リハでよくあるギターうるさい問題 音量戦争を終わらせるアンプの置き方と音作り

あなたの「最高の音」、メンバーにとってはただの「騒音」かもしれません。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
さて、バンド練習のスタジオでこんな光景を見たことはありませんか?
自分の音に酔いしれてボリュームを上げ続けるギタリストと、アンプの目の前にいるのに自分の音が聞こえなくて困惑しているベーシスト。そして、シンバルしか聞こえなくなってキレ気味のドラマー。
「もっと音下げてよ」と言われても、「いや、これ以上下げると歪みのニュアンスが出ないんだよ!」と反論したくなる気持ち、痛いほど分かります。ギタリストにとって音量は、魂の叫びそのものですからね。
結論から言うと、この問題の犯人は「ボリューム」そのものではなく、「アンプの立ち位置」と「音の帯域(周波数)」への理解不足です。
ここを解決しない限り、いくらツマミをいじってもバンドは幸せになれません。今回は、音響学的な視点からアンサンブルの平和を取り戻す方法を解説します。




なぜギタリストは「自分の音が聞こえない」と感じてしまうのか?

「うるさい」と言われるのに、弾いている本人は「自分の音が聞こえない」と感じてさらにボリュームを上げる。この「音量デカすぎ・聞こえなさすぎパラドックス」の原因は、ギターアンプの物理的な特性にあります。
ギターアンプは「懐中電灯」、ベースアンプは「ランタン」
音の広がり方をイメージしてください。
ギターアンプ(特にマーシャルなどの大型キャビネット)から出る高音域は、懐中電灯の光のように直線的に飛びます。これを「指向性が強い」と言います。
一方、ベースアンプから出る低音域は、ランタンの光のように全方位にふわっと広がります。
ここで問題になるのが、スタジオでのギタリストの立ち位置です。
多くの場合、ギタリストはアンプのすぐ近くに立ち、アンプは足元にありますよね?
つまり、アンプのスピーカーはあなたの「ふくらはぎ」や「お尻」に向かって音を発射しているのです。
人間の耳は足にはついていません。懐中電灯の光(高音域)は、あなたの足元を通り過ぎ、スタジオの向こう側の壁や、真正面にいる他のメンバーの耳を直撃しています。
あなたは「音がこもって聞こえるな(高音が耳に届いていないから)」と感じてボリュームとトレブルを上げますが、その瞬間、真正面にいるメンバーの鼓膜は破壊されているのです。
「膝で聴く」のをやめれば世界が変わる
この解決策はシンプルです。アンプを自分の方に向けること。
アンプの下に何かを挟んで斜めに傾けるか、椅子や台の上に置いて高さを稼ぎましょう。
スピーカーが自分の耳の方を向いた瞬間、「うわっ、痛い!こんなに高音出てたの!?」と驚くはずです。そこで初めて、適切な音量とEQ設定ができるようになります。

コンボアンプや1〜2発キャビネットを乗せてモニター環境を改善
ベーシストが「聞こえない孤独」に陥る理由

一方で、ベーシストが「自分の音が聞こえない」と嘆くのには別の理由があります。それはギタリストによる「音域の侵略」です。
ギターの「低音」は、アンサンブルの「邪魔者」?
ギタリストが一人で音作りをする時、やりがちなのが「ズンズン言わせたい」という欲求から低音(BASS)を上げすぎることです。
一人で弾く分には気持ちいいのですが、バンドに入ると、そのギターの低音がベースの帯域と完全に被ります。
これを料理に例えるなら、「カレー(バンド全体)」を作っているのに、ジャガイモ(ギター)が巨大すぎてルー(ベース)が見えなくなっている状態です。
ギターの役割は、美味しい具材やスパイスとして中高域を彩ること。ルーの役割(低域の土台)まで奪おうとすると、鍋の中はただのゴチャゴチャした固形物になります。
「聞こえない」の正体は音量ではなく「分離感」
ベーシストが「聞こえない」と言う時、それは音量が足りないのではなく、「輪郭(アタック)が埋もれている」ケースがほとんどです。
ギターが低音を出しすぎると、ベースのラインが見えなくなります。結果、ベーシストも対抗して音量を上げ、ドラムもそれに負けじと力み……これが「音量戦争」の正体です。
誰も幸せにならない、悲しい消耗戦です。




歪みの後段、もしくはアンプのセンドリターンに繋ぎ
100Hz、200Hzをカットする事でベースとの被りを解消
アンサンブルを救う「引き算」の美学

では、具体的にどうすればいいのか。答えは「引き算」にあります。
勇気を持ってBASSを下げる
ギタリストへの提案です。スタジオのアンプで、普段の設定からBASSのツマミを「2〜3」下げてみてください。
そして、代わりにMIDDLE(中域)を少し上げてみてください。
一人で弾くと「なんかペラペラして頼りないな」と感じるかもしれません。でも、バンドで合わせた瞬間、魔法がかかります。
ベースの音がくっきり聞こえ、ドラムのキックが腹に響き、そしてあなたのギターはアンサンブルの上で綺麗に鳴り響くはずです。
これが「抜ける音」です。音量を上げなくても、帯域が整理されていれば、音は客席まで飛んでいきます。
歪み(ゲイン)も下げてみる
もう一つ、音量戦争の原因になるのが「歪ませすぎ」です。
歪みを深くすればするほど、音は圧縮(コンプレッション)され、平坦になり、奥に引っ込んでしまいます。
「音が抜けないからボリュームを上げる」という悪循環を断つために、ゲインを少し下げてみてください。
クランチ気味の方が、ピッキングのニュアンスが出て、結果的に音が前に飛び、小さな音量でも存在感が出ます。
Q&A|音量問題の「あるある」を解決
ギタリストの皆さんが抱きそうな疑問に、先回りしてお答えします。
Q: アンプを傾けろって言うけど、スタジオにそんな機材ないんですけど?
A: アンプのキャスター、後ろだけ外してみて。
多くのスタジオ常設キャビネット(Marshall 1960Aなど)はキャスターがついています。ヘッドを下ろして後ろの2つだけ外すと、アンプ自体が斜め上を向きます。これだけでモニター環境は劇的に改善します。あ、終わったらちゃんと元に戻してくださいね。
Q: 音量を下げると、サステイン(音の伸び)がなくなって弾きにくいんですが…
A: コンプレッサーかブースターを使いましょう。
音量(マスターボリューム)でサステインを稼ごうとするのは、スタジオ練習では危険です。コンプレッサーを薄くかけたり、ソロの時だけブースターを踏んだりして、「音圧」をコントロールしてください。

NATモードでナチュラルなブースト
CEモードのプリアンプで音抜けの改善
REモードのプリアンプで音圧アップ
Q: ベーシストにも責任はあるんじゃない?
A: もちろんあります。
ベーシストが「ドンシャリ(中域カット)」設定にしすぎていると、ギターの帯域と被らずとも、単純に音が抜けなくなります。お互いに「中域(ミドル)」をどう扱うか、話し合うのがベストです。Red Hot Chili Peppersのフリーとジョン・フルシアンテの関係のように、お互いの隙間を埋める意識が大切です。
まとめ
ギターの音量問題は、マナーの問題ではなく「物理と音響の問題」です。
ギターアンプは「膝」ではなく「耳」で聴く位置にセットする(傾ける・上げる)。
ギターの低音はベースの邪魔。勇気を持ってBASSをカットし、MIDDLEを出す。
「一人で弾いて最高の音」は「バンドで弾くと最悪の音」になりがち。
音量ではなく、帯域の棲み分け(引き算)で解決する。
あなたのギターが「騒音」から「最高のアンサンブルの一部」に変われば、バンド練習はもっと楽しく、クリエイティブな場所になります。
次回のスタジオでは、ぜひアンプを少し傾けて、ベースの音に耳を澄ませてみてください。
あなたの音楽ライフが、より調和の取れた素晴らしいものになりますように。








