PAC112じゃなくてPAC612を選ぶべき理由|ギター講師が本音で解説

「とりあえず安いやつで」が、ギターを辞める一番の原因だった。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
エレキギターを始めようとしている人が、まず最初にぶつかる壁があります。
「何を買えばいいか、分からない」
これは当然の話で、ギターの種類なんて星の数ほどあります。メーカーも、価格帯も、見た目も違う。検索すれば「初心者におすすめ10選」みたいな記事がわんさか出てきて、そのほとんどが2〜3万円台のギターを推しています。
でも筆者は、そのアドバイスに少し待ったをかけたいのです。



この記事では、YAMAHA PACIFICAシリーズの中でも特に「612」に注目して、なぜ初心者・入門者にこそこのギターを薦めるのかを話していきます。
スペックの話もするし、実際に使っている生徒さんの話もします。「安いギターを一度買って、後から612に買い替えた」よりも、「最初から612を選んだほうが絶対に得をする」という話を、筆者なりにちゃんと説明します。
結論から言います。YAMAHA PACIFICA 612シリーズは、現行の10万円以下エレキギターの中でコストパフォーマンスが最高水準にあります。 初心者にとって「最初の一本」になりうるだけでなく、腕が上がっても手放す理由がない。
PACIFICAシリーズとは何か

ヤマハのPACIFICAシリーズは、1990年代初頭に誕生したエレキギターのラインナップです。ストラトキャスタータイプをベースにしながら、ヤマハ独自の設計思想で作られています。
現在のラインナップは大きく分けると以下の通りです。
- PAC112V:実売3〜4万円台。入門機として最も選ばれているモデル
- PAC612シリーズ:実売7〜10万円前後。今回の主役
- PAC612VIIFMなど上位モデル:フレイムメイプルトップなど仕様がさらに豪華
この中で、筆者が初心者に強く勧めるのが612シリーズです。なぜ112ではないのか。それを説明するために、まず「価格の差がどこに出るか」という話をしなければなりません。
「安いギターを買ってから考える」という罠

よくある話をします。
ギターを始めようとしている人が、楽器屋やネットで情報を調べます。「初心者向け」と書いてある3万円のギターを買います。最初は弾いてみます。でも、なんとなく弾きづらい。チューニングがすぐ狂う。思ったような音が出ない──。
ここで「自分には向いていないかも」と思い始めて、半年後にはケースが押し入れの奥に眠っている、というパターンが多い。
ただ、ここで少し立ち止まってほしいのです。
その「弾きづらさ」に、最初は気づけない。
これがポイントです。エントリークラスのギターを最初の一本として手に取った場合、そのギターが「弾きづらい」かどうか、実は最初は分からないんです。比較対象がないから。チューニングが狂いやすいのも、フレットの精度が甘いのも、ネックの仕上がりが雑なのも──「ギターってこういうものか」と思ってしまう。
気づくのは、もっと良いギターを手にしたときです。
例えば楽器店で一番安いギターで半年頑張って練習して、その後612を弾いた瞬間。「あ、全然違う」となります。そこで初めて、自分が今まで「まともじゃない楽器」で練習していたことを理解します。
逆に言えば、最初から612を選んでいれば、その気づきが生まれません。 不満を感じることなく練習を続けられる。
さらに何かの拍子にエントリークラスのギターを触ったとき、「自分のギターの方が圧倒的に弾きやすい」と実感できます。
この体験が、自分のギターへの愛着と自信を生む。結果として、より楽しくギターと付き合っていけるわけです。
PAC112とPAC612、何が違うのか

筆者はPAC612を試奏したことがあり、実際にこのギターで練習している生徒もいます。PAC112も当然触ったことがあります。その上で言います。
ネックの品質が、雲泥の差です。
弾き心地・手触りの違い
ネックを握った瞬間から違います。112のネックは「製品として問題ない」レベルですが、612のネックは「弾いていて気持ちいい」レベルです。この差は地味に見えて、毎日の練習の積み重ねでとんでもなく大きくなります。
弾き心地が良いギターは、手が動きます。手が動くと楽しい。楽しいから続く。続くから上手くなる。 この連鎖を生むかどうかが、ギター選びの本質だと思っています。
チューニングの安定性
PAC612にはグローバーのロックペグが搭載されています。これがチューニング安定性に大きく貢献します。
ロックペグって何?
弦をペグ(糸巻き)に固定する際、ネジで弦を「挟んで固定」する仕組みのペグ。通常のペグより弦が緩みにくく、チューニングが安定します。「弾いてるうちに音が狂う」という初心者あるあるの悩みを、構造的に減らしてくれます。「弾いていたら音が外れてきた」という感覚に、始めたての頃は気づきにくいもの。最初から安定した状態で弾き続けられることには、意外と大きな意味があります。
フレットの仕上がり
フレットの端の処理が違います。
安価なギターはフレットの端が指に引っかかることがあります。これも毎回気になると、知らず知らずのうちに「弾くのが億劫」という感覚につながります。
612のフレット処理は、ちゃんと「弾かせる気がある」仕上がりです。
PAC612の仕様・搭載パーツを読み解く

仕様だけ並べても意味がないので、それぞれが「なぜ重要か」を添えて説明します。
ボディ・ネック
- ボディ材:アルダー(一部モデルはメイプルトップ)
- ネック材:メイプル
- 指板:ローズウッド
- スケール:634mm(25インチ)
アルダーボディは、クセが少なくバランスの良いサウンドを生む定番材です。ストラトキャスターの定番素材でもあります。エレキギターの「王道の音」に最も近い素材と言っていいでしょう。
ピックアップ:Seymour Duncan(セイモア・ダンカン)
これが612シリーズ最大の武器と言っても過言ではありません。
セイモア・ダンカンとはアメリカのピックアップ専門ブランド。
1970年代からロックギターの歴史に深く関わってきたメーカーで、スラッシュ(ガンズ・アンド・ローゼズ)をはじめ、世界中のプロギタリストが愛用してきた存在です。
「純正ピックアップからダンカンのピックアップに乗せ替えたい」という話を、ギタリストの間でよく耳にします。
つまり612は、最初からその「乗せ替え先」が付いている状態です。
612のピックアップ構成はSSH(フロント:シングル / ミドル:シングル / リア:ハムバッカー)が基本です。
SSH配列って何?
ギターのボディに搭載されているピックアップ(音を拾うマイクのようなもの)の並び順のこと。SSHの場合、ネック側から「シングルコイル×2+ハムバッカー1」という構成。シングルコイルは歯切れよくクリアなサウンド、ハムバッカーは太く力強いサウンドが特徴。5wayセレクターと組み合わせることで多彩な音色に対応できます。
搭載ピックアップ
搭載されている具体的なモデルも確認しておきましょう。
フロントとセンターにはSSL-1、リアにはCustom 5が載っています。
SSL-1はダンカンのシングルコイルピックアップの定番モデル。歯切れの良いクリアなサウンドで、クリーントーンやクランチとの相性が抜群です。
Custom 5はリア用のハムバッカーで、パワフルながら高域のヌケが良く、歪ませても音が団子にならないのが特徴。どちらもアルニコ5という磁石を使用しています。
アルニコ5って何?
ピックアップの音の個性を決める磁石の種類のひとつ。アルミ・ニッケル・コバルトの合金で、「パワーがあるのにクリアな高域が出る」「低域がタイト」という特性を持ちます。ハイゲインにしても音が潰れにくいため、ロックからメタルまで幅広いジャンルで重宝される素材です。ビンテージ系のストラトサウンドにも使われており、クラシックな音とモダンな使い勝手を両立しています。
この組み合わせが、612の「どのジャンルでも破綻しない」サウンドの正体です。
この構成が、612のサウンドの「オールラウンド性」を生んでいます。
クリーントーンで弾けばシングルコイルのキラキラした音が出ます。歪みを踏んでリアのハムバッカーを使えば、ロック・ハードロックで求められる太くパンチのある音になります。ローゲインでもハイゲインでも、音作りがしやすい。マルチエフェクターとの相性も良く、「どんなアンプやエフェクターに繋いでも破綻しない」という安定感があります。
強烈な個性はありません。これは正直に言います。
でも初心者にとって「強烈な個性がない」は、むしろ長所です。
音作りを学ぶ段階では、ギター自体が主張しすぎないほうがいい。「エフェクターを踏んだらどう変わるか」「アンプのEQをいじったらどうなるか」が分かりやすくなります。
ギターが教材としても優秀、ということです。
ブリッジ:ウィルキンソンVS100N
アームを使った演奏(ビブラートやダイブボム)が可能でありながら、チューニングの狂いが比較的少ないという特徴があります。
ストラトタイプのギターによく使われるフローティングトレモロの改良版と考えればいいでしょう。
アームを使う使わないに関わらず、ブリッジの品質はチューニング安定性とサスティン(音の伸び)に直結します。
ここにもコストがかかっているのが612です。


実際に612を選んだ生徒の話
教室に、最初からPAC612を選んだ生徒がいます。
「高いのを買ったからには練習しないと」という感覚が、いい意味でプレッシャーになったと話していました。もちろんそれだけではなく、弾いていて気持ちいいという感覚が、練習を続ける理由になっているようです。
二本目にPAC612を選んだ生徒もいます。
「最初に買った安いギターと比べて弾きやすいし音も良い」としっかり実感できるギターで、以前にもまして熱心に練習する様になり、いつのまにかバンドを組んで活動していました。
「弾くのが楽しい」──これが継続の最大の原動力です。道具が「弾くのが楽しい」を支えている部分は、思っているより大きい。
「安いギターを一度買う」の本当のコスト

少し計算の話をします。
仮にPAC112(4万円)を買って、「やっぱり弾きづらい」「音が気に入らない」と半年後に612(8万円)に買い替えたとします。合計12万円です。最初から612を買えば8万円で済んだ。
しかもこれ、金銭的なコストだけの話です。
「弾きづらいギターで半年過ごした」というコストが別にあります。その間に味わった「なんかうまくいかない」感、それが積み重なって生まれた「自分には向いていないかも」という誤った自己評価──これは取り返せません。
最初から612を選ぶことは、「高い買い物をする」ではありません。「一番安い選択をする」ことだと筆者は思っています。



こんな人にPAC612はおすすめ
- エレキギターを初めて買う人
- 「とりあえず安いやつ」でいったん挫折した経験がある人
- 長く使えるギターを探している人
- ジャンルをまだ決めていない人(オールラウンドに使えるため)
- マルチエフェクターを使った音作りに興味がある人
こんな人には向かないかも
- すでに弾きたいジャンル・トーンが明確で、特定のギターを目指している人
(例:ストラトの音にこだわりたい、レスポールが弾きたいなど) - 予算的に厳しく、他の選択肢と真剣に比較したい人
まとめ
- 初心者の挫折の多くは「才能」ではなく「道具」の問題
- 安いギターの弾きづらさは、最初は分からない。良いギターを手にして初めて気づく
- PAC612はネック・ペグ・ブリッジ・ピックアップすべてが「ちゃんとした品質」
- ダンカンピックアップによるサウンドはオールラウンドで音作りがしやすい
- 安いギターを買い直すより、最初から612のほうがトータルコストが低い
- 「弾くのが楽しい」を作れるギターが、継続を生む
- 一度挫折した人のリベンジ機としても最適
ギターは「始める」より「続ける」ほうがずっと難しい。
続けるための仕組みを、道具の段階から整えておく。PAC612はその選択に十分応えてくれる一本です。












