【BOSS FZ-1Wレビュー】技クラフトが送るファズ沼への入口

ファズという「暴れ馬」を、名馬に変える手綱がここにある。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
新潟の冬の寒さも厳しくなってきましたが、みなさんのペダルボードは熱気を帯びていますでしょうか?
さて、ギタリストなら一度は憧れ、そして絶望するのが「ファズ」というエフェクターです。
「ジミヘンのあの音が欲しい!」と意気込んで買ったものの、繋いでみたら「ブチブチ言うだけ」「バンドで音が埋もれる」「ラジオのノイズを拾う」……。
挙句の果てには「あれ?これ壊れてる?」と疑心暗鬼になり、結局クローゼットの肥やしになる。
これは誰もが通る道です。これを「ファズの洗礼」と呼びます。
結論から言うと、BOSS FZ-1Wは、そんな「ファズの理不尽さ」を工学的に解消し、美味しいところだけを抽出した、現代におけるファズの最適解です。
今回は、なぜこのペダルが初心者の「ファズ恐怖症」を克服し、玄人を唸らせるのか、そのロジックを徹底解説します。



技(WAZA)CRAFTが目指した「究極のアナログ」

まず前提として、BOSSの「技(WAZA)CRAFT」シリーズが何なのかを整理しておきましょう。
これは単なる「高級版BOSS」ではありません。
通常、BOSSのコンパクトエフェクターは大量生産とコストダウンのために電子スイッチや汎用ICチップを使用しますが、技シリーズはディスクリート回路(ICを使わず、個別のパーツを組み上げる手法)を基本としています。
これにより、信号の純度が上がり、ピッキングに対するトランジェント(音の立ち上がり)の追従性が飛躍的に向上します。
FZ-1Wにおいて、BOSSはこの技術を「ヴィンテージファズの再解釈」に使いました。
ただ昔の回路をコピーするのではなく、「なぜ昔のファズは音が良かったのか、そしてなぜ使いにくかったのか」を解析し、BOSSの技術力で再構築したのです。
シリコントランジスタが生む「安定」と「攻撃性」

ファズには大きく分けて「ゲルマニウム」と「シリコン」の2種類のトランジスタが使われます。
ヴィンテージ崇拝者はゲルマニウムを好みますが、これには致命的な弱点があります。それは「温度変化に弱すぎる」こと。
夏と冬で音が変わるなんてザラです。
FZ-1Wでは、あえてシリコントランジスタを採用しています。
シリコン採用のメリット
| 特徴 | ゲルマニウム | シリコン(FZ-1W) | メリット |
| 温度特性 | 非常に不安定 | 極めて安定 | 環境を選ばず、常に狙った音が出せる |
| ゲイン量 | 低め〜中程度 | 高め | 現代的なハイゲインサウンドもカバー可能 |
| 音の傾向 | 丸く、温かい | エッジが鋭い | バンドアンサンブルで埋もれない |
BOSSのエンジニアリングチームは、シリコン特有の「安定性」を確保しつつ、回路チューニングによってゲルマニウムのような「有機的な弾力感(サグ感)」を再現することに成功しています。
つまり、「メンテナンスフリーで、いつでも最高のヴィンテージサウンドが出る」**という、夢のような状態を作り出しているのです。


モード切替がもたらす「二面性」

FZ-1Wには、背面のスイッチなどではなく、堂々とメインパネルにモード切替スイッチがあります。
これにより、1台で全く異なる2つのキャラクターを使い分けることが可能です。
V(ヴィンテージ)モード
60年代の伝説的なファズ(Fuzz Face系など)を彷彿とさせるサウンドです。
特徴は、きらびやかさと粗さが同居するトーン。
ギターのボリュームを絞った時の反応(鈴鳴り、クリーンナップ)が秀逸で、手元の操作だけでクリーンからリードトーンまで行き来できます。
「歪ませる」というより、「アンプを飽和させる」感覚に近いです。
M(モダン)モード
現代の音楽シーンに合わせてチューニングされたモードです。
ヴィンテージモードよりも中低域(ローミッド)が持ち上げられ、ゲインも高めに設定されています。
ファズ特有の「音が引っ込む現象」を防ぎ、ディストーションのように太く、サステインの長いリードサウンドが得られます。
「ファズの質感は好きだけど、ソロで音が細くなるのは嫌だ」という現代っ子にはこちらが最適です。
他のファズペダルとの比較

市場には数多くのファズがありますが、FZ-1Wの立ち位置を明確にするために以前当ブログで紹介したファズペダルと比較してみましょう。
vs Little Fuzzy Drive (E.W.S)※オペアンプ回路

Little Fuzzy Driveはオペアンプ回路を採用しています。これはディストーションに近い「整った歪み」が得られやすいのが特徴。
対してFZ-1Wはトランジスタ回路。より野性味があり、ピッキングの強弱に対する「暴れ方」がリアルです。
「使いやすさ」ならLittle Fuzzy Drive、「ファズらしい弾き心地」ならFZ-1Wでしょう。
vs BOSS FZ-5※デジタル回路

FZ-5はCOSM技術(デジタルモデリング)を使用したペダルです。Fuzz Face、Maestro、Octaviaという3つの名機をモデリングしており、音のバリエーションは多いです。
しかし、デジタルゆえに、ギター側のボリュームを絞った時の「吸い付くような反応」やアナログ特有のノイズ感などは、完全アナログ回路のFZ-1Wに軍配が上がります。
「いろんな音を出したい」ならFZ-5、「本質的なファズ体験をしたい」ならFZ-1Wです。


よくある質問(Q&A)
Q. 初心者ですが、扱いきれますか?
A. 「操作」は簡単ですが、「乗りこなす」には慣れが必要です。
ヴィンテージファズにあるような「繋ぐだけでノイズが出る」「機嫌で音が変わる」といったトラブルは皆無なので、「最初の1台」としては間違いなく最適です。 ただし、ファズ自体が「暴れる音」を楽しむエフェクターなので、オーバードライブのように綺麗にまとまるとは限りません。その「思い通りにいかない面白さ」を楽しめるなら、最高の相棒になりますよ。
Q. バッファードバイパスだと音が悪くなりませんか?
A. むしろメリットです。
「ファズはトゥルーバイパスであるべき」という神話がありますが、FZ-1Wはプレミアム・バッファを搭載しており、OFF時の音痩せを防ぎます。また、前段にバッファが入っても音が崩壊しないよう設計されているため、ボードのどこに置いても機能します。


まとめ
BOSS FZ-1Wは、ファズという気難しいエフェクターを、現代の技術で「飼い慣らした」傑作です。
シリコントランジスタによる圧倒的な動作安定性。
2つのモードで、ヴィンテージのロマンと現代の実用性を両立。
ギターボリュームへの追従性で、表現力の幅が広がる。
BOSSクオリティの耐久性とノイズレス設計。
「ファズ沼」という言葉がありますが、FZ-1Wはその沼への入り口でありながら、同時に「上がり」にもなり得るポテンシャルを秘めています。
もしあなたが「ファズを使ってみたいけど、失敗したくない」と思っているなら、迷わずこれを選んでください。
あなたのギターライフが、この一台でより野性的で、表現豊かなものになりますように。
おまけ







