「ライブで曲ごとにチューニングが違う。ギターを何本も用意しないと対応できない」──これは普段からフローティングブリッジを愛用している筆者自身、長年感じてきた悩みでもある。フローティング構造は繊細で、ペグを一か所操作するだけで全体のバランスが崩れてしまうため、チューニングなどのセッティングを都度変更するのは実質不可能と言っても良い。
その課題を解決するかもしれないのが、BOSSから新たに発表された XS-1 Poly Shifter と XS-100 Poly Shifter だ。結論から言えば、これらは単なる「ピッチ・シフター」ではなく、瞬時にチューニング変更や大胆な音程操作を可能にする新世代の革命的エフェクター である。
XSシリーズの特徴とXS-1/XS-100の違い

そもそもピッチシフターとは
入力された音の高さ(ピッチ)をデジタル処理によって変化させるエフェクターだ。
単音をオクターブ上下させて厚みを出したり、和音ごと別のキーに移調したりと、幅広い用途に使える。
カポタストのように物理的に押さえるのではなく、信号処理によってピッチを操作するため、瞬時のチューニング変更や大胆な音色変化を可能にするのが大きな特徴である。
例えば、ソロ中にオクターブ上を重ねて迫力を出したり、ボーカルキーに合わせて曲全体を半音下げるといった使い方が可能だ。
また、12弦ギター風のサウンドを作りたい場合にも有効で、アイディア次第で演奏やアレンジの幅を大きく広げられる。
初心者にとっては「ギター1本で多彩なチューニングや音色を試せる」便利なエフェクターとして理解すると分かりやすいだろう。
XSシリーズの特徴
XSシリーズの最大の特徴は、新開発の高精度ピッチ・シフト・アルゴリズムにある。
従来のピッチ・シフターにありがちだった「レスポンスの遅れ」「濁った和音」「デジタル臭さ」を克服し、複雑なコードや豊かなサスティンでもクリアで安定したサウンドを実現する。
さらに、単音フレーズから和音演奏まで自然に追従し、演奏者が感じる違和感を極力排除している。
これにより、従来の“特殊効果的”な用途に留まらず、ライブやレコーディングでの実用的なチューニング変更や音色拡張を可能にしている。
XS-1の特徴

コンパクトなペダルタイプ。
新たに開発された高度なピッチ・シフターのアルゴリズムを搭載し、ギターやベースのピッチを一瞬で変更できる。
楽器本来のサウンド・キャラクターや自然なレスポンス、弾き心地を維持しながら、±7半音および3オクターブのピッチ・シフトに対応する。
エフェクトとダイレクト音の割合を調節できるBALANCEノブを装備し、±20セントの範囲でピッチ変化を加えてダブリング効果を作り出すDETUNEスイッチも搭載。
ペダル・スイッチはトグル/モーメンタリの切り替えが可能で、別売りのフットスイッチを使えば最大3つの設定を切り替えられる。
さらに外部エクスプレッションペダルでリアルタイムのピッチ・コントロールを行えば、大胆なピッチベンド演奏も可能になる。

BOSS ( ボス ) / XS-1 Poly Shifter
XS-100の特徴

かつてないダイナミックなピッチ・パフォーマンスを実現するピッチ・シフターとして設計された上位モデル。
本体にエクスプレッションペダルを内蔵し、±4オクターブという広大な範囲をリニアにコントロール可能。
新開発のピッチ・シフト・アルゴリズムにより、楽器のサウンド・キャラクターや自然なレスポンスを維持したまま自由自在に音程を操れる。
半音単位で±4オクターブのピッチシフトが可能で、±50セントの範囲でピッチ変化を加えるDETUNE機能も搭載。
ペダル・カーブやトグル/モーメンタリの切り替えなど、設定の自由度が高く、演奏スタイルに合わせた細かなカスタマイズができる。
作成した設定は30のメモリーに保存可能。さらにTHRU端子で原音をそのまま出力したり、別売りのエクスプレッションペダルや2つのフットスイッチを追加して操作を拡張できる。
TRS MIDI IN/OUT端子により、外部からXS-100を制御したり、逆にMIDI信号を送信して他機材をコントロールすることも可能で、ライブや宅録での複雑なシステムにも柔軟に対応できる。

BOSS ( ボス ) / XS-100 Poly Shifter
XS-1とXS-100の比較
項目 | XS-1 | XS-100 |
---|---|---|
ピッチ範囲 | ±7半音、3オクターブ | ±4オクターブ(半音単位で制御可) |
DETUNE機能 | ±20セント | ±50セント |
操作系 | BALANCEノブ、SHIFTノブ、DETUNEスイッチ | 内蔵エクスプレッションペダル、EXPスイッチ、カーブ調整 |
メモリー保存 | 最大3つ(別売りフットスイッチで切替可) | 30メモリーを保存・呼び出し可能 |
外部拡張 | CTL/EXP端子、外部エクスプレッションペダル対応 | エクスプレッションペダル追加、2つのフットスイッチ、MIDI IN/OUT対応 |
出力 | 標準出力 | 標準出力+THRU端子 |
サイズ・重量 | 73(W)×129(D)×59(H)mm / 410g | 147(W)×230(D)×72(H)mm(ペダル最大傾き時96mm) / 1.7kg |
電源 | ACアダプターまたは9V形アルカリ電池(約3時間駆動) | ACアダプターのみ |
半音下げ用という事であればXS-1で十分だがペダルでのピッチベンド、深めのデチューン、複数設定保存、更にスイッチやペダルの増設などあらゆるシーンで活用したい場合はXS-100が非常に強力。
またMIDI端子があるため、マルチエフェクターとの連携、操作も可能になる事もポイントが高い。
どんな場面で役立つのか?

ド派手なピッチベンドがこのエフェクトの醍醐味ではあるが、それ以外の観点でどんな場面で役に立ちそうか、あくまでも実用面に焦点を当てて考えてみよう。
1. ライブでの瞬時のチューニング変更
XSシリーズ最大の強みは、スイッチひとつで半音下げチューニングにできること。特にフローティングブリッジ搭載ギターでは、これは革命に等しい。普段からライブでフローティングを使っている身としては、「1曲のために別のギターを用意する」煩わしさから解放されるのは非常に大きい。
セッティングのバランスを崩すことなく、複数のチューニングを1本のギターでカバーできる。
「半音下げのためにもう1本必要」──そんな常識を覆す存在だ。
※ドロップDなど6弦のみ1音下げというようなチューニングに変更することは出来ない。
2. ハードテイルでも“アーミング的”表現が可能
ピッチ系エフェクターといえば、大胆なペダル操作による効果が定番だった。しかしXSでは 半音~1音半程度の範囲でピッチをコントロール できるため、ハードテイルのギターでもアーミングのような揺れを演出できる。
つまり、フローティングでもハードテイルでも活躍の場がある。
3. カポタスト代わりとしての活用
エレキギターにカポを付けるのに抵抗がある人は少なくない。
ルックスを損ねる、ピッチが狂いやすい、スケールが短くなり演奏の自由度が下がる──こうした問題をXSならすべて解消できる。
ピッチを上げる処理をエフェクト側で行えば、見た目もそのままでチューニングも安定。物理的制約から解放された“カポ” として機能する。
例えばソロギターで既存曲を再現する中で終盤に転調する場合などは、それだけで難易度が極端に上がってしまう。
そこを攻略する事もソロギターの醍醐味ではあるが、スイッチ一つで転調に対応できるのは非常にありがたい。
実際のサウンド例・応用イメージ

半音下げで90年代HR/HMサウンドを再現
B’zのコピーバンドなど、レギュラーチューニングもダウンチューニングも混在するセットリストをワンタッチで再現可能。
DETUNEで80’sコーラス感をプラス
ピッチをわずかにずらして重ねることで、煌びやかで厚みのある80年代風サウンドを作れる。
コンプとクリーンなアンプセッティングでアルペジオやカッティング
歪ませてリードやソロ等、時代を象徴するサウンドメイクが可能に。
リバイバル感の演出に最適な効果。
12弦ギター風の分厚いコード感で60s、70s感を
原音とオクターブ音をブレンドして、アコースティック12弦のような広がりを再現。
ロックの名演を再現。
大胆なピッチベンド(XS-1+外部ペダル/XS-100標準機能)
シンセのように音程を上下させ、ソロやイントロにインパクトを与えられる。フローティングのアームでしかできないと思っていた表現が、ペダルで代替できるのは面白いポイントだ。
モーメントスイッチによる瞬間的なダウンチューニング
スイッチを踏んでいる間だけチューニングを下げられるため、部分的にドロップ感を加えたボトムリフを作成可能。自由度の高いフレーズ構築や即興的なライブ表現に最適。これも「フローティングで無理やり下げる」苦労をしてきた立場からすれば、試してみたい機能だ。
歴代ギターサウンドのレガシーを再現しつつ一歩踏み込んだ表現も可能に。
XS-1とXS-100、どちらを選ぶべきか?
BOSS ( ボス ) / XS-1 Poly Shifter
コンパクトでシンプル。
半音下げやカポ代用、DETUNEを中心に使いたい人向け。
外部エクスプレッションペダルを繋げば、大胆なピッチベンドも可能。
外部スイッチを繋げば3つの設定を切り替えて使用できる。
まずはシンプルに導入したい、実用的面を重視する人におすすめ。
BOSS ( ボス ) / XS-100 Poly Shifter
XS-1でできることはすべて可能。
さらに本体内蔵ペダルで±4オクターブのピッチベンドが可能。
30メモリーやMIDI対応で、ライブやスタジオで複雑なセッティングを瞬時に呼び出せる。
表現の幅を最初からフル活用したい人、プロユース環境で使いたい人に最適。
導入メリットとデメリットの整理
メリット
- スイッチひとつで瞬時にチューニング変更
- ルックスを崩さない(カポ代用時も自然)
- 演奏幅が大きく広がる(12弦風やシンセ的表現も可能)
デメリット
- 生音のピッチは変わらないため、自宅練習では違和感が出ることがある
- 特に夜間練習では、アンプやヘッドホンを通した環境での使用が望ましい
他社製品との比較における懸念点

ピッチ系エフェクターといえば、DigiTech Whammy や DigiTech Drop を思い浮かべる人も多いだろう。これらも大胆なピッチシフトや瞬時のダウンチューニングを可能にする定番モデルだ。
しかし、従来機では「コードを弾いたときの濁り」や「サスティンが伸びにくい」「レイテンシーが気になる」といった課題がしばしば指摘されてきた。
BOSS XSシリーズは、新開発のアルゴリズムによってこうした課題を大幅に改善しているとされている。
特に和音の追従性やレスポンスの速さは大きなアドバンテージになるだろう。
ただし現時点ではXSがまだ発売前のため、実際にどの程度の差が体感できるかは、実機を触りながら確認していきたいポイントでもある。
既存のWhammy特有の荒々しいキャラクターや、Dropのシンプルで直感的な操作性に魅力を感じるプレイヤーも多いため、「どちらが優れているか」ではなく「どんなサウンドキャラクターを求めるか」で選ぶべきだろう。
まとめ|XSシリーズは“次世代のピッチ・シフター”
従来のPSシリーズが「特殊効果的」な立ち位置だったのに対し、XSシリーズはより実用的かつ表現力を広げる存在として進化している。
- ライブでのチューニング問題の解決策
- ハードテイル/フローティングを問わない新しい演奏表現
- 宅録・制作現場での音作りの拡張性
そして、WhammyやDropといった既存のピッチ系名機と比べて、和音の安定性や自然なサウンドがどこまで実現できているのかは気になるポイントだ。
フローティング派としても「複数本持ち替える煩わしさから解放されるかもしれない」と期待せずにはいられない。
これらを兼ね備えたXS-1/XS-100は、まさに「現場を変える一台」と言っていいだろう。