BOSS SD-1Wレビュー|「公式上位互換」?SD-1と比較して分かった意外な真実

「進化」とは、時に「原点」の凄さを再認識する旅でもある。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
「SD-1(スーパーオーバードライブ)は最高だけど、もう少しレンジが広ければなあ」
「技クラフトのSD-1Wって、高いけど本当に値段分の価値あるの?」
そんな悩みを抱えて楽器屋で試奏しては、手ぶらで帰ってくる…なんて経験、ギタリストあるあるですよね。
結論から言うと、SD-1Wは「完全なる上位互換」ではありません。 むしろ、比較することで「オリジナルのSD-1って、やっぱ完成度高すぎだろ…」と絶望すら感じる、罪作りなペダルです。
今回は、あえてSD-1Wを買わずにSD-1を使い続けている筆者の視点から、この「技クラフト」の真価と、選び方の基準をガッツリ解説していきます。



SD-1W(技クラフト)とは?「解像度」という名の進化

BOSS SD-1W SUPER OverDrive 技 Waza Craftは、1981年の発売以来ロングセラーを続ける名機「SD-1」を、BOSSの熟練エンジニアが再構築したプレミアムモデルです。
最大の特徴は、オペアンプ(集積回路)に頼らず、ディスクリート回路(個別の電子パーツを組み上げる手法)で再設計されている点。 これにより、以下のような「基礎体力の向上」が図られています。
S/N比の向上: ノイズが減り、音がクリアになる。
レンジの拡大: 上下の帯域が広がり、音像が立体的になる。
レスポンスの高速化: ピッキングに対する反応速度(トランジェント)が鋭くなる。
単なる復刻ではなく、「現代の音楽シーンに耐えうるスペックに鍛え直したSD-1」と言えるでしょう。
スタンダードモード比較|高解像度は「正義」か?

SD-1Wには「スタンダード(S)」と「カスタム(C)」の2つのモードがあります。まずは、オリジナルの音を再現したスタンダードモードと、通常のSD-1(台湾製などの現行品)を比較してみましょう。
音の粒立ちと「シームレス」な反応
弾き比べて最初に感じるのは、SD-1Wの圧倒的な解像度の高さです。
オリジナルのSD-1が「ジャリッ」とした粗めの粒子感を持っているのに対し、SD-1Wは粒子が細かく、サステインの消え際まで非常に滑らか。
工学的に言えば、非対称クリッピングによる波形の崩れ方が、より緻密に制御されている印象です。
ピッキングの強弱に対して、SD-1が大雑把に「弱・中・強」で反応するとすれば、SD-1Wは「1〜100」のグラデーションでシームレスに追従してきます。
なぜ筆者はオリジナルSD-1を選んだのか?
ここまで書くと「じゃあSD-1Wの方が良いじゃん」と思うかもしれません。しかし、ここが機材の面白いところであり、「プラシーボ効果」ではないリアルな感覚の差がここにあります。
私は比較試奏した結果、買い替えをしませんでした。
理由は、SD-1Wが「綺麗すぎた」からです。
SD-1(オリジナル): 中域に独特の「もたつき」や「甘さ(コンプレッション)」があり、それがギターソロでの色気や、ミスの誤魔化しやすさに繋がる。
SD-1W(技・Sモード): レスポンスが良すぎて、プレイのアラが見えやすい。また、音が整理されすぎていて、あの特有の「泥臭い粘り」が薄まっている。
いわば、「高画質デジカメ(SD-1W)」と「味のあるフィルムカメラ(SD-1)」の違いです。ブルースやクラシックロックを弾く際、この「解像度の低さ」こそが心地よいフィルターとして機能する場合があるのです。


カスタムモードの衝撃|ブースターから「メイン歪み」へ

SD-1Wの真価は、もう一つの「カスタムモード(C)」にあります。これこそが、SD-1Wを買う最大の理由になり得るポイントです。
弱点だった「ローエンド」を克服
オリジナルのSD-1は、オンにすると低域(ロー)がバッサリとカットされ、中域(ミッド)に音が集まる特性があります。これがブースターとして優秀な理由ですが、単体でリズムギターを弾くと「スカスカで迫力がない」と感じる原因でもありました。
だからこそ用途が明確だったとも言えるわけですが。
カスタムモードでは、この低域の量感とゲイン量が大幅にアップしています。
「SD-1のキャラクターのまま、レンジを広げて音圧を稼いだ音」が出るため、マーシャル等のアンプをプッシュするだけでなく、クリーンアンプに繋いでメインのオーバードライブとして使うことも十分に可能です。
スペック比較まとめ
| 特徴 | SD-1 (オリジナル) | SD-1W (スタンダード) | SD-1W (カスタム) |
| 音の傾向 | マイルド、甘い、ナローレンジ | クリア、高解像度、タイト | ワイドレンジ、太い、ハイゲイン |
| 弾き心地 | 粘りがある、コンプ感強め | レスポンス速い、手元に忠実 | 音圧がある、サステイン長い |
| 主な用途 | 歪みアンプのブースター | ブースター、カッティング | 単体歪み、リード、バッキング |
| ノイズ | 普通 (ゲイン上げると乗る) | 少ない (ディスクリート設計) | 少ない |
| 価格 | 約8,800円 | 約19,800円 | (同左) |
よくある質問(Q&A)
Q1. 初心者ですが、最初の一台ならどっち?
A. 予算が許せばSD-1W、まずは体験したいならSD-1。
SD-1Wのカスタムモードがあれば、アンプがJC-120(ジャズコ)でも太いロックサウンドが作れます。オリジナルのSD-1は、単体で使うと「音が細い」と感じて挫折する可能性もゼロではありません。長く使うなら「潰しが効く」SD-1Wが安心です。
Q2. ジョン・メイヤーやクラプトンみたいな音を出したいなら?
A. あえてオリジナルのSD-1をおすすめします。
彼らのサウンドの肝は、枯れた味わいや中域のふくよかさにあります。SD-1Wのハイファイさよりも、オリジナルの持つ「少しレンジの狭い、温かい音」の方が、ブルースロックのニュアンスにはマッチしやすいでしょう。
Q3. メタル系のブースターとしてはどう?
A. どちらも優秀ですが、ジェント(Djent)系ならSD-1W。
多弦ギターやダウンチューニングで、低音をタイトに締めつつ解像度を保ちたいなら、SD-1Wのスタンダードモードの「反応の速さ」が活きます。逆に、80年代のLAメタル(ザック・ワイルド等)のような太いリードが欲しいなら、オリジナルのSD-1で十分です。
まとめ|SD-1の完成度を再確認する皮肉な結果に
SD-1Wは間違いなく素晴らしいペダルです。ノイズの少なさ、カスタムモードの実用性、プロ仕様のバッファ。どれをとっても現代のハイエンドペダルと渡り合えるスペックです。
しかし、それを弾くことで「約8,000円で買えるオリジナルのSD-1が、いかに完成された奇跡のバランスだったか」を思い知らされることになります。
どちらも魅力的なプロダクトではあるものの、それぞれ方向性の異なる魅力を持っていたというのが筆者の見解です。

BOSS/SD-1W
ディスクリート回路で再設計された後継機
2モード搭載、ローノイズ、高品質バッファ
SD-1Wがおすすめな人:
メインの歪みとしてもSD-1の音を使いたい人。
最新のデジタル機材やハイエンドギターと組み合わせたい人。
ピッキングのニュアンスを極限までコントロールしたいテクニカル志向の人。

BOSS/SD-1
1981年の発売以来、ロングセラーを続ける伝統のモデル
甘くマイルドなサウンドが特徴のブースター
SD-1(オリジナル)で十分な人:
真空管アンプのブースターとして割り切って使う人。
80年代ロックの「あの甘いトーン」が欲しい人。
コスパ重視でボードを組みたい人。



あなたのギターライフが、この黄色い箱とともに、より色鮮やかなものになりますように。







