「時間が一瞬で過ぎた」「気づいたら夢中になっていた」。ギターを弾いていると、そんな感覚を味わうことがある。
あの集中と没頭の感覚、じつは心理学では“フロー体験”と呼ばれている。
「ただ趣味でギターを弾いているだけなのに、なんだか心がスッキリする」。
それ、ちゃんと理屈があるんです。
この記事では、ギター演奏と“フロー体験”の関係について、心理学の観点から解説していく。
ストレス解消や自己肯定感の回復にもつながる話なので、ちょっとした息抜きのつもりで読んでみてほしい。
ギターと「フロー体験」の意外な関係
フロー体験とは、心理学者ミハイ・チクセントミハイによって提唱された概念。
「完全に今この瞬間に集中していて、他のことが頭から消える状態」を指す。
ゲームやスポーツ、仕事でも起こるが、音楽演奏は特にフロー状態に入りやすいとされている。
その理由は、「集中」「挑戦」「技術」が同時に求められるからだ。
ギターを弾いているとき、こんな状態になったことはないだろうか?
気づいたら1時間以上経っていた
難しかったフレーズがやっと弾けて、テンションが上がった
雑念が消えて、音にだけ意識が向いていた
これらはすべて、フローのサインだ。
フローに入ると「ストレスが消える」ワケ
フロー状態になると、脳内でドーパミンやエンドルフィンといった神経伝達物質が分泌される。
これらは「快感」や「幸福感」と関係する成分で、ストレスを和らげる効果があるとされている。
つまり、「なんかギター弾いたらスッキリしたな…」という感覚は、脳がごほうびを出してくれている状態。
また、フロー中は自己評価や不安感を司る脳の部位が一時的に活動を弱める。
だから、「自分は下手だな」なんて考える暇がない。
演奏そのものに集中することで、自然とメンタルもリセットされるのだ。

「フロー状態」に入りやすいギターの弾き方
じゃあ、どうすれば意識的にフローに入りやすくなるのか?
以下の3つの条件を意識してみてほしい。
①「ちょっとだけ難しい」ことに挑戦する
簡単すぎても退屈だし、難しすぎても挫折する。
「頑張ればできそう」くらいの課題が、脳を最も集中させる。
例:
苦手なコード進行をテンポを落として練習
ゆっくりなギターソロを耳コピしてみる
②「時間を区切る」
30分だけ、15分だけ、でもOK。
集中しやすくなるし、「まだできそう」で終わることで次の練習のモチベにもなる。
③「評価を手放す」
上手く弾けるかどうかは気にしない。
「この音好きだな」「このフレーズ気持ちいいな」と感じることが大事。
評価より没頭。
フローを生み出す「環境づくり」も大事
フローに入りやすいかどうかは、練習内容だけでなく環境の整え方にも左右される。
プロの演奏家でも「弾く場所」や「空気感」によって集中力が変わるというのはよくある話だ。
以下に、フローを生み出しやすくするための環境要素を紹介する。
① 気温と湿度:快適さは集中力の土台
暑すぎたり寒すぎたりすると、どうしても意識がそっちに向いてしまう。
目安としては、室温20~24℃、湿度40~60%が快適とされている。
指先の動きにも関わる要素なので、エアコンや加湿器を使って整えるのは効果的。
② 照明:明るすぎず、暗すぎず
強すぎる蛍光灯や逆に薄暗い部屋だと、脳が刺激に反応して落ち着かなくなることがある。
やや柔らかめの間接照明やデスクライトを使うと、視覚的なストレスが減る。
部屋の明かりを落とすだけでも「よし、弾こう」というスイッチが入る人も多い。
③ 人の気配:ひとりの空間がベスト
「誰かに聞かれてるかも」と思うだけで、フロー状態には入りにくくなる。
なるべく一人になれる空間で練習するのが理想。
それが難しければ、扉を閉める、背中を壁に向けて弾くなど、“安全感”をつくる工夫が有効。
④ 姿勢:立つ? 座る?
集中しやすさに関しては、座って弾く方がフローに入りやすいという人が多い。
特に練習やソロ演奏では、座っているほうが余計な筋力を使わず、指や耳に集中しやすくなる。
ただし、「立って弾く方が気分が乗る」「リズムを取りやすい」という人もいるので、自分がリラックスできる方を選ぶのが正解。
⑤ 雑音と音響:静けさ or 心地よい響き
テレビの音
誰かの話し声
スマホの通知音
これらはすべて集中を妨げる要素。
無音 or 自分の音だけが響く空間が理想。
もし壁が薄くて音を気にしてしまう場合は、アンプのボリュームを絞るか、ヘッドホンを活用すると良い。
また、ちょっとだけ反響がある部屋(風呂場ほどでなくても)は、自分の音が綺麗に聴こえてモチベも上がりやすい。
筆者はマルチエフェクターにヘッドホンを繋いで練習する事も多いため、常に薄っすらリバーブをかけて気持ちのいい反響を再現している。

小さな快適が、大きな集中を生む
完璧な練習環境を整える必要はない。
でも、「ちょっと居心地がいい」「ちょっと弾きやすい」という状態が、結果的にフローを引き寄せてくれる。
「なんか弾きにくいな」と思ったら、自分の周りをちょっとだけ見直してみよう。
ギターとの時間が、もっと気持ちよく、もっと深くなるかもしれない。
本番で100%は出せない
「フロー状態は最高だ」「あの感覚で本番を迎えたい」──そう思う気持ちはよくわかる。
だが、現実には本番で100%の実力を出し切ることはほぼ不可能だと言われている。
緊張、雑音、環境の違い、人の目、ミスへの恐怖…。
どれもフローの邪魔をしてくる。
つまり、本番で出せるのはせいぜい普段の75~80%。
これが普通であり、前提と考えるべきだ。
練習での「フロー=バフ状態」と考えよう
フロー状態は確かに凄い。集中力、反応速度、記憶力、どれも一時的にブーストされる。
でも、それはあくまで一時的な“バフ”(対戦ゲームなどで一時的にパワーアップする事)に過ぎない。
ポケモンで言えば、「つるぎのまい」を何回も積んでるようなものだ。
トレモ(練習)中は強い。でも本番の一発勝負では、バフ状態に持っていける保証はない。
だからこそ、バフを前提にした練習では危険だ。
「今日はノッてるからこのテンポでOK」ではなく、
「75%の自分でも弾けるテンポ・精度・仕上がり」を目指しておく必要がある。
【ミニ解説】「バフ」って何?
ゲーム用語で「バフ」とは、キャラクターの能力を一時的に強化する効果
のこと。
攻撃力が上がったり、スピードが速くなったりする“パワーアップ状態”のことを指す。
たとえばポケモンで言えば、「つるぎのまい」や「りゅうのまい」みたいな技。
あれを使うと、次のターンからめちゃくちゃ強くなる。
ただし、それはずっとは続かないし、本番(対戦)ではうまく積めないことも多い。
ギターにおける“フロー状態”も、それと同じ。
集中力や反応速度が一時的にブーストされるけど、意図的に再現するのは難しい。
だからこそ、バフ状態だけを前提にするのではなく、ノーマル状態でも成立する練習が大事というわけだ。
練習で“フロー状態”に入っておく意味
本番ではフローに入れないかもしれない。
でも、練習中にフローを繰り返しておくことは非常に意味がある。
指や脳が「成功体験」を強く記憶する
音の感覚が身体に染み込む
ミスに強くなる(フローが切れても焦らない)
つまり、フロー状態の中で練習した経験が、本番での「安定した75%」を作る土台になる。
「100%出せないこと」を前提にした準備が、いちばん強い
「完璧に弾きたい」「練習どおりにやりたい」。
そう思うほど、本番でのズレが不安に感じられるもの。
だけど、最初から**「本番は75%」という前提で準備する**ことで、余裕が生まれる。
フロー状態での“最強の自分”を目指しつつ、
通常モードの自分でもギリ届く完成度で仕上げておくことが、本当に実力を出すコツだ。
Q&Aで記事の振り返り
Q. フロー状態って、結局どんな感覚?
A. 「時間を忘れて集中していた」「他のことが気にならなかった」そんな状態。ギターを弾いていると自然に起きることがある。
Q. フローに入るにはどうすればいいの?
A. 少しだけ難しい課題に取り組む、時間を区切る、評価を手放す。そういった工夫で入りやすくなる。
Q. フロー状態って本番でも使える?
A. 本番では入りにくい。だから練習中に活かすことが大事。バフ状態と思って割り切るのがコツ。
Q. 環境づくりはどこまで大事?
A. 実はかなり重要。快適な気温・湿度、適度な明るさ、人の気配がない空間など、細かい要素が集中力に直結する。
Q. 練習でフローに入る意味は?
A. 成功体験を強く記憶できる。脳と指にしみ込ませておけば、本番で“75%の力”でも十分に通用する演奏ができるようになる。
