ピックアップで音が決まるって本当?
「ギターの音はピックアップで決まる」
確かに、ピックアップはギターの音に影響を与える重要な要素です。しかし、それだけですべてが決まるわけではありません。むしろ、ピックアップだけに頼る考え方は、ギターという楽器の本質を見落としていると言わざるを得ません。
極端な例を挙げるなら、プロのギタリストが安価なギターを弾いても、それなりに良い音を出します。一方で、高級ギターを持っていても、弾き手によっては思うような音が出せないこともあります。これはなぜでしょう?
ギターの音は、ピックアップだけでなく、弾き手の技量、ギター本体の構造、使っている弦、さらには手指の状態まで、さまざまな要素が影響しています。つまり、ピックアップだけを変えたところで、自分の理想の音になるとは限らないのです。
では、何が音を決定づけるのか? ひとつずつ見ていきましょう。
結局弾き手の腕が大事
ギターの音は、突き詰めれば「空気振動」という物理現象です。ピックアップは、その振動を電気信号に変換する「マイク」のようなもの。つまり、弾き手が変われば、同じピックアップでも音が変わるのは当然のことなのです。
例えば、B’zの稲葉浩志さんが使っているマイクを手に入れたとしても、同じ声を出せるわけではありませんよね? それと同じで、どんなに高級なピックアップを搭載したギターを使っても、ピッキングの強さや角度、弦の押さえ方が変われば、音はまったく違うものになります。
結局のところ、良い音を出すために最も重要なのは「弾き手のコントロール力」です。どんなギターを使おうが、ピッキングの精度が悪ければ、まとまりのない音になりますし、逆に正確なタッチを持っていれば、どんなギターでも魅力的な音を出せるのです。
ギター本体についても考える
では、ピックアップ以外にどんな要素が音に影響を与えるのでしょうか?
ハードウェアの素材や重量
ギターのパーツは、それぞれが振動に関わるため、音に影響を与えます。
ブリッジやナット:材質によって音の伝達効率が変わります。金属系のブリッジはアタックが強く、樹脂系のナットは柔らかい音になります。
ペグの重量:ヘッドの重量バランスが変わると、サステイン(音の伸び)が変わることがあります。
フレットの素材:ニッケルとステンレスでは、音の硬さが違います。
これらはピックアップの外側にある要素ですが、意外と無視できません。
弦の仕様
弦の種類も音を左右します。
ゲージ(太さ):太い弦はテンションが強くなり、音が太くなる傾向があります。一方で、細い弦は弾きやすく、柔らかい音になります。
素材:ニッケル弦とステンレス弦では音の硬さが変わります。ニッケルは温かみがあり、ステンレスはブライトな音になります。
芯線の形状:ヘクスコア(六角形の芯)とラウンドコア(丸い芯)では、弦の張り感やレスポンスに違いが出ます。
コーティング:コーティング弦は寿命が長いですが、非コーティング弦に比べると若干アタック感が抑えられることがあります。
音作りにおいて弦選びも重要な要素です。
弦高
弦高(弦とフレットの距離)も音に大きく影響します。
低い弦高:弦の振幅できる余裕が少なくなり、バズ(ビリつき)が発生しやすくなります。結果として、音がタイトでアタック感が強くなります。
高い弦高:弦の振幅マージンが増え、伸びやかな音になりますが、押弦の負担が大きくなります。
プレイスタイルによって、最適な弦高は変わるため、自分に合った調整を見つけることが大切です。
ネックのジョイント方式
ネックとボディの接合方式も、ギターの鳴り方に影響を与えます。
ボルトオン:アタックがはっきりしており、ブライトなサウンド。フェンダー系に多い。
セットネック:サステインが長く、暖かみのある音になる傾向がある。ギブソン系に多い。
スルーネック:振動がスムーズに伝わり、長いサステインが得られる。プログレやメタル系のギターに多い。
「ジョイント方式によって音が変わる」と言われるのは、この振動の伝わり方の違いによるものです。
塗装の厚さ
意外かもしれませんが、ギターの塗装も音に影響を与えることがあります。
厚い塗装(ポリ塗装など):ボディの振動を抑えるため、タイトな音になる傾向があります。
薄い塗装(ラッカー塗装など):木材の振動を活かし、オープンで自然な鳴りになることが多い。
もちろん、塗装の影響は細かい要素のひとつであり、弾き手が気にしなければ大きな問題ではありません。
手指の保湿
あまり語られることはありませんが、手指の状態もギターの音に関係します。
手が乾燥していると、弦を触った際のグリップ感が変わり、ピッキングやチョーキングに影響が出ます。
さらに、ギターは弦アースによってノイズを減らしていますが、手が乾燥しているとアースが効きにくくなり、ノイズが増えることがあります。
適度な水分補給と保湿を心がけることで、演奏の安定感も向上します。
木材についての私見
ギターの木材が音に影響を与えるかどうかは、長年議論されているテーマです。
結論から言えば、「影響はあるかもしれないが、感覚的な部分も大きい」というのが筆者の考えです。木材の種類によって音の傾向が変わるという主張は確かにありますが、厳密に検証するのは困難です。
材の重量
木材の種類よりも、「重量」のほうが音に影響する可能性が高いです。
軽いボディ:音の立ち上がりが速く、オープンな鳴り方をする傾向がある。
重いボディ:タイトでコンプレッション感が強く、サステインが伸びる傾向がある。
これは木材に限らず、ギター全体の質量バランスに関わる話です。
指板
ボディ材よりも、筆者は「指板」のほうが音に影響を与えているのではないかと考えています。
ローズウッド指板:柔らかく、ややダークなトーン。
メイプル指板:硬く、ブライトで明るい音になる傾向がある。
なぜ指板が重要かというと、弦が直接接触する部位だからです。フレットの高さによっては指板に触れないこともありますが、それでも極めて近い距離にあるため、振動への影響は無視できません。
練習すれば音は良くなる
ここまでさまざまな要素を見てきましたが、最も重要なのはやはり「弾き手の腕」です。
どんなに高級なピックアップを搭載していても、ピッキングが安定していなければ良い音にはなりません。逆に、しっかりとした技術を持っていれば、どんなギターでも良い音を出せます。
つまり、「ピックアップを変えれば理想の音になる」と考えるのではなく、「自分の弾き方を磨くことが最大の音作り」だと理解することが大切なのです。
まとめ
ピックアップは音に影響するが、それだけで音が決まるわけではない
弾き手のピッキングやタッチが最も重要な要素
ギター本体のパーツや素材も音に影響を与える
木材の影響はあるかもしれないが、感覚的な部分も大きい
練習を重ねることで、理想の音に近づける
音作りとは、一つの要素だけで決まるほど単純なものではありません。常にあらゆる仮説を立てて、自分の耳で確かめながら試行錯誤する姿勢こそが、最高の音を生み出すための鍵となるのです。