仕事、家族、社会的な役割――日々のタスクに追われる中で、ふとこんなことを思ったことはないだろうか。
「最近ギターに触れていないな」
「忙しすぎて、もう弾く余裕なんてない」
「昔は、弾くと気持ちが落ち着いたのに」
ギターは不思議なもので、たとえ上手く弾けなくても、ほんの数分触れるだけで、心がスッと整うことがある。
コードを軽く鳴らすだけで、部屋の空気が柔らかくなり、頭の中のざわつきが静かになっていくような感覚だ。
これは気のせいではない。実は、ギターを演奏することには科学的に見てもメンタルを整える効果がある。
この記事では、ギターが心に与えるポジティブな作用を3つの視点から解説しながら、「忙しい今こそ、ギターを手放さないでほしい」というメッセージを伝えたい。
音楽がストレスホルモンを下げる理由
まずは、音楽とストレスホルモンの関係について見ていく。
人は強いストレスを感じると、コルチゾールというホルモンを分泌する。これは交感神経を活性化させ、身体を「戦闘モード」に切り替える働きがあるが、長時間分泌され続けると心身に大きな負荷がかかる。
このコルチゾールの分泌を抑える手段の一つが音楽だ。
近年の研究では、好きな音楽を聴くことでコルチゾールの量が減少することがわかっている。さらに注目したいのが、「演奏する」ことの効果だ。
音楽を聴くという受動的な行為に比べて、ギターのように自分で音を鳴らす能動的な音楽体験は、ストレス低減効果がさらに高まると言われている。
ギターは、趣味というだけでなく、音と身体を使ったセルフケアの道具としても優秀なのだ。
演奏に集中する=マインドフルネスの時間
ギターを弾いていると、不思議と「嫌なこと」が頭から離れていくことがある。
これは偶然ではなく、脳の働きによるものだ。
コードチェンジやフィンガリング、ストロークに意識が集中すると、過去の後悔や未来の不安といった思考が入り込む余地がなくなる。
この状態は、心理学でいうマインドフルネス(今この瞬間に意識を向ける状態)と非常に近い。
演奏中、脳波にはα波(リラックス時に多く出る脳波)やθ波(瞑想時に出る深いリラックスの脳波)が増えやすくなる。
つまりギターは、自然と“今ここ”に集中できる、音による瞑想ツールでもある。
日常のざわめきや心の雑音を静かにするために、ギターはとても効果的な存在だ。
ギターを抱え、音を出す。それだけで心は安心する
ギターの魅力のひとつに、「身体を使う」感覚がある。
見て、触れて、抱えて、音が返ってくる――五感を総動員するこの行為が、安心感をもたらしてくれる。
ギターを抱えるとなんだか落ち着く様な気はしないだろうか?
肌に触れる木の感触、重み、軽い振動、自分の身体が鳴らしている音。それらの刺激が脳に心地よく作用し、気持ちを落ち着けてくれる。
また、手を動かして音が鳴るという明確な因果関係があることもポイントだ。
ここで得られるのが自己効力感である。
自己効力感とは、「自分の行動によって物事を変えられる」という感覚のこと。
これは心理学的にも非常に重要なメンタル資源であり、ストレスへの耐性や回復力を高めてくれる要素だ。
ギターを弾くという行為は、小さな成功体験の積み重ねでもある。
1音鳴らすたびに「自分は動けている」と感じられる。それが心を少しずつ強くしてくれる。
ギターという“もうひとつの軸”が、心のバランスを保ってくれる
社会の中で、私たちは多くの役割を背負っている。
仕事では責任を果たし、家庭では家族を支え、誰かのために行動する毎日が続く。
けれど、そうした「他人のための自分」だけでは、心のバランスを保ち続けるのは難しい。
そんなときに必要なのが、「自分だけの時間」だ。
ギターはまさにそれを支える“もうひとつの軸”になってくれる。
特にエレキギターは、自宅でも静かに練習できる。
生音は控えめで、ヘッドホンを使えば誰にも気を遣わず、自分だけの世界に没入できる。
静かな夜、部屋の明かりを落として、アンプにつないだギターを手に取る。
ヘッドホンから返ってくる音と自分だけの対話。
この感覚は、まさに小さな聖域であり、日常から一歩離れた非日常の空間だ。
そこで心を整え、リフレッシュして、また日常に戻っていく。
そんな役割を担ってくれるのが、ギターという存在なのだ。
忙しいからこそ、ギターを辞めないでほしい
「忙しくてギターなんて弾けない」
「また時間ができたら再開しよう」
そんなふうに思って、ギターを手放したり、ケースの奥にしまいっぱなしになっている人も少なくない。
けれど、それは本当にもったいない。
ギターは、上達のためのツールであると同時に、心を整える装置でもある。
完璧に弾く必要はない。1日5分、コードひとつ鳴らすだけでも十分意味がある。
音に触れる時間は、自分に触れる時間だ。
それがあるだけで、少しだけ日常が軽くなったり、前を向く力が戻ってくる。
手放したくなるときこそ、ギターに触れてほしい。
それが、自分の心を守る、もうひとつの習慣になるはずだ。