのクリーンを作る
- 可能なら愛用エフェクター・自分の楽器を持ち込む
キャラクター
- 単音ローポジション/ハイポジション
- コード/パワーコードの塊感
- カッティング/ブリッジミュートの音切れ
ツマミ
- ゲインレンジの広さ/変化ポイント/両端の歪み加減
- レベル最大値の余裕(ブースター適性の判定)
- トーン最大・最小(音量を揃えて比較する)
道具として
- ON時のポップノイズ
- 全ツマミ12時でのバイパスとの音量差
- 踏み心地
- ピッキング強弱への追従(コンプ感)
- ブースト/ミニスイッチで何が変わるか
まとめ
- 試奏は演奏の場ではなく、挙動を確認する面接の場
- 意識を演奏ではなく出音に向けることが、判断精度と店の信用の両方に効く
- エフェクトOFFで自分のクリーンを作ることが、すべての比較の基準
- トーン比較は音量を揃えて行う。人は音量が大きい方を良い音だと判断する
- 最低ゲインとレベルの余裕で、ブースター適性は購入前に判定できる
- 買わない場合は商品ではなく自分を下げて断る。良かったものはその店で買う
次の試奏では、弾き始める前にアンプのツマミを一度リセットするところから始めてみてください。
スタートが変わるだけで、聞こえてくるものが変わります。

























