マルチエフェクターの「フェンダー系アンプ」御三家をロジカルに使い分ける!

「フェンダー系」は、歴史の教科書ではなく「音響のパレット」として理解せよ。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
マルチエフェクターやアンプシミュレーターを買って、まずぶつかる壁。「Fenderタイプのアンプが多すぎて、違いがわからん」問題。
Tweed、Blackface、Deluxe、Twin……名前は知っているけど、実際の音響特性や使い分けの基準が曖昧なまま、「なんとなくクリーンならこれ」と選んでいませんか?
それは非常にもったいない。なぜなら、フェンダーアンプの系譜を知ることは、ギターサウンドの歴史そのものをインストールすることと同義だからです。
結論から言うと、「Tweed(ベースマン)」「Deluxe(デラリバ)」「Twin(ツインリ)」の3機種の回路特性とヘッドルームの違いさえ押さえれば、フェンダー系シミュレーターの9割は使いこなせます。
今回は、この「フェンダー御三家」を、感覚論ではなくロジックで解剖していきます。

ねえ、マルチエフェクターのアンプリストってさ、「US Clean」とか「Tweed 4×10」とか名前変えすぎじゃない?結局どれ使えばカッティングが抜けるのよ。

あら、私は名前なんてどうでもいいわ。ギターのボリュームを絞った時に「鈴鳴り」して、フルテンにした時に「咆哮」してくれるなら、それが正義よ。

二人とも感覚的すぎるぞ。アンプモデルの違いは、パワー管の種類(6V6か6L6か)と負帰還(ネガティブ・フィードバック)の量、そして整流回路によるサグ(Sag)感の差だ。ここを理解すれば、迷うことなんてない。
アンプシミュレーターにおける「フェンダー御三家」の正体
アンプシミュレーターにおいて、フェンダー系のアンプは無数に存在するように見えますが、基本的には以下の3つの回路特性(トポロジー)に集約されます。
Tweed(ツイード期):歪みやすく、ミッドレンジが豊か。
Deluxe(ブラックフェイス期 6V6):適度なヘッドルームとコンプレッション。
Twin(ブラックフェイス/シルバーフェイス期 6L6):圧倒的なクリーンとワイドレンジ。
これらは単に「歪むか歪まないか」だけの違いではありません。「タッチに対するコンプレッションの掛かり方」と「帯域のピーク」が決定的に異なります。
1. Tweed Bassman(ベースマン):歪みの原点にして完成形

シミュレーター上の表記例:Tweed 4x10 US Blues Bass 59 など
もともとはベーシストのために開発されましたが、ギタリストたちが「ボリュームを上げると最高に気持ちよく歪む」ことに気づいてしまった、伝説のアンプです。Marshallアンプの設計ベースになったことでも有名ですね。
- 音響特性:ブラックフェイス期のアンプに比べてミッドレンジがふくよかです。これはトーンスタック(EQ回路)の設計が後のモデルと異なるためで、中域が削れすぎず、太い音が前に出ます。
- 歪みの質感:「サグ(Sag)感」が強いのが特徴です。強い入力を入れると電源電圧がドロップし、音が一度潰れてから持ち上がるような、独特のコンプレッションと粘りが生まれます。デジタルシミュレーターでも、この「粘り」の再現度がクオリティの分かれ目になります。
- 使い所:クランチ~オーバードライブサウンド。ギター側のボリューム操作でクリーンから歪みまで行きたい人には最強の選択肢です。
2. Deluxe Reverb(デラックスリバーブ):ブラックフェイスの標準原器

シミュレーター上の表記例:Deluxe US Deluxe Black 1x12 など
1960年代中盤、いわゆる「ブラックフェイス」期の代表格。出力は約22Wと控えめで、パワー管に6V6を採用しているのがポイントです。
- 音響特性:Tweedに比べて「ミッドスクープ(中域が削れた)」サウンドです。これが俗に言う「ドンシャリ気味のきらびやかなクリーントーン」の正体です。
- 歪みの質感:6V6管は、6L6管に比べてヘッドルーム(歪まずに出せる音量の限界)が低いため、ボリュームを上げると比較的早い段階で歪み始めます。この歪みは粒が粗く、ジャリッとした暴れるような倍音を含みます。
- 使い所:歌モノのバッキングや、ブルース、ロック全般。適度なコンプレッション感があり、弾いていて「楽」に感じる(アラが目立ちにくい)のもこのタイプの特徴です。
3. Twin Reverb(ツインリバーブ):絶対的クリーンの要塞

シミュレーター上の表記例:Twin US 2x12 Silver など
大出力(85W~100W等)、パワー管に6L6を4本使用。とにかく「歪まない」ことを目指して設計されたアンプです。
- 音響特性:圧倒的なヘッドルームの高さ。どれだけ強く弾いても波形がクリップせず(歪まず)、トランジェント(音の立ち上がり)が高速で再生されます。低域もタイトで、ぼやけません。
- 歪みの質感:シミュレーター上でゲインをフルにしても、Deluxeのような「汚れた歪み」にはなりにくいです。その代わり、エフェクター乗りは抜群です。
- 使い所:ファンクのカッティング、ジャズ、またはエフェクターで音作りを完結させる場合の「大音量クリーンな土台(ペダルプラットフォーム)」として。
スペックと特性の比較まとめ
| 特徴 | Tweed (Bassman) | Deluxe (Deluxe Reverb) | Twin (Twin Reverb) |
| 歪みやすさ | ★★★★★ (歪む) | ★★★☆☆ (適度に歪む) | ★☆☆☆☆ (ほぼ歪まない) |
| 中域 (Mid) | 豊か・太い | スクープ (控えめ) | スクープ (控えめ) |
| 低域の質感 | ルーズ・暴れる | 適度にタイト | 非常にタイト・深い |
| コンプ感 (Sag) | 強い (粘る) | 中程度 | 弱い (速い・硬い) |
| 向いている奏法 | ブルースソロ、ロックリフ | ポップスバッキング、歌モノ | カッティング、ジャズ、メタル(※) |
※メタルギタリストがあえてTwinのモデリングを使い、前段のディストーションペダルで歪ませる手法は、低域の解像度を保つために有効です。

やっぱりTweedの「粘り」よね。チョーキングした時に音がグッと踏ん張ってくれる感じ、あれはサグのおかげだったのね。魂が震えるわ。

私はTwin一択だな。速弾きのレガートやタッピングをする時、アンプ側でコンプがかかりすぎると発音が遅れてリズムがヨレる。Twinの速いトランジェントと広いヘッドルームこそが正義だぞ。

アンサンブルで一番使いやすいのはDeluxeかな。歌の邪魔をしない程度に中域が抜けてて、カッティングも気持ちいい。実戦向きなのは結局「ちょうどいい」やつなのよ。
【応用Tips】キャビシミュ・IRで「Super Reverb」を錬成する

アンプシミュレーターの醍醐味は、実機では不可能な組み合わせを試せることです。
ここで一つ、通なFenderサウンドを作るためのTipsを紹介しましょう。それは「Super Reverb(スーパーリバーブ)」風サウンドの再現です。
Super Reverbは、Deluxe ReverbとTwin Reverbの中間のような出力で、最大の特徴は「10インチスピーカー × 4発」というキャビネット構成にあります。
12インチスピーカーに比べて口径が小さい10インチは、レスポンスが速く、低域がブーミーになりすぎず、高域のパンチがあります。
再現レシピ
アンプモデル:
Deluxe ReverbまたはTwin Reverbを選択。適度な歪みが欲しいならDeluxe、クリーンなパンチが欲しいならTwin。
キャビネットモデル (IR):
4x10 Tweedまたは4x10 Bassmanを選択。なければEQで100Hz以下を少しカットし、2kHz~4kHzあたりを少し持ち上げて「張り」を出します。
この組み合わせにより、「ブラックフェイス期のきらびやかな回路特性」×「10インチ4発のパンチとキレ」という、スティーヴィー・レイ・ヴォーン(SRV)も愛した極上のブルース・トーンに近づけることができます。
「Twinだと音が硬すぎるけど、Deluxeだと低音が散らばる」という悩みを持つ方は、ぜひキャビネット(IR)を「4×10」に変えてみてください。
よくある質問:あなたはどっち派?
Q. ジョン・メイヤーのような、太くて艶のあるクリーントーンを出したいなら?
A. Twin Reverb(またはTwo-Rock系のモデリング)が近道です。
ジョン・メイヤーのサウンドの核は、「大出力アンプのヘッドルームの余裕」から来る、歪む直前の極太クリーンです。
Deluxe系だと音が早く潰れてしまい、あの「パンッ!」と弾けるようなダイナミクスが出せません。Twin系のアンプモデルを選び、ゲインを上げすぎず、マスターボリュームを上げて(シミュレーター上の設定で)パワー管を働かせるイメージで作ると良いでしょう。
Q. 歪みエフェクターの乗りが良いのは?
A. クセのなさで言えばTwin、馴染みの良さならDeluxe。
Twinは周波数特性がフラットで広いため、エフェクターの個性をそのまま出したい場合に最適です(メタル系のディストーションなども含む)。
一方、DeluxeやTweedはアンプ自体に中域のクセやコンプレッションがあるため、TS系(Tube Screamer)などのブースターでプッシュした時に、アンプとペダルが一体となった有機的なドライブサウンドが得られます。
まとめ
フェンダー系アンプシミュレーターの選び方は、以下の3点に集約されます。
粘りと歪み、情熱的なリードなら「Tweed(Bassman)」
歌モノに馴染む適度なコンプ感と枯れたトーンなら「Deluxe(デラリバ)」
圧倒的クリーン、カッティング、またはペダルプラットフォームなら「Twin(ツイン)」
「なんとなくFender」を選ぶのではなく、「ヘッドルーム」や「サグ感」といった挙動をイメージしてモデルを選ぶことで、あなたの音作りは劇的に意図的で、説得力のあるものに変わります。

4×10インチのキャビに変えるテクニック、早速試してみよっと。こういう地味な工夫が楽しいのよね。

私はTwinモデルのサグ(Sag)パラメータをあえて下げて、ソリッドステート並みの反応速度にする設定がお気に入りだ。デジタルならではの改造だな。

ふふ、私はTweedのゲインをフルにして、ギターのボリュームを絞った時の「クリーンだけど少し汚れた音」で泣きのソロを弾くわよ。
あなたのギターライフが、歴史的名機たちのDNAを理解することで、より深く、自由なものになりますように。
おまけ









