2025年4月、いきものがかりのギタリスト・水野良樹が個人のSNSアカウント(X・Instagram)を削除した。本人は「もういいかな」と語ったが、ソロプロジェクト「HIROBA」の公式アカウントからの発信は今後も継続予定とされている。完全なSNS撤退ではなく、発信チャネルを整理する目的である可能性が高い。
この動きを起点に、いきものがかりの現在地と音楽シーン全体の変化、そして他の二人組ユニットとの比較を通して、今後の音楽活動のヒントを探る。
いきものがかりの現在地と背景
いきものがかりは2006年のメジャーデビュー以降、テレビ、アニメ、CMなどでのタイアップを通じて幅広い世代に知られる存在となった。NHK朝ドラの主題歌も担当し、国民的バンドとしての地位を築いた。
2017年に活動休止(放牧)を発表し、2021年にはギター・山下穂尊が脱退。2人体制での活動がスタートしたが、タイミングはコロナ禍と重なり、従来の活動形態を大きく見直さざるを得なかった。
現在は安定した楽曲制作・ライブ活動を継続しており、ファーストテイクでのパフォーマンスなど、時代に応じたメディア対応も行っている。しかし、以前ほどのメディア露出や存在感が目立たなくなった印象もある。
B’zとポルノグラフィティに見る2人組ユニットによるコロナ禍以降の成功要因

同じく2人体制で長年活動を続けているグループとして、B’zとポルノグラフィティがある。
両者はコロナ禍を経て尚、音楽性に加え、発信戦略やファンとの接点においても成果を上げている。
B’zの近年の取り組み
B’zはグループ活動と並行して、個人活動も精力的に展開。
- 松本孝弘はブルースをテーマにしたアルバムや『HIT PARADE II』をリリース。
- 楽曲提供はAdo、BABYMETAL、木梨憲武など多岐にわたる。
- 法人・団体向けの楽曲提供(羽田空港、阪神タイガースなど)も行った。
- ハードロックプロジェクト「TMG」の復活も話題に。
稲葉浩志もソロアルバムを発表し、ファーストテイク出演、Reebokとのコラボスニーカーの発売、「INABA/SALAS」での活動など多様な動きを見せた。
グループとしても「UNITE」対バン企画でMr.Children、GLAYと共演。アルバムリリースやツアー実施、NHK朝ドラ主題歌の提供もあり、精力的な活動を続けている。
ポルノグラフィティの戦略
ポルノグラフィティはファーストテイクでの「サウダージ」披露をきっかけにZ世代にも注目され、再評価が進んだ。
- 一度ライブに足を運んだファンがリピーターとなる傾向が強い。
- 演奏力やパフォーマンスに定評があり、ファン離れが少ない。
- 普遍的な魅力のある楽曲と新藤晴一による歌詞は唯一無二。
- 岡野昭仁はソロ活動やコラボレーションにも積極的。
- 25周年ライブを横浜スタジアムと地元・因島で開催。
J-POP界の中堅という立ち位置から、今では幅広い世代に受け入れられる存在へと変化している。
両者に共通するファン戦略と組織力
B’zとポルノグラフィティの両者に共通しているのは、ファンとの接点を維持するための仕組みを整えている点。
定期的なファン会報や年賀状、暑中見舞いなど、接点を保ち続ける仕掛けを構築。
会報の内容は詳細かつ充実しており、活動報告にとどまらず個人の思考や舞台裏に触れたものが多い。
また、会報は実際に冊子が届く為、ファンコミュニティ限定ブログなどのデジタルコンテンツに比べて特別感がある。
サポートメンバーも高い認知度があり、バンド全体での“顔”として機能。
・B’z:シェーン・ガラース(ドラム)など
・ポルノグラフィティ:nang-chang(マニピュレーター)など
両者ともにサポートメンバーをリスペクトし大切に扱っている姿が印象的だ。
そしてファンもまたサポートメンバーごとバンドを愛している。
こうした取り組みを活動初期から続けてきた両者の強さが現代でも存分に発揮されている。
いきものがかりに求められる今後の展開
もはや「みんなが知ってるバンド」だけでは戦えない時代が来ている。
認知度が高くても、それが再生数やチケット販売につながらない。ファンベース型のマーケティングが台頭し、“いかに深く刺さるか”が評価軸になっている。
その変化のなかで、いきものがかりのような「大衆に愛されてきた音楽」が、時代の流れに対してやや不利な立場に立たされているように見えるのも事実だ。
B’zやポルノグラフィティが示したようにファンとの強固な繫がりを作っていく事が今後の音楽シーンの生き残り方なのかもしれない。
そういう意味ではSNSで消耗していても仕方がないし、アカウントの削除というのはあながち間違った選択とは言えない。
むしろ攻めの姿勢でシーンと向き合う覚悟による行動であるとも解釈できる。
音楽とどう向き合うか、が問われている
こうした中で、ファーストテイクのように“音だけで勝負する場所”が注目を集めているのも頷ける。
いきものがかりが披露した「ブルーバード」や「コイスルオトメ」は、まさに原点を思い出させてくれるものだった。
直撃世代のリスナーからすれば、懐かしさに心をぐっと掴まれた人も少なくないはずだ。
音楽そのものに立ち返る。発信や拡散ではなく、演奏や表現そのものでリスナーに届くかどうか。そんな“静かな問い”を、水野良樹は我々に投げかけているようにも感じる。
まとめ
水野良樹のSNS削除は、アーティストがどのようにファンと向き合い、発信の方法を選ぶべきかという問いを投げかけている。
いきものがかりは今なお高い実力と信頼を持つグループであり、時代の変化に即した戦略を取り入れることで、再び大きな存在感を示す可能性は十分にある。