リハーサルスタジオやアンプシミュレーターで必ずと言っていいほど目にするFenderアンプ。「Tweed」「Blackface」「Silverface」と呼ばれたり、見た目は似ているのに「Deluxe」「Twin」「Princeton」など名称がたくさんあったりして、違いがよく分からないという声をよく聞く。
実際、同じ“フェンダー”でも鳴らしてみると驚くほど音が違う。クリーンが強い機種もあれば、意外なほど歪むものもある。重さや音量の違いで使い勝手も大きく変わる。
「Twinが一番クリーンだと聞いたけど、持ち運びで腰をやられた」「Deluxeを自宅で鳴らしたら、音量が上げられずモッサリした」──こうした経験談を見聞きする事も多い。
結論を言えば、フェンダーアンプは外観=時代ごとの回路思想、そしてモデルごとの設計(ワット数・整流方式・トランス・スピーカー構成)でキャラクターが決まる。これを押さえておけば、自分に合うモデルを迷わず見極められる。
Fenderアンプ 3つの時代とサウンド傾向(筐体で見分ける)
1) ツイード期(Tweed|1947年頃〜)
外観は生成りの布地を貼ったようなクラシカルな見た目。名前の由来はスコットランドの毛織物「ツイード」から。
サウンド傾向:乾いたパンチとレスポンスの速さが特徴。実はかなり歪みやすい。軋むようなオーバードライブ感があり、現代の「クリーンなフェンダー」というイメージとは大きく異なる。
代表モデル:’59 5F6-A Bassman。美しくリッチなクリーンから、ピッキングを強めた時のジューシーな歪みまで明瞭さを保つ。ロック黎明期の名機であり、マーシャルJTM45の回路の元にもなった。
ツイードは、ギターのボリュームに敏感に反応するのも魅力。クリーンからクランチまで、手元の操作だけで自在にコントロールできる。
2) ブラックフェイス期(Blackface|1963〜1967)
黒いトーレックスと黒パネル。
現在の「フェンダー=美しいクリーン」というイメージを決定づけた時代。
サウンド傾向:歪みがほとんどなく、透明感あるクリーンが軸。いわゆる「スクープミッド」で、高域がキラキラと輝き、低域は丸く豊か。
ジャンル適性:ジャズやカントリー、歌ものなどクリーン主体のスタイルで高評価。現代ではペダルプラットフォームとしても人気が高い。
この時代のアンプは、ボリュームを上げても“割れずに伸びる”クリーンが特徴。バンドアンサンブルでも埋もれにくく、ペダルの個性を素直に引き出してくれる。
3) シルバーフェイス期(Silverface|1967〜1981)
レオフェンダー、ジョージフラートンの手から離れたCBS買収後。
外観は銀色のパネルに変化。
サウンド傾向:回路の安定化によりヘッドルーム増加/歪み減少。よりクリーン志向へ。
評価:Blackfaceの方が“音楽的”とされることが多いが、Silverfaceはエフェクターのキャラクターを出しやすいという長所があると言われることも。
現行の’68 Custom:あえて回路を見直し、温かみ・早めの歪みを取り戻した設計になっているためブラックフェイス期に寄せたチューニングになっている。
つまり順然たるシルバーフェイストーンを得るためにはビンテージ品を入手する必要があり、現行のシルバーフェイスはブラックフェイスに寄せた味付けになっているため注意が必要。
とは言え、モデルによってはシルバーフェイスなどにもみられる突き抜けるようなクリーンサウンドは体感できるためよほどこだわらない限りは気にする必要はないかなというのが筆者の見解。
銀色パネルの外観が好きなユーザーにも68customという選択肢が残されているのは嬉しい。
主要モデル5機種の特徴と違い
1. Bassman(ベースマン)|ツイードの象徴
仕様:45W/6L6×2/真空管整流(5AR4)/10インチ×4スピーカー
音:乾いたパンチ+甘いブレイク。クリーンもリッチだが、強く叩けばワイルドな歪みが現れる。
歴史:元はベース用だが、ギタリストに愛用されマーシャルへ影響を与えた。
用途:ブルース、ロック、ファンク。ペダルとの相性も良好。
特に4×10の構成は、中域に特徴的な張りを与え、12インチスピーカーとは違う切れ味を生み出す。
2. Twin Reverb(ツインリバーブ)|最大級のクリーン
仕様:85W/6L6×4/ソリッドステート整流/12インチ×2
音:ガラスのように透明なクリーン。大音量でも歪まない。低域がタイトでリッチ。
実用性:非常に重い(約30kg以上)。ただし、小音量でもクリーンの質を保てるのは大きなメリット。
ジャズギタリストやシンガーの伴奏をするプレイヤーにとっては鉄板機種。大きな会場でも余裕のヘッドルームを誇る。
3. Deluxe Reverb(デラックスリバーブ)|ライブの現実解
仕様:22W/6V6×2/真空管整流/12インチ×1
音:早めにブレイクするスイートスポット。タッチに敏感で、コンプレッションが心地よい。
弱点:自宅で音量を絞ると“もっさり”する傾向。Vol 2.5〜3以上で本領発揮。
持ち運びも比較的楽で、バンドでの実用性が高い。ブルース〜ロックに最適。
近年のトレンドモデルでもある。
4. Princeton Reverb(プリンストンリバーブ)|自宅・録音の万能機
仕様:12〜15W/6V6×2/10インチ×1/真空管整流
音:小出力ならではの早い歪み。クランチサウンドが得やすく、宅録や自宅練習に最適。
リイシュー:’65=クリーン寄り、’68 Custom=早めに歪みベース厚め。
軽量で扱いやすく、プロのレコーディング現場でも愛用される。隠れた名機。
5. Super Reverb(スーパーリバーブ)|4×10の迫力
仕様:40W/6L6×2/10インチ×4/真空管整流
音:広いヘッドルーム。煌びやかなクリーンとクリスピーな歪み。
実用性:重量は約29kg。運搬は大変だが、バンドアンサンブルで埋もれない存在感。
ブルースギタリストに特に人気で、スティーヴィー・レイ・ヴォーンも愛用したことで知られる。
代表機種どうしの比較
Deluxe Reverb vs Twin Reverb

ブラックフェイス期を代表する2大リバーブ搭載モデル。
フェンダーアンプと聞いて真っ先に想像するのがこのどちらかという人は多いはず。
基本回路は共通していても、実際のキャラクターは大きく異なる。
Deluxe Reverb(DR)
出力:22W。6V6パワー管を2本使用。
整流方式:真空管整流(5AR4)。そのため、強く弾いた時に“サグ”と呼ばれる柔らかいコンプレッションが生まれ、タッチに敏感に反応する。
サウンド:早い段階で歪むため、小規模ライブやブルースロックに最適。ボリュームを3以上に上げた時の甘い歪みは「デラリバ・サウンド」と呼ばれるほど愛されている。
運用面:重量は約20kgとフェンダーアンプの中では比較的軽量(それでも重いけど)で、持ち運びしやすい。
反面、自宅で音量を絞るとモッサリして本領を発揮できないことが多い。まとめ:ライブ実用機の現実解。ステージではペダルとの相性も良く、ソロの抜けも作りやすい。
Twin Reverb(TR)
出力:85W以上。6L6パワー管を4本使用。
整流方式:ソリッドステート整流。サグがほとんどなく、低域がタイトで硬質なキャラクター。
サウンド:ほぼ歪まないクリーンが最大の魅力。大音量でもガラスのように透明感を保ち、特にジャズや歌伴に適している。
運用面:重量は30kg以上と非常に重い。リハスタ常設では頼もしいが、個人持ち運びには覚悟が必要。
ただし音量を小さくしてもクリーンの質感が保たれるため小音量での音作りがそのまま生かせる。まとめ:「歪まない」クリーンアンプの象徴。大規模ステージで本領を発揮する。
DRとTRの選び分け
小規模〜中規模のライブ → Deluxe Reverb(適度な歪みが欲しい人向け)
大音量ステージやクリーン命のプレイヤー → Twin Reverb(ペダルで歪みを足す前提)
持ち運びや自宅練習も考える人 → Deluxe Reverbの方ががまだ現実的
Bassman vs Super Reverb

同じ4×10スピーカー構成を持ちながら、時代もサウンド哲学もまったく違う2機種。
Bassman(5F6-A Tweed)
時代背景:1950年代末のツイード期を代表するアンプ。元はベース用だが、ギタリストが愛用したことで“ロックのレガシー”となった。
出力/仕様:45W、6L6パワー管2本。真空管整流(5AR4)によるサグがあり、弾き方次第で音が揺らぐ。
サウンド:乾いたパンチと軋むようなドライブ。クリーンもリッチだが、強く弾けば即座にブレイクし、歪みの中に明瞭さが残る。
使い勝手:リバーブは非搭載。必要に応じてペダルや外部ユニットを足す必要がある。
まとめ:直感的で野性味あふれるサウンド。ブルース、ロック、ガレージ系に最適。
Super Reverb(AB763 Blackface)
時代背景:1960年代中期のブラックフェイス期。よりクリーンを重視した設計。
出力/仕様:40W、6L6パワー管2本。真空管整流(GZ34)によるコンプレッション感。
サウンド:煌びやかで広がるクリーン。ボリュームを上げると程よいクリスピーな歪み。スクープ気味のEQで、ベースは豊かに、高域はキラキラと響く。
使い勝手:リバーブとトレモロを内蔵。重量は約29kgと大型で、持ち運びは大変だが、ステージでは抜群の存在感を誇る。
まとめ:“リバーブ”を備えたクリーン特化アンプ。ブルースやR&Bで圧倒的な信頼を得ている。
BassmanとSuper Reverbの選び分け
歪みをアンプで作りたい/直感的に弾きたい → Bassman
クリーン主体でリバーブ/トレモロ込みのサウンドを楽しみたい → Super Reverb
持ち運びを重視 → Bassmanの方が5kg程度軽い。が、決して軽量とは言えない。
バンドで埋もれないクリーンを求める → Super Reverb
自宅でも“フェンダー”を楽しむ:Tone Masterシリーズ

Fenderが出した最新の答え
真空管アンプは「音は最高だが、自宅では鳴らせない」という永遠の悩みを抱えてきた。ボリュームを上げないとフェンダーらしい伸びやかなクリーンや心地よい歪みが出ない。しかし実際に家庭環境で90dB以上の音量を出すのは難しい。
そこでフェンダーが打ち出した解答がTone Masterシリーズだ。
従来のチューブ回路を細部まで解析し、デジタルDSPで忠実にモデリング。伝統の回路を現代的な形で再現しつつ、家庭やレコーディング環境に合わせた新機能を盛り込んでいる。
1. 軽量化:真空管レスで持ち運びが圧倒的に楽に
Tone Master最大の特徴は軽さ。真空管や大型トランスを廃し、デジタル基盤とClass Dパワーアンプを採用したことで、重量はオリジナルの半分程度になっている。
例:Tone Master Deluxe Reverb=約10.4kg(オリジナル=約19kg)
例:Tone Master Twin Reverb=約15kg(オリジナル=約30kg超)
これにより、リハスタや小規模ライブへの持ち運びも苦にならない。特にTwin Reverbは「音は最高だけど腰を壊す」と言われてきただけに、Tone Master版の軽量化は画期的だ。持ち出せるフェンダーアンプの存在意義は大きい。
2. 出力切替(アッテネーター):自宅から本番まで同じトーン
Tone Masterにはリアパネルに6段階の出力パワーセレクターが搭載されている。これにより、同じトーンを保ちながら音量だけを下げることが可能だ。
例)
Twin Reverb:85W → 40W → 22W → 5W → 1W → 0.5W
Deluxe Reverb:22W → 12W → 5W → 1W → 0.5W → 0.2W
この機能により、
自宅練習ではベッドルームレベルの0.2W設定で快適に練習
スタジオや小規模ライブでは5W〜12W設定
大きな会場ではフルパワーで本領発揮
というように、場面を問わず“同じトーン”をキープできる。従来のチューブアンプでは「音量を上げないと音が痩せる」という問題があったが、Tone Masterではそれが解決されている。
3. モダンな接続性:録音・配信に強い
Tone Masterは単なるアンプではなく、現代の宅録・配信環境を見据えた設計になっている。
XLRバランスアウト:IR(インパルスレスポンス)によるキャビネットシミュレーション付き。マイクを立てなくても本格的なサウンドをそのままPAや録音機材へ送れる。
USBポート:ファームウェアアップデート対応。
これにより、宅録環境ではアンプをマイクで録らずともプロクオリティの音が得られ、ライブ現場でもPAに直接接続して安定した音を出すことができる。
4. ラインナップとモデル別の特徴
Tone Masterシリーズは、Fenderの歴史的名機をデジタルで忠実に再現している。

今のところTone Masterシリーズで唯一センドリターンを搭載しているのが特徴。
ライン出し時のIRも3タイプから選択でき、まさに至れり尽くせりの現代仕様のベースマンだ。

近年のトレンドでもあるデラリバ。
メンテナンスフリーで軽量なギターアンプとして使えるのは非常にありがたい。

クリーンなチューブアンプと言えばツインリバーブ。
スタジオ備え付けのヘタったチューブとはおさらば。

もともと小型だがTone Masterでリリースされたことで更に利便性が増した。
重量約9kg、ベッドルームから小規模ライブイベントまでカバーする抜群の機動力が魅力。

4発スピーカーから繰り出される豊かなクリーントーン。
アッテネート出来るとは言えデカい音鳴らしてなんぼのスーパーリバーブ。
ステージに持ち込んで欲しい1台だ。
5. チューブアンプとの比較と評価
Tone Masterは「本当に真空管と同じなのか?」という議論を常に呼ぶ。
肯定的評価
多くのユーザーは「目隠しで聴いても違いが分からない」と評価。
軽量、低音量でも“完成音”が出る点を絶賛する声が多い。
真空管交換や定期的なメンテが不要で、コストパフォーマンスも高い。
批判的評価
一部のプレイヤーは「真空管特有の空気の揺れや奥行きが薄い」と指摘。
「ハイトーンが少し硬質に感じる」という意見もある。
DSP故障時の修理リスク(基盤交換が難しい、部品供給終了の懸念)も指摘されている。
- アッテネートできるのは便利だが、やっぱりフルパワーでないと本領を発揮できない。
とはいえ、Tone Masterは「チューブをフルで鳴らせない時代の現実解」であることは間違いない。
日々のメンテナンスと腰痛リスクなども考慮すると現代日本においてTone Masterが最適解になるユーザーは多いはずだ。
家庭練習、録音、ライブのすべてに対応できる万能性は、従来のフェンダーにはなかった新しい価値だ。
Tone Masterは“現代のフェンダー”
軽量で運搬が楽
6段アッテネーターで自宅〜本番をカバー
録音・配信に直結できる接続性
歴史的名機を忠実に再現したラインナップ
Tone Masterは、ただのデジタルアンプではなく、「真空管アンプを鳴らしきれない現代のギタリスト」に向けたフェンダーの明確な解答だ。
自宅では0.2Wでフェンダークリーンを楽しみ、スタジオでは12W設定でドラムと合わせ、本番ではフルパワーでステージを揺らす──これが可能になったのはTone Masterならではの強みである。
仕様と時代で“フェンダーサウンド”は説明できる
フェンダーアンプは、見た目や名前の違いだけでなく、時代ごとの設計思想と仕様の違いがそのまま音に直結している。大きく分けると以下の3つのキャラクターになる。
Tweed期=歪みやすくワイルド。手元の操作やピッキングの強弱でダイレクトに表情が変化する。ロック黎明期のサウンドを支えた。
Blackface期=極上のクリーン。透明感と艶のあるサウンドで、ジャズやカントリー、歌ものの伴奏に理想的。エフェクターで色付けしていく“キャンバス”としても高評価。
Silverface期=安定性とヘッドルームの増加。クリーン主体で扱いやすく、現代的な音楽シーンでも長く愛用されている。’68 Customのように、より早めに歪む設計に振り直した現行モデルも人気。
主要5機種の整理
歴史に残る代表的な5機種をまとめると、以下のようにキャラクターがはっきりと分かれる。
Bassman:ツイード期の象徴。ジューシーでパンチのある歪み。マーシャルの原型ともなったロックの遺産。
Twin Reverb:クリーンを極めた王者。ガラス質の透明感と圧倒的なヘッドルーム。ジャズや歌伴に最適。
Deluxe Reverb:ライブ現場の現実解。早めにブレイクする心地よい歪みと扱いやすいサイズ感。ブルースやロックに好相性。
Princeton Reverb:宅録・自宅練習の王道。低出力で甘いクランチが得やすく、レコーディング現場でも信頼される。
Super Reverb:4×10スピーカーの押し出しと煌びやかなブラックフェイス・クリーン。バンドアンサンブルで埋もれない存在感。
自宅でも“フェンダー”を鳴らすならTone Master
そして現代的な選択肢として欠かせないのがTone Masterシリーズ。
真空管アンプのトーンをデジタルで忠実に再現しながら、重量は従来の半分以下。
6段階のアッテネーターにより、ベッドルーム音量から本番ステージまで常に同じトーンを維持可能。
IR付きXLR出力やUSB更新など、宅録・配信・ライブ直結に対応したモダンな接続性。
Deluxe Reverb、Twin Reverb、Princeton Reverb、Bassman、Super Rverb
と、歴史的名機を網羅したラインナップ。
「自宅では音が出せない」という問題を解決しつつ、“あのフェンダーサウンド”を身近にしたシリーズと言える。
結論:自分のスタイルと環境に合わせて選ぶ
歪みや反応の速さを楽しみたいなら → Bassman
絶対に崩れないクリーンを求めるなら → Twin Reverb
ライブでの実用性と扱いやすさを両立したいなら → Deluxe Reverb
自宅や録音で手軽にフェンダーを味わいたいなら → Princeton Reverb
バンドで抜ける芯のあるクリーンが欲しいなら → Super Reverb
メンテナンスフリーで利便性を求めるなら → Tone Masterシリーズ
結局、仕様や時代背景を知ることで「自分にはどのフェンダーが合うのか」が明確になる。
ギターを弾く環境(自宅/スタジオ/ライブ)と、求めるサウンド(クリーンか歪みか)を整理すれば、自然と選択肢は絞り込まれていく。
そして一度“相棒”となるフェンダーを手にすれば、そのサウンドは一生の財産になるだろう。
今回紹介したものの他にも名機と呼ばれるFenderは無数に存在している。
ワット数やスピーカーの口径と数
リバーブやトレモロの有無など様々な仕様のアンプがあるので、店頭で気になったら是非試してみて欲しい。