楽器コラム

歪エフェクターの昇圧・降圧で音作りを変える! 〜18V駆動のメリットと注意点〜

エフェクターの電圧を変えることで音が変わることをご存じでしょうか?特に9V駆動の歪エフェクターを18Vで駆動すると、音のダイナミクスやクリアさが向上する場合があります。逆に、降圧すると独特のコンプレッション感や荒々しい歪みが得られることも。
この記事では、エフェクターの昇圧・降圧による音の変化や、ヘッドルームとの関係、注意点を詳しく解説し、実際の音作りに役立つ情報をお届けします。

そもそもVとかAとかWって何?


エフェクターの電圧を変える前に、基本的な電気の単位について理解しておきましょう。

V(ボルト) … 電圧の単位。エフェクターの駆動電圧(9V、18Vなど)を示す。

A(アンペア) … 電流の単位。エフェクターが消費する電流量を示す(例:100mA)。

W(ワット) … 電力の単位。電圧(V) × 電流(A) で求められる。

エフェクターでは主に電圧(V)を意識することが多く、駆動電圧を変えることで音の特性が変化します。

昇圧の効果


歪エフェクターを9Vから18Vに昇圧すると、一般的に以下のような変化が起こります。

ヘッドルームが広がる(音が潰れにくく、ダイナミクスが増す)

歪みがクリアになり、低音が締まる

音の解像度が上がり、分離感が向上する

よりアンプライクなナチュラルな歪みになる

ヘッドルームとは

ヘッドルームとは、「信号が歪み始めるまでの余裕の範囲」のことを指します。

9Vで駆動していると、入力信号が大きい場合にクリッピング(歪み)が発生しやすくなりますが、18Vに昇圧するとこの余裕が増え、音が潰れにくくなります。

その結果、ダイナミクスが向上し、ピッキングの強弱による表現力が広がります。
特にオーバードライブ系のエフェクターでは、よりアンプのような反応の良さを感じられるでしょう。

Klon Centaur の18V駆動の噂


Klon Centaurは、伝説的なオーバードライブペダルであり、多くのギタリストが愛用しています。

公式には9V駆動が推奨されていますが、「18Vで駆動するとヘッドルームが広がり、よりクリーンでパンチのあるサウンドになる」といった噂が広まっています。

実際には、内部で昇圧して18V相当の電圧で動作する設計になっているため、外部電源で18Vをかけても大きな変化はないのですが、こうした話が広がったこと自体が「昇圧=より良いトーンを生む」という概念を浸透させる一因となりました。

ケンタウロスに関する過去記事もあるので気になった方は是非。
ケンタウロスの効果が分かりづらい?その理由と使い方を徹底解説!

降圧の効果


逆に9V以下(6Vや7V)に降圧すると、以下のような変化が起こります。

歪みが荒々しくなり、コンプレッションが強くなる

ゲインが増したような感覚になる

音が少しこもり気味になり、ローファイな雰囲気になる

サステイン(音の伸び)が短くなることがある

これは、電圧が低くなることで回路の動作が不安定になり、音が圧縮されたり、歪みが強くなったりするためです。

ファズ系のエフェクターでは、わざと古い電池を使い低電圧で駆動することで、独特の暴れた歪みを作ることもあります。

ブラウンサウンド


「ブラウンサウンド」とは、エディ・ヴァン・ヘイレン(EVH)が生み出した伝説的なハイゲイントーンのことで、アンプの電圧を降圧することで生み出されたサウンドです。

エディは、Marshall 1959 Super Leadを約90V〜95Vに降圧することで、独特の歪み方とコンプレッション感を得ていました。

通常、アンプは120Vの電圧で動作しますが、これを意図的に低下させることで、以下のような効果が得られます。

サチュレーション(飽和感)が増し、スムーズな歪みになる

高音の刺々しさが抑えられ、太いミッドレンジが強調される

ピッキングのニュアンスが強調され、ダイナミクスが向上

コンプレッションがかかり、サステインが伸びる

彼はこの手法を「ヴァリアック(可変電圧トランス)」という装置を使って実現しました。
この手法をギターエフェクターにも応用することで、同様の効果を得ることができます。

特に、ファズやオーバードライブ系のペダルを降圧すると、ブラウンサウンドに近いコンプレッション感を加えることがあるため、ロックやクラシックメタルのサウンドメイクに応用できます。

音作りのポイント


1. クリアな歪みを求めるなら18V駆動
オーバードライブ系やブースター系のエフェクターでは、18V駆動で透明感のある歪みを得ることができます。アンプのナチュラルな歪みを活かしたい場合にも有効です。

2. 激しい歪みやローファイなサウンドを狙うなら降圧
ファズ系や一部のディストーションでは、低電圧にすることで独特の暴れた歪みや、コンプレッション感の強いサウンドを作ることができます。

3. エフェクターの仕様をチェック
すべてのエフェクターが18Vや降圧に対応しているわけではないため、メーカーの仕様を確認することが重要です。間違った電圧をかけると故障するリスクがあります。

ツインリバーブとデラックスリバーブ


フェンダーを代表する**Twin Reverb(ツインリバーブ)とDeluxe Reverb(デラックスリバーブ)**は、電圧・電流とサウンドの関係を理解するうえで非常に分かりやすい例です。

ツインリバーブ(Twin Reverb)
100Wの高出力アンプ
突き抜けるようなクリーンサウンド
高電圧・高電流による広いヘッドルーム

デラックスリバーブ(Deluxe Reverb)
22Wの中出力アンプ
ボリュームをフルアップさせた際のファットなドライブサウンド
低電圧・低電流による早めの歪み発生

興味深いことに、この2つのアンプはW数(出力)以外の回路設計はほとんど変わらないと言われています。しかし、電圧や電流の違いにより、ツインリバーブはクリーンなサウンドを保ちやすく、デラックスリバーブはボリュームを上げた際にナチュラルなオーバードライブが得られるのです。
※それぞれ出力に応じたスピーカー数、真空管、筐体など様々な違いはある。

このように、電圧や電流が高いとクリアでハイヘッドルームなサウンドになり、低いとコンプレッションが強まり、歪みやすい特性を持つという法則が見えてきます。
これはエフェクターにも同じことが言え、昇圧するとクリーンな音に、降圧するとダーティな音になる傾向があります。

注意点


1. 18V対応かどうかを必ず確認する
9V専用のエフェクターに18Vを流すと、回路が破損する危険性があります。特に古いビンテージペダルやデジタル系エフェクターは要注意。

2. 電源アダプターの品質に注意
昇圧・降圧を行う場合、安定した電源を供給できるアダプターを使うことが重要です。ノイズが発生する可能性があるため、アイソレートされた電源を使うのが理想的です。

3. 音が気に入らなければ元に戻す
昇圧・降圧による変化は好みが分かれるため、実際に試してみて「元の9Vの方が良かった」と感じることもあります。気軽に試しつつ、自分の理想のサウンドを探しましょう。

昇圧、降圧が出来る機材

K.E.S ( ケーイーエス ) / KIP-V.A.C.9

K.E.S ( ケーイーエス ) / KIP-V.A.C.9

キクタニミュージックさんが本気で作ってしまったパワーサプライ。

9口フルアイソレート仕様で尚且つ18vから6.8vまでを無段階で調節できる出力を3口搭載。
その上で残りの6口は9.4vから9.8vで出力される仕様となっているため、一般的なパワーサプライを使用した時よりもややマッチョなサウンドに仕上がるのが特徴。

昇圧降圧をコントロール出来て尚且つ合計9台のエフェクターに電源供給できるのはかなりアツいのではないでしょうか。

昇圧だけ、降圧だけという機材はたまーにありますが、ツマミの操作で昇降共に無段階の電圧操作が出来る機材は更に稀有です。
そして機能の割に安い!
ここまで読み進めてしまっている電圧の操作に興味のあるアナタにはうってつけと言えるでしょう!

パワーサプライに関する過去記事もあります。
用語などはこちらで解説していますので参考にしてみてください。
パワーサプライの選び方、目的別パワーサプライおすすめ9選

まとめ

エフェクターの駆動電圧を変えることで、音のキャラクターに大きな影響を与えることができます。特に、昇圧(18V)と降圧(6V〜7V)を活用することで、自分好みのトーンを作り出すことが可能です。

昇圧(18V)すると…

ヘッドルームが広がり、クリーンでダイナミクス豊かなサウンドに
歪みがクリアになり、音の分離感が向上
低音が締まり、アンプライクなレスポンスが得られる

降圧(6V〜7V)すると…

歪みが荒々しくなり、コンプレッションが強まる
サウンドがファットになり、ローファイな雰囲気を演出
ゲインが増したようなフィーリングになり、ヴィンテージ感のあるサウンドに
また、エディ・ヴァン・ヘイレンのブラウンサウンドのように、アンプの電圧を下げることで生まれる特有のコンプレッション感や歪みの質感があることも知っておくと、さらに応用が広がります。

フェンダーのツインリバーブとデラックスリバーブの比較からも分かるように、電圧・電流の違いによってクリーンなトーンか、歪みやすいトーンかが決まる傾向があります。この法則はエフェクターにも当てはまり、電圧の選択が音作りにおいて重要な要素となります。

最後に…

エフェクターの駆動電圧を変更する際は、必ず機材の仕様を確認し、適切な電圧を使用するようにしましょう。
間違った電圧をかけると、最悪の場合エフェクターが故障してしまうこともあります。
くれぐれも自己責任にて挑戦願います。

「9Vが普通」と思い込まず、昇圧や降圧を試すことで、新しいサウンドの可能性を見つけられるかもしれません。
ぜひ、自分のエフェクターで試してみて、自分だけの理想のトーンを見つけてください!

ABOUT ME
吉田寛定
元ギターインストラクター、GT-1000COREユーザー。 サウンドに対してそこまでこだわりは無いけど機材は好き。 時々インスタに演奏動画を上げたりしている。 ジェフ・ベックとかヴァン・ヘイレンとかトーシン・アバシとか、奇人変人の類が好物。