なぜ集中できないのか?
「今日はたくさん練習しよう!」と意気込んでも、気づけばスマホを触っていたり、意味もなく指板をなぞっていただけで終わってしまったりする。そんな経験はギタリストなら誰でも一度はあるだろう。集中が続かず、成果が実感できないとモチベーションは下がり、最悪の場合はギターから離れてしまうことさえある。
筆者自身、学生時代に「1日3時間練習する」と決めても、最初の30分で集中力が切れ、その後は効率の悪い練習に終始してしまった経験がある。結局、時間だけを費やし上達は思うように進まない。では、どうすれば効率よく、かつ継続的に練習を続けられるのか?
結論はシンプル。ポモドーロテクニックを導入することだ。短時間の集中と適度な休憩を繰り返すことで、練習の質と継続性を両立できる。
ポモドーロテクニックとは?
1980年代にイタリア人起業家フランチェスコ・シリロ氏が考案した時間管理術。「25分集中+5分休憩」を1サイクル(=1ポモドーロ)とするのが基本形だ。4サイクルごとに15〜30分の長めの休憩を取る。
この仕組みが優れている理由はいくつかある。
- 集中力が持続する:25分という時間は、集中に必要な適度な緊張感を保ちつつ、疲労を感じる前にリセットできる絶妙な長さだ。ギター練習で指が疲れたり、集中が途切れたりする前に区切ることで、毎回の練習をフレッシュな状態で行える。短いスパンで集中を繰り返すことにより、長期的には「集中力そのものを鍛える」トレーニングにもなる。
- やめ時が明確:練習をいつ終えるかを自分の気分任せにすると、惰性で弾き続けて質が下がる。タイマーが鳴ることで強制的に一区切りがつくため、脳が「今は休む時間」と認識し、次に向けてエネルギーを回復できる。結果的に、練習全体のパフォーマンスが向上する。
- ツァイガルニク効果:言葉の響きがやたらカッコいいが、これは中途半端な状態で中断すると「続きが気になる」という心理が働き、休憩後もスムーズに再開できるというもの。この効果を活かすと、「面倒だからまた今度…」という停滞を防ぎ、自然と習慣化しやすくなる。ギター練習では、ソロの途中やフレーズの途中で終えるのがポイント。再開時に脳が即座に前回の状態を思い出す。
- 先延ばし防止:「とりあえず25分だけやろう」という軽い気持ちで始められる点も大きい。練習を始める際の心理的ハードルが低くなるため、やる気がない日でも行動を起こしやすい。1ポモドーロ分だけでも弾けば、自然と「もう少し続けたい」というモードに入ることが多い。
こうした仕組みにより、ポモドーロテクニックは単なる時間術ではなく、集中力とモチベーションを長く維持するための心理的・生理的トレーニングにもなる。シンプルながらも科学的背景に裏付けられた方法なのだ。
ギター練習に応用する方法
1. 練習内容を25分単位で決める
「25分間でクロマチック練習」「次の25分は課題曲のソロ部分に集中」といったように、練習テーマを具体的に設定する。時間制限があるからこそ、自然と密度の高い練習になる。
2. 休憩は必ず取る
「あと少しでフレーズが完成しそうだから」と休憩を飛ばすのは逆効果。タイマーが鳴ったら中断し、必ず休憩を挟む。これにより脳と体がリフレッシュされ、次の集中が続きやすくなる。
3. 休憩中は“ギターから完全に離れる”
スマホやSNSを触るのは休憩として不十分。脳が情報を処理し続けてしまうため、実際には「休んでいない」のと同じ状態になる。ギターの練習では、脳と体の両方をリセットすることが重要だ。集中していた神経経路を一度緩めることで、次のサイクルで新しい発想や気づきが生まれやすくなる。
また、ギターの持ち方や姿勢が同じままだと筋肉が硬直するため、物理的にも休息を取る必要がある。練習中に凝り固まった筋肉や目の疲れをほぐすことで、怪我の防止にもつながる。
代わりに次のような行動がおすすめだ。
- ストレッチや腕を回す:肩・肘・手首の緊張を解くことで、フォームの改善にも効果的。特にギターのように片方の腕に負担が偏る練習では、両腕をバランス良くほぐすことが重要だ。ゆっくりと呼吸を合わせながら行うと、筋肉だけでなく心もリラックスできる。
- 水やコーヒーを入れる:軽い動作を伴うことで血流が促進され、気分転換になる。コーヒーの香りや温度変化が感覚を刺激し、集中力のリセットに役立つ。水分補給は筋肉の動きをスムーズに保つ効果もあるため、単なる休憩以上の意味を持つ。
- 部屋を軽く片付ける:身の回りを整えることで、次の練習への集中がスムーズになる。机の上や足元を整理することで視覚的なノイズが減り、心の余白が生まれる。短時間でも「整える習慣」を持つと、練習のリズム全体が整っていく。
- 積ん読していた本を5分だけ読む:全く別の情報に触れることで脳が“拡散モード”に入り、創造性が高まる。ギター練習とは異なる刺激を得ることで、音楽的発想が広がることもある。読み終えた後にふと浮かぶメロディやリズムは、拡散モードの産物といえる。
特に「積読本を1章ずつ進める」といったライフハック的な使い方はおすすめ。練習以外の時間も有意義に過ごせる。
実際の練習スケジュール例
- 1ポモドーロ目:基礎練習(クロマチック、スケール、リズム)
- 最初の25分は、指のウォーミングアップやリズム感を整える時間として使う。クロマチック練習やメトロノーム練習を丁寧に行うことで、その日の練習全体のクオリティが安定する。体と頭を“練習モード”に切り替える大事な時間だ。
- 2ポモドーロ目:苦手なフレーズや運指トレーニング
- 集中力が高い時間帯を活かし、苦手部分をピンポイントで克服する。テンポを落として精度を上げたり、指の独立を意識して繰り返すことで、確実な上達につながる。短い時間でも“狙いを定めた練習”が成果を生む。
- 3ポモドーロ目:課題曲の部分練習、細部の修正
- 曲の中で詰まりやすいパートを抜き出して集中的に練習する時間。苦手箇所を繰り返すうちに無意識で弾けるようになり、演奏全体の完成度が上がる。ミスを分析しながら取り組むと、次第に「弾ける理由」が見えてくる。
- 4ポモドーロ目:通し練習+録音してセルフチェック
- 最後は全体の流れを確認する通し練習。録音して聴き返すことで、自分では気づかなかったリズムのズレやニュアンスの違いを客観的に把握できる。録音を習慣化すると、成長を実感しやすくモチベーション維持にも効果的だ。
その後、15〜30分の長い休憩を取り、頭をリセットする。これで「2時間みっちり練習した」という実感が得られる。
筆者の体験談
筆者は、特に「今日は根詰めて練習したい」という日にポモドーロテクニックを活用している。長時間弾きたい時こそ集中が途切れやすく、気づけば無駄な弾き方になってしまうことが多いからだ。25分という短い区切りを設けることで、集中と休憩のリズムを意識的に作り出している。
タイマーには、普段HIIT(高強度インターバルトレーニング)でも使っているアプリを利用。インターバルを「25分+5分」に設定して使うだけで、シンプルかつ効果的に時間管理ができる。無駄な通知がない点も集中力維持に役立っている。
休憩時間はスマホを見ないようにし、買ったまま読んでなかった本を消化する時間にしている。読みたいと思っていてもなかなか手が伸びないところ制限時間を設けると案外読める。
ポモドーロを使って練習するといつもより充実した練習が出来ているという気はするが、なんだかんだ筆者は練習の効果よりも読書が進むことに対してメリットを感じている。
練習効果を高めつつ他のタスクも進める事ができる点は非常に強力だ。
是非ライフハック的に使ってみて欲しい。
まとめ:ポモドーロで練習が続く
ポモドーロテクニックを取り入れることで、
- 集中力が持続する
- 練習の密度が上がる
- ダラダラ弾きが減る
- 小さな成功体験を積み重ねられる
- ギター練習を生活習慣に組み込める
というメリットがある。ギターの上達は“1日10時間の猛練習”ではなく、“毎日の積み重ね”で決まる。だからこそ「25分×休憩」というリズムを作り、無理なく続けることが最も効果的だ。
あなたも今日から、タイマーをセットしてギターを手に取ってみよう。きっと「練習が思った以上に充実する」感覚を味わえるはずだ。
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