チャットモンチーは「ギタリストの教科書」である。ギター的注目楽曲、橋本絵莉子風の音作りを徹底解説

クリエイティブでキャッチ―、それでいて本格的。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
さて、皆さんは「チャットモンチー」というバンドを覚えていますか?
2018年に「完結(解散?)」してから既に7年が経ちますが、今年2025年にメジャーデビュー20周年を迎え、改めてその偉大さが語られています。
単なる「ガールズバンド」という枠には収まりきらない、あまりに独創的で、かつ音楽の基礎が詰まった音楽性。
結論から言うと、チャットモンチーはギターリストにこそ触れて欲しい「生きた音楽の教科書」です。
人生で最も聴いたアルバムは間違いなくチャットモンチーの「生命力」だと自信を持って言える筆者が、特にキャッチーさとソリッド感のあったスリーピース期を中心にギターリストとしての視点で紹介していきます。



3つの個性が混ざり合う「歌詞」の三位一体
チャットモンチーが他のバンドと一線を画していた最大の理由は、「作詞をメンバー全員が行う」というスタイルにあります。
作曲はギターボーカルの橋本絵莉子さんが一手に引き受けていましたが、歌詞の書き手が変わることで、一つのバンドの中に全く異なる「温度感」が同居していました。
まずは楽曲を聴きながら世界観に触れていきましょう。
内省的で抽象的な「橋本絵莉子」
橋本さんの書く歌詞は、自分の内側を深く掘り下げるような、抽象的でヒリついた表現が特徴です。『恋愛スピリッツ』や『橙』のように、言葉にできない感情を音像化する力があります。
等身大で遊び心のある「福岡晃子」
ベースの福岡さんの歌詞は、日常の切り取り方が非常にキャッチーです。『女子たちに明日はない』のように、ポップで軽やか、かつ女性のリアルな視点が光ります。これは料理で言えば、素材の味を活かした絶妙なスパイスのような役割です。
文学的でストーリー性のある「高橋久美子」
ドラムの高橋(現在は作家・作詞家として活動)の歌詞は、一篇の短編小説を読んでいるような物語性があります。『サラバ青春』や『バスロマンス』のように、情景が鮮やかに浮かぶ描写力は、バンドの作品に圧倒的な「奥行き」を与えていました。
橋本絵莉子のギターに「基礎」と「非凡性」を学ぶ
ギタリストとしての橋本絵莉子さんは、まさに「センスの塊」です。
特定のジャンルのコピーに終始した形跡がなく、非常に独創的なフレーズを量産しています。
「引き算」ができるギタリスト
3ピースバンドという制約上、普通は音を詰め込みたくなりますが、彼女はあえて「弾かない」という選択ができます。
これは本能的に音楽を読む嗅覚が鋭いのか音楽的なリテラシーの高さからくるのかわかりませんが。必要な場所だけ鳴らし、間を作る事で楽曲の魅力を最大限に引き出しています。
ベーシックなテクニックの宝庫
独創的でありながら、実はコードストローク、カッティング、アルペジオといった基礎が恐ろしいほどしっかりしています。つまり特別なテクニックは使っていないのに一聴してその人だと分からせる力がある。
筆者も初心者の頃、彼女のギターをコピーしまくっていたおかげでエレキギターの基礎的なテクニックを一通り身につける事ができました。
最も影響を受けたギタリストの一人であることは間違いないです。
ギタリストに聴いてほしい3曲
ここからは、ギタリストにこそ聴いてほしい3つの名曲を紹介します。
『ハナノユメ』:楽曲展開の教科書
衝撃のデビュー曲です。この曲の凄さは、「セクションごとの役割分担」にあります。
イントロ: キャッチーな単音フレーズでリスナーを掴む
Aメロ: 白玉(音を伸ばす)で歌を聴かせる
Bメロ: ブリッジミュートで溜めを作り期待感を煽る
サビ: 開放感のあるコードストロークで爆発させる 特別な技術は使っていませんが、この「盛り上げ方のロジック」は全ての自作アーティストが参考にすべき流れです。
ライブ版でのアレンジ、プレイ、サウンドも是非
『染まるよ』:ミニマリズムの極致
音数が極めて少ない、張り詰めた空気感が漂う名曲です。
ここでは「音色」と「ダイナミクス」が重要になります。一音一音をどれだけ大切に響かせるか。実際にプレイしてみると、その緊張感に圧倒されるはずです。
サビで一気に感情を解放するカタルシスは、まさに「ハート」と「技術」が融合した瞬間です。
『真夜中遊園地』:最高難易度のアトラクション
ギタリストに最も聴いて貰いたいのがこの曲です。というかこの曲のライブ映像がアップされたからこの記事を書いてます。
最大の特徴はAメロのディレイトリック。付点8分ディレイを使い、実際には弾いていない音を補完して複雑なリズムを構築しています。
よくある付点8分ディレイのフレーズは8分音符を隙間なく詰め込んだフレーズに対してディレイを重ねることで16分音符で場を埋め尽くす様なものがポピュラーです。
が、この曲のディレイトリックは緩急がありアイディアとして非常に面白くソリッドな曲調を彩るイルミネーション的な役割を担っています。
更にベースに背中を預ける様にワンポジションで演奏する疾走感のある間奏、長尺のキメ、染まるよで見せたようなミニマルなフレーズ、何の変哲もないのに特徴的なコードストローク。
ここまでバラエティに富んでいながらほぼ変わらないコード進行。
チャットモンチーの作品群の中でもひときわトガった傑作です。
橋本絵莉子っぽい音作り
チャットモンチーのサウンドの核は、「タイトなバッキング」と「エッジの効いたリード」です。 かなりソリッドなんですよね。
彼女のメイン機材であるテレキャスターと、コンボアンプの組み合わせが基本となりますが、現代の機材でそのエッセンスを再現するなら、以下の3つのエフェクターが「鉄板」です。
1. BOSS / BD-2W (Blues Driver)
橋本絵莉子サウンドの「心臓」とも言えるのがブルースドライバーです。
彼女は長年、KeeleyモディファイのBD-2を愛用していましたが、今手に入れるなら「技 WAZA CRAFT」シリーズのBD-2Wが最適解。
ピッキングの強弱に極めて敏感で、透明感を保ちつつもガツンと前に出るあの「ジャキッ」としたクランチは、このペダルが適任。
Cモードがおすすめです。
2. ProCo / RAT2
『恋の煙』のソロや、轟音系のフレーズで聴ける「粘りのある歪み」はこれ。
ディストーションでありながら、フィルターを絞ることでファズに近い太いサウンドも作れます。
テレキャスターの細い高域を太く補正し、耳を突き刺すような、それでいてどこか温かいリードトーンを生み出す、彼女のボードに欠かせない「暴れ馬」です。
3. BOSS / RE-2 (Space Echo)
チャットモンチーのサウンドに幻想的な奥行きを与えているのが、名機「スペースエコー」です。
彼女はかつて大型のRE-20を使用していましたが、現在はコンパクトサイズのRE-2が登場しています。
『真夜中遊園地』のようなディレイトリックや、ソロ時に奥行きをちょい足しする様な用途で使用。
単なる遅延音ではなく、独特のテープの揺らぎが加わることで、チャットモンチー特有の「切なさ」を演出できます。
DD-8のTAPEモードやDD-3Tでも良い雰囲気が出ると思います。
まとめ:チャットモンチーを掘り下げるということ
歌詞の多様性: 3人の視点が混ざり合うことで、誰にでも刺さる「共感の網」を広げている。
ギターの独創性: 基礎を大切にしつつ、既存の型にハマらない「自分だけの音」を鳴らしている。
アンサンブルの妙: 3ピースという最小単位で、宇宙のような広がりを見せる構成力。
チャットモンチーの魅力を語ろうと思えばいくらでも語れますが今回はギターリスト視点で紹介させていただきました。
あなたの音楽ライフが、もっと自由に、もっとキャッチーに彩られることを願っています。










