コンプレッサーはエレキギターの音作りやレコーディングでほぼ必須といえるエフェクターの一つ。
しかし、「スレッショルド」「レシオ」「アタック」 などの専門用語が多く、ギタリストにとってはとっつきにくい印象もあるのではないでしょうか?
本記事では、そんなコンプレッサーの基本的な仕組みや主要なパラメーターを解説するとともに、スクイッシュ感など独特のコンプ用語にも触れながら、ギタリストが押さえておきたいポイントを紹介します。記事を通じて、コンプレッサーがぐっと身近に感じられるはずです。
コンプレッサーの基本的な仕組み
音量(ダイナミクス)をコントロール
コンプレッサーは、入力された音量が一定のしきい値を超えると、その部分を抑える(ゲインリダクション)仕組みを持つ。
ピークを抑える分、メイクアップゲイン(後述)で音量を底上げすれば、「全体的に音圧が上がったように」感じられる。
小さい音を持ち上げ、大きい音を抑える
演奏中の激しいダイナミクスを整え、耳に優しく、聴きやすいサウンドに仕上げられる。
スタジオ録音では定番の手法であり、ライブでも「音に一貫性を出す」ために重宝。
ギターの場合のメリット
カッティングやアタックの激しいプレイでも、耳障りなピークを減らし、演奏を安定させる。
ソロやリードではサスティンが伸びやすくなり、伸びのある音で演奏できる。
コードストロークではバラつきを抑え、バンドアンサンブルで安定した役割を果たす。
主要パラメーター・用語解説
1. スレッショルド(Threshold)
しきい値「コンプが働き始める音量のライン」を示す。
スレッショルドが低いほどほぼ常時”コンプがかかるようになり、音が潰れやすい。
スレッショルドが高いほど、ピークだけを抑える動作になるため、よりナチュラルな圧縮感。
実践ポイント
「ピークだけ抑えたい」→ スレッショルドは高め
「常に潰してスクイッシュ感を狙いたい」→ スレッショルドは低め
2. レシオ(Ratio)
圧縮比の設定
スレッショルドで定めた音量に対してどの程度の圧縮を加えるのかを設定します。
例)「4:1」の場合、しきい値を4dB超えた音は出力で1dBしか上がらない。
「2:1」前後は軽い圧縮感
「20:1」などはリミッター並み。
実践ポイント
クリーントーンのカッティング:2:1~4:1程度で軽めのコンプ
ロック・メタルのリード:6:1~8:1や、さらに高めでしっかり潰す
3. アタック(Attack)
コンプが音を抑え始めるまでの時間
アタックが速い(数ms): 弦を弾いた瞬間を瞬時に潰す→パーカッシブでタイト
アタックが遅い(数10ms以上): ピッキングの立ち上がりを残し、ナチュラルなアタックを再現
実践ポイント
カントリーのカッティングや速弾きフレーズ→アタック短めでスナップを抑える
バラードや表情豊かなリード→アタック長めでピッキングのニュアンスを生かす
4. リリース(Release)
コンプがかかり終わるまでの時間
リリースが長い→音がじわじわ回復する→サスティンが伸びる、ウォームな印象
リリースが短い→音が素早く回復→アタックの粒立ちが残り、パンチが出る
実践ポイント
ファンクカッティング:リリース短め→テンポに合わせてパキッと刻む
バラードのソロ:リリース長め→音が途切れず豊かな余韻を得る
5. メイクアップゲイン(Make-up Gain)
圧縮で下がった音量を持ち上げる
コンプレッション後の音量をブーストして、聴感上のレベルを整える。
上げすぎるとノイズも増幅されるため注意。
実践ポイント
スタジオではメーターを見ながら、どの程度ゲインリダクションがかかっているかを把握し、メイクアップ量を決める。
ライブでは耳で判断し、周りの音とのバランスを取りながら調整する。
6. ニー(Knee)
※ギター用コンプの話題ではあまり触れられることのないマニアックなステータスです。
スレッショルドを越える音量に対してどのようなカーブで圧縮をかけるか
ハードニー: スレッショルドを超えた瞬間にガツンとかかる→クッキリとしたコンプ感
ソフトニー: 緩やかにコンプがかかり始める→自然で耳障りになりにくい
実践ポイント
強烈なアタック感を演出したい場合→ハードニー
透明感やナチュラルさを重視→ソフトニー
7. サイドチェーン(Sidechain)
※こちらもギター用コンプの話題ではあまり触れられることのないマニアックなステータスです。
コンプレッサーがどの音源・周波数帯を検知するか
低域を過剰に検知しないようにするフィルター機能などがあると、ベースやキックの影響を減らせる。
EDMやポップスのミックスでは他楽器との連動も可能。
※ギター単体ではそこまで活用しないが、ハイエンドペダルには搭載されているケースも
実践ポイント
ギター用では「ベースフィルター」を入れて、低音の過剰なポンピングを防ぐ事例がある。
DAWでの録音時にプラグインのサイドチェーン機能を活用して、ベースやキックとの兼ね合いを調整することも。
8. スクイッシュ感(Squish)
強めのコンプレッションがもたらす“つぶれた粘り感”
DynaComp系などでは特に顕著で、カッティングやカントリーソロに“独特の味”が生まれる。
高いレシオ+低スレッショルド+速いアタックというパラメーター設定で、典型的な“スクイッシュ”を得やすい。
実践ポイント
ファンクの16ビートカッティング: スクイッシュ感を多めに→音の粒立ちとリズムのグルーヴを強調
メロウなコードワーク: スクイッシュ感は控えめ→自然なダイナミクスを活かす
各ステータスが音作りに与える影響
アタック/リリースによる表情の変化
音の“頭”が強調されるか否かで、リズムやフレージングのニュアンスが大きく変わる。
リリースの設定でサスティンが伸びるか、パキッと切れるかも大きく変動。
レシオでコンプ感の度合いをコントロール
2:1~4:1:軽くふわっとまとまる
8:1~20:1:ソリッドにまとまり、大きなダイナミクスをがっちり押さえ込む
スレッショルドが高いor低い
高い:ピークのみ制御 → より自然な中にも輪郭が明確なサウンド
低い:トータルで常に圧縮され続ける → スクイッシュ、ローファイ感
コンプレッサーの種類
オプティカル式
代表例:UAFX LA-2A
ゆったりした応答で、ウォームかつナチュラル。チューブサウンドと相性が良い。
ハイエンドエフェクターにも多く採用されている方式です。
OPT系といったものはここに該当します。
ノブが少なくシンプルなモデルが多いのも特徴
FET式
代表例:UAFX 1176
超速アタックでパンチがあり、歯切れの良いコンプが得やすい。ロック、ファンクに合う。
こちらもハイエンドモデルで多く採用されています。
FET系といったものはここに該当します
ノブが多いモデルが多く、コンプへの理解度が求められるモデルが多いのも特徴です。
VCA式
代表例:BOSS CS-3 / MXR Dyna Comp
広範囲な調整ができ、オールラウンダーな性能。汎用性が高い。
ギター用のエフェクターとしては最も馴染み深い種類のコンプレッサーです。
ダイオードブリッジ式
代表例:Neve 2254など
独特のカラーが強く、ヴィンテージサウンドを好む人に人気。
使用例として、クラシックなレコーディングの“太さ”や“粘っこさ”を再現。
※ハイクラスなスタジオ機器がこれに該当するためギターエフェクターという文脈ではほぼ話題になりません。
ハイエンドなコンプレッサーは様々ありますが
ウォームなオプティカル式
歯切れのよいFET式とではキャラクターが全くの正反対です。
この二種類の特性だけでも抑えておくと自身の目指す方向性にもマッチさせやすいかと思います。
また、VCA式はギター用としては定番のDynaComp、BOSS CS-3なども多いのですが
方式による個性というよりはモデルごとに個性がある印象です。
コンプを選ぶ際はオプティカル式かFET式かそれ以外
という風に考えた方が良いかもしれません。
オススメモデルは
伝説的なサウンドを味わえる
UAFX Teletronix LA-2A Studio Compressor
UAFX 1176 Studio Compressor
ハイテクデジタル技術の結晶
BOSS CP-1X
は間違いないです。
リーズナブルなものだと
Effects Bakery Plain Bread Compressor
なんてものまであるので
まずはお試しに使ってみてはいかがでしょうか。
実践的な使い方・セッティング例
カッティング(クリーントーン)
レシオ: 2:1~4:1(軽め)
スレッショルド: 中程度(不要なピークだけ抑える)
アタック: やや速め → 歯切れ良い刻み感
リリース: 短めでタイトさをキープ
ポイント: ファンク16ビートなど、音の粒立ちを明確にしたい場合はスクイッシュ感を狙っても良い。
FET系の得意とする設定の一つです。
リードギター(歪みサウンド)
レシオ: 4:1~8:1(中〜強め)
アタック: 遅め → ピッキングの勢いや表情を保つ
リリース: 長め → サスティンを稼ぎ、音を途切れさせない
メイクアップゲイン: 適度に上げ、音圧を確保
ポイント: バラードソロの場合はさらにリリースを長くして、伸びやかなトーンを演出する。
OPT系の得意とする設定の一つです。
コードストローク(アコギ/エレキ問わず)
レシオ: 3:1~4:1(中程度)
アタック: 速め → 急激なピークを均して和音がバラけないように
リリース: 中間くらい → パンチと自然な余韻のバランスを狙う
ポイント: アコギの場合は高域がキンキンしないよう、場合によってEQやサイドチェーンを考慮すると良い。
FET系の得意とする設定の一つです。
特に1176系と言われる機種にはサイドチェーンフィルターが装備されていることもあります。
コンプレッサー Q&A
Q. 「ポンピング」ってどんな現象?
A. 音量が脈打つように上下する現象です。
リリースを極端に短くしすぎると、コンプが解除された直後に再び音が入力され、“ぶわんぶわん”と不自然に音量が揺れてしまいます。
Q. 「アタックタイム」と「アタック感」は何が違うの?
A. 「アタックタイム」はコンプが潰し始めるまでの時間設定、「アタック感」はギタリストが感じる実際のピッキングの勢い。
アタックタイムを遅めに設定しても、強くピッキングすればアタック感は残るため、演奏スタイルとパラメーターが必ずしも直結しないということです。
Q. スクイッシュ感とローファイ感って関係あるの?
A. 強いコンプレッション(スクイッシュ)で中域が持ち上がり、高域や低域のアタックが削られると、少しローファイな印象を受けます。
ファンクやオールドスクールR&Bなどでは、逆にそれが「味」として喜ばれることも多いです。
Q. メイクアップゲインを上げるとノイズが増えるのはなぜ?
A. 圧縮によって下がった音量を引き上げるため、元々の回路ノイズや環境ノイズも一緒に増幅してしまうからです。
ノイズリダクションやアイソレート電源などで対策するか、過度なメイクアップを避けるのが得策です。
まとめ
コンプレッサーは「音のピークを抑えて全体を整える」というシンプルな役割ながら、パラメーター設定次第でサウンドは大きく変化します。
アタック・リリースをどう設定するかで、音の立ち上がりや余韻がガラッと変わる
スレッショルド・レシオの組み合わせで、軽い圧縮からリミッター級の潰し方まで自由自在
ニー(Knee)やサイドチェーンといったディテールにまで踏み込むと、より細やかな表現が可能
ギタリストとしては、カッティングでの粒立ちや、ソロでの伸びの良さなど、コンプの恩恵を日々感じられるシーンが多いでしょう。
ときにはファンキーなスクイッシュ感を強めにしてリズムを際立たせたり、また別の日にはナチュラルなセッティングで軽くピークを抑える程度にして演奏の幅を広げたり…
ぜひ、今回の各トピックを参考にしながら、コンプレッサーを取り入れ、じっくり使い込んでみてください。
音作りの視野が格段に広がることで、ギターの表現力を一段と高められるはずです。