「名前がダサい」「店員の押し売りがすごい」──そんな評判で知られるギターブランド、HISTORY(ヒストリー)。
ネット上では何かとネタにされがちだが、実際のところ、その品質と完成度は想像以上に高い。
先に断っておくが、筆者は島村楽器の関係者でもなければ、常連客でもない。
もちろん、HISTORYの記事を書いたところで島村楽器から報酬をもらえるわけでもない。
ただ単に、「Historyは、普通に良いギターなんだよ」という事実を共有したいだけだ。
筆者個人の「欲しいギター紹介」ではなく、
あくまで「HISTORYはおすすめできる国産ブランドだ」という視点で、冷静にその魅力を掘り下げていく。
※欲しいという想いもあるが
この記事を読めば、なぜHISTORYが“地味だけど良いギター”と評価されるのか、そして中古市場でなぜ今こそ狙い目なのかが分かるはずだ。
HISTORYとは
HISTORY(ヒストリー)は、全国展開する楽器店「島村楽器」が展開するオリジナルの国産ギターブランド。
1990年代後半から展開され、製造は日本屈指のギターファクトリーであるフジゲン(FUJIGEN)、ダイナ楽器が担当している。
量産モデルでありながら、全数検品や徹底したセットアップを経て出荷されるのが特徴で、国産ブランドの中でも品質の安定性が群を抜いている。
また、全体的にクセの少ない設計思想で、どんなジャンルにも対応できる「万能型ギター」としても知られている。
サークル・フレッティング・システムとは
フジゲン製HISTORYの代名詞的な技術が、サークル・フレッティング・システム(Circle Fretting System / C.F.S.)だ。
通常のギターは、フレットがネックに対して直線的に打たれている。
一方、C.F.S.ではフレットをわずかに円弧状(サークル状)に打ち込む構造になっている。
この設計によって、弦とフレットの接地角度がより垂直に近づき、
結果として
各弦・各ポジションでのピッチの安定性が向上
コードを鳴らしたときの濁りが減少
サスティンと音抜けが改善
といった効果が得られる。
実際、レコーディング時に「コードの響きが揃いやすい」という事で採用しているプレイヤーも多い。
一方で「効果が分かりにくい」「プラシーボでは?」という意見もあり、プレイヤーの感覚によって評価が分かれる技術でもある。
ちなみに筆者はフジゲンのプライベートブランドFGNのギターを過去に所有していたことがあったがそれにもサークルフレットが採用されていた。
実感としてコードの響きはかなり安定していたし、それと比較してUSA製のFenderはオクターブピッチを合わせていてもややルーズ且つワイルドな響きに感じた。
一度フジゲン製の楽器に慣れてしまうと他社製の楽器はピッチがやや甘く感じてしまう。
良くも悪くもプレイヤーの耳を鍛えてしまう楽器とも言える。
HISTORYの強みはコスパと安定性
特に10万円を超えるグレードになると、品質は国産ブランドの中でもトップクラス。
同価格帯の日本製FenderやEpiphoneと比べても、外れ個体を引くリスクが極めて少ない。
HISTORYの上位モデルは、フジゲン(FUJIGEN)によって製造されている。
フジゲンといえば、Ibanezの上位モデルを製造している事でも知られているが
過去には
G&Lのプレミアムシリーズ
MUSICMANのEXシリーズ
Fender Japan
の製造も担当していたことで知られる老舗メーカーだ。
日本国内でも最高峰の生産技術を持ち、木材の乾燥や組み込み精度、最終セットアップの丁寧さは世界的に見ても高水準。
その技術がHISTORYにも惜しみなく注がれている。
フジゲン製のモデルに採用される
サークル・フレッティング・システム(C.F.S.)のおかげか、ピッチが安定していてレコーディングでも扱いやすい。
さらにフレットの仕上げやネックの安定性も高く、長期間使ってもトラブルが少ない印象だ。
新品はもちろん、中古市場でも「10万円以上のモデルで外れを見たことがない」という声は少なくない。
弾きやすさへの徹底したこだわり
HISTORYの上位機種では「エリートフィニッシュ」と呼ばれるフレット処理が施され、運指のスムーズさは驚くほど。
またネックシェイプはローポジションからハイポジションにかけて自然に変化する独自設計を採用しているモデルもあり、どのポジションでも無理なく演奏できる。
こうした細部への気配りが、初心者にもプロにも「弾きやすい」と言われる所以だ。
音のキャラクター|万能さゆえの物足りなさ
サウンドの傾向は「艶がある」「万能で扱いやすい」という評価が多い。
どんなアンプやエフェクターとも相性よく馴染むので、スタジオミュージシャンやサポートギタリストには強い味方だろう。
一方で「音に個性がない」「器用貧乏」と感じる人もいる。
USA製ギターの荒々しさや、ビンテージ特有のクセを求める人には物足りなく感じるかもしれない。
高コスパの理由を考えてみる
HISTORYのギターが「価格以上の品質」と言われる理由は、単に製造精度の高さだけではない。
背景を少し掘り下げてみると、構造的にコスパを高める要素がいくつも存在している。
1. 島村楽器のプライベートブランドであること
まず大きなポイントは、HISTORYが**島村楽器のプライベートブランド(自社ブランド)**であるということ。
通常、有名ブランドのロゴを付けるにはブランド使用料(フィー)が発生するが、HISTORYにはそれがない。
つまり、宣伝やブランドライセンスにかかる余計なコストを省ける構造になっている。
この分がそのまま品質や素材に還元されているため、同価格帯の他社製品よりも作りが良いと感じる人が多いのも納得だ。
2. 型数を絞った効率的なラインナップ
HISTORYは基本的にトラッドなモデル(ストラト、テレ、レスポール系)を中心に展開しており、極端な変形モデルや複雑な仕様は少ない。
型番が違っても、同グレード内ではボディやネックが共有設計になっているケースが多い。
この仕様統一によって製造効率が上がり、結果としてコストを抑えながら品質を維持することが可能になっている。
シンプルなモデル構成が、安定供給と価格バランスを支えているのだ。
3. 圧倒的な店舗数によるスケールメリット
島村楽器は全国に180店舗以上を展開する国内最大級の楽器チェーンだ。
当然、各店舗にHISTORYのギターが並ぶため、発注数そのものが膨大になる。
製造を請け負うフジゲンやダイナ楽器も自社ブランドを持っているが、HISTORY向けの受注数は桁違い。
その規模ゆえ、**大量生産によるスケールメリット(量産効果)**が働き、結果的にコストを下げられる。
もしかすると、工場の自社ブランド(FGNなど)と同等、あるいはそれ以上のコストパフォーマンスを実現している可能性もある。
少なくとも「割高なブランドではない」ことは間違いない。
4. 円安の中でも価格が安定している
最後に、為替の影響を受けにくい構造もHISTORYの強みだ。
FenderやGibsonといった海外ブランドは、円安が進むたびに価格が上昇している。
その点、HISTORYは国内生産・国内販売・商社を介さない流通で完結しており、中間マージンや為替リスクがほとんどない。
だからこそ、近年の円安局面でも価格が比較的安定している。
この「価格が上がりにくい構造」こそ、HISTORYが長年“高コスパブランド”として評価され続けている理由の一つだろう。
中古も狙い目
実は、中古のHISTORYは非常に狙い目だ。
「名前がダサい」「押し売りがすごい」といったネガティブな評価が蔓延している影響で、中古価格はかなり落ち着いている。
ものによっては定価から10万円以上安く販売されているケースも珍しくない。
もともと品質管理の精度が高いため、中古でもネックの状態が良い個体が多く、経年による劣化リスクも少ない。
この価格帯でこれほど安心して買えるブランドはなかなかない。
中古市場においても、HISTORYのコストパフォーマンスに対抗できるブランドはほとんど存在しないだろう。
逆に考えると売却価格もかなり落ち着く傾向があるため投資商品的な価値は低い。
出来れば長く愛用したいギターだ。
個人的な狙い目は中古10万円前後のレスポールタイプだ。
価格に見合わないクオリティを誇る個体が多い。
湖底の古木
中古を探す際に、ぜひ確認してほしいポイントがある。
それがヘッド裏の刻印表示だ。
もし「Heritage Wood」「Timeless Timber」「Aqua Timber」といったロゴが入っていれば、それは特別な個体。
大昔に伐採された木材が輸送中に湖に沈み, そのまま長期間、空気の遮断された湖底に眠っていたものを引き上げて乾燥させた古木材が使用されている。
この木材は、伐採当時で樹齢200年以上、さらに湖底で70〜250年もの時間を過ごしてきたといわれる。
長い年月を経て不純物が抜け、木材の密度が高まり、振動伝達の良い理想的な状態になっている。
実際、この材を使用したモデルは倍音が豊かで、芯のある艶やかな響きを持つと評判だ。
まさしく「History(歴史)」の名にふさわしい、時を超えたロマンを感じられる一本である。
エントリークラスのPerformanceシリーズ
現行のHISTORYの中でも、もっとも身近なラインがPerformanceシリーズだ。
海外製造(主に中国)にすることで価格を抑えつつも、国内で品質管理をすることで弾きやすさと信頼性を両立したモデルで、初めての1本として選ぶ人も多い。
弾きやすさ重視の設計
ネックはCとUの中間形状で、自然に手になじむグリップ感。
マット仕上げのため、長時間弾いても手に張りつかず滑らかに動かせる。
フレットは角を丸めたラウンドエッジ仕様で、指運びがスムーズ。
さらにハイポジションの演奏を快適にするEasy Accessジョイント構造を採用している。
サウンドの幅も広い
専用開発のピックアップにより、クリーンからロックまで幅広く対応。
HST(ストラトタイプ)ではブレンダーノブでシングル〜ハムバッカーの中間音を作れる。
HTL(テレタイプ)はプッシュ/プル式スイッチで出力を切り替え、ソロにも強い。
長く使える安心設計
ジャック部には緩み止めのノルトロックワッシャーを採用し、断線トラブルを防止。
保証は3年間と長めで、全国の島村楽器でサポートを受けられる。
専用ギグバッグも標準付属だ。
手に取りやすい価格帯
価格はおおよそ8〜9万円台(税込)。
中古だと5~7万円程度で取引されている。
海外工場製ながら設計・品質管理は国内で行われ、コストを抑えながらも作りはしっかりしている。
「初めてのエレキを買う」「2本目に信頼できる1本を持ちたい」──
そんなプレイヤーにとって、最初の“本格的なエレキギター”としておすすめできるシリーズだ。
まとめ|「ダサい」名前の裏に隠れた堅実さ
HISTORYは派手さやブランドイメージで勝負するメーカーではない。
むしろ「安心して弾けるギター」「外れを引きたくない人向けのギター」として独自の価値を持っている。
現在は~10万円位のモデルはダイナ楽器
上位モデルはフジゲンが製造を担当しており
いずれも高品質で同価格帯の楽器に引けを取ることはまず無いだろう。
名前がダサいとか、押し売りがすごいとか、そんなネタで語られることも多いが──実際に手にした時に感じる安定感や安心感は、本当に大きい。
「変に尖った個性は要らない、安定して良い音を出してくれるギターが欲しい」という人には、間違いなく勧められるブランドだと思う。
島村楽器に立ち寄った際は押し売り覚悟で試してみて欲しい。