フェンダーのJaguar(ジャガー)と聞くと、多くのギタリストが「少し扱いづらい」「マニアック」という印象を持つかもしれない。
鋭い高域、短いサステイン、弦落ち、操作しにくいスイッチ類。
ストラトやテレキャスターのような王道ではないが、Jaguarには独自の色気と完成された設計思想がありつつそれが欠点として認知されているのも事実。
実際のところJaguarは“理解して使えば化ける”ギターだ。
そのクセこそが、表現力の源になっている。
そして今、羊文学の塩塚モエカによるシグネチャーモデル「Moeka Shiotsuka Jaguar® moni」が発表されたことで、今Jaguarというギターが脚光を浴びつつある。
この記事では、
塩塚モエカシグネチャー“moni”の概要
Jaguarというギターの歴史と特徴
欠点とその対処法
そしてシューゲイザーとの相性
この4点を軸に、長年ギターを弾いてきた筆者の視点で深掘りしていく。
Moeka Shiotsuka Jaguar® “moni”とは?

塩塚モエカが長年愛用してきた「American Vintage ’65 Jaguar®」をベースに開発された、Fender Japan発のアーティストモデル。
発売日は2025年11月26日(水)、価格は187,000円(税込)。
■ デザインと外観
カラーは“エイジングされたソニックブルー”。個人的にレギュラーラインナップで各モデルに展開されても良いくらい良い色だと思っている。
ヴィンテージ感を演出する水張りデカール仕様で、ネックプレートには塩塚本人のサイン。
ペグボタンには「よく切れる4弦が切れませんように」という願いを込めた蝶の刻印が施されている。
こういう細やかな人間味のあるデザインが面白い。
付属の「moni」ステッカーは、彼女が実際にJaguarのプリセットスイッチを固定するために貼っているものを再現。ファンならずとも、現場でのリアリティを感じるだろう。
■ ネックと演奏性
バインディング付きCシェイプ・ネック
ミディアムジャンボフレット採用
軽いタッチでもスムーズに演奏でき、小柄な人でも握りやすい設計になっている。
塩塚本人も「初めてギターを買う方にも合うように作った」と語っており、“成長を共にするギター”というコンセプトが伝わってくる。
■ サウンドとハードウェア
このモデル専用のオリジナルピックアップと、ブラス製スパイラルサドルを搭載。
クリーンではJaguarらしいエッジの効いた抜けと、ほのかな温かみを両立。
歪ませても音の輪郭が崩れず、塩塚のライブで聴けるような透明感のあるドライブトーンが再現できる。
Fender Jaguarとは? その歴史と立ち位置
Jaguarが誕生したのは1962年。当時のFender最上位モデルとして登場した。
兄貴分のJazzmasterをベースに、より高級で多機能な設計が施されている。
当初はサーフミュージック全盛期。クリーンで明るく、速いトレモロを多用する音楽シーンにぴったりのギターとして開発された。
しかし時代はロックンロール、そしてハードロックへ。
“ロングサスティン”が求められるようになり、Jaguarは不人気機種に。
1975年には一度生産が終了してしまう。
だがその後、80年代後半に日本製リイシューが登場。
90年代、ニルヴァーナのカート・コバーンがJaguarを使用したことで再評価が進み、オルタナ・ロックの象徴へと生まれ変わった。
以来、Jaguarは“メインストリームとは少し違う”ギタリストたちに愛され続けている。
Jaguarの構造とサウンドの特徴
■ 24インチのショートスケール
Jaguar最大の特徴はこの短いスケール。
弦のテンションが緩く、押さえやすい。コードフォームの移動もスムーズで、手の小さい人にも弾きやすい。
ただし、弦の張りが弱いためにピッチが揺れやすいという一面もある。
これがJaguarの「扱いが難しい」と言われる理由の一つだ。
■ オフセットボディとフローティングトレモロ
独特の“くびれ”を持つオフセットボディは、座っても立ってもフィットしやすい。
ブリッジとテールが独立したフローティングトレモロを採用しており、
軽いタッチで滑らかなアーミングが可能。
ブリッジ後ろの弦が共鳴して出る「シャーン」という金属的な倍音は、Jaguarならではの美点でもある。
■ Jaguar専用シングルコイル・ピックアップ
見た目はストラトに似ているが、内部構造が異なる。
ヨークという金属パーツで磁力を強化し、より歯切れの良いエッジ感を生む。
これが、シューゲイザーなどの“重ねても埋もれない”音の秘密でもある。
■ 独立した二系統回路
Jaguarにはリード回路とリズム回路があり、音色を瞬時に切り替えられる。
リード回路(下段):各ピックアップのON/OFF+ローカットスイッチ。
リズム回路(上段):フロントPU専用のまろやかなトーン。
慣れればステージでも自在にコントロールできる。
Jaguarの欠点と、現代的な対策
弦落ち問題
→ 太めの弦(.010〜.046以上)を使用し、ネックシムで角度調整。
→ 定番対策はMastery BridgeまたはStaytremブリッジへの交換。サスティンの短さ
→ Buzz Stopバーで弦のテンションを上げる。
→ ただし、アームの柔らかさはやや失われる。チューニング不安定
→ ナットやペグの整備、弦の巻き方を見直す。
→ “揺れ”を前提にした正しい調整が大切。
改善すれば個性が薄くなるリスクもあるが、かといって純正では扱いにくい。
これらの悪癖と格闘するのもJaguarの醍醐味ともいえる。
シューゲイザーとの親和性
Jaguarは、シューゲイザーというジャンルと非常に相性が良い。
マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズが使ったことでも有名だ。
浮遊感:フローティングトレモロによる微妙な揺れ。
抜けの良さ:シングルコイルのエッジとローカットの組み合わせ。
暴れる特性:ハウリングや短いサスティンを“ノイズ”として活かせる。
リバーブを多用するサーフミュージックで重宝されたように、リバーブを深く効かせるシューゲイザーとも相性が良い。
サステインが短くアタックが強調されたJaguarだからこそできる表現。
欠点とされた部分が見事に生きているのは面白い。
他に得意なジャンル
オルタナ/グランジ:カート・コバーンの改造Jaguarが象徴的。
サーフ:Jaguar開発当初のメインターゲット。
ガレージ/インディ:ショートスケールの反応速度とシャープなカッティングが強い。
個性派ロック:他の人と違う音を出したい人に最適。
アンプ直というよりは様々なエフェクトを駆使して大胆な音作りをする事で魅力を発揮するギターなのかなという印象。
クラシックなジャンルよりも少し繰ったクリエイティブ且つ荒々しい音楽でこそ最大限魅力を発揮する。
おすすめ現行Jaguar
SQUIER ( スクワイヤ ) / Classic Vibe ’70s Jaguar Black
本格スペックの廉価モデル。
約7万円でまあまあレアなギターの醍醐味を味わえるのは嬉しい。
FENDER ( フェンダー ) / Player II Jaguar, RW FB, Aquatone Blue
コントロール部をシンプルに改善したモデル。
実用的なスペックになっている上に電装トラブルが起きてもセルフで修理しやすい。
現場でガシガシ使いたいまさにプレイヤー向けの一本。
FENDER ( フェンダー ) / Made in Japan Traditional 60s Jaguar
公式の国産ジャガー
作りの丁寧さとjaguarならではの荒々しさを楽しめる一本。
ジャガーの中でも比較的楽器店在庫があるモデル。
日本国民にとって最も身近なJaguar
Jaguarは“扱いづらい”ではなく“奥が深い”
Jaguarは、理解すればするほど魅力が増すギターだ。
ショートスケールと独自回路、フローティングトレモロ。
それらの“個性”を使いこなすほど、サウンドは立体的になっていく。
そして、塩塚モエカの“moni”はそのJaguarの本質をそのまま活かすスペックになっている。
軽い弾き心地、優しいトーン、そして確かな存在感。
これからJaguarに挑戦する人にとって、最高のスタート地点になるだろう。
発売は2025年11月26日(水)。
もし少しでも気になっているなら、今のうちに店頭で予約しよう。
また、店頭でJaguarを見かけたら是非試奏してみてほしい。
特性を予習してから挑めばその魅力にも気付けるはずだ。