「好きな音楽ばっかり聴いてると、幅が狭くなるよ」
そんな言葉を言われたことがある人、多いんじゃないだろうか。
確かに、いろんなジャンルに触れることは大切かもしれない。
でもその一方で、こんな風にも感じたことはないだろうか?
「じゃあ、好きな音楽をとことん聴き込むことって、そんなに悪いことなの?」と。
音楽の世界は広くて深い。だからこそ、“広く浅く”では見えてこない景色がある。
むしろ、好きな音楽を突き詰めていった人のほうが、結果的に“幅”のある表現を手に入れていたりする。
個性とは、広さじゃなく“深さ”から生まれるものなのだ。
この記事では、「幅を広げろ」という言葉に縛られてしまう人に向けて、
なぜ“好きな音楽に没頭すること”こそが、本当の意味で音楽人生を豊かにするのかを解き明かしていく。
一点突破が異ジャンルで武器になる
好きなジャンルを掘り下げた経験は、意外なかたちで別ジャンルに活きる。
たとえば、ずっとメタルばかりやってきたギタリストが、ある日ジャズにハマる。コードの構造もリズムの取り方も違う。最初は違和感しかない。
けれど、そんな彼がある日、ジャズの現場で「個性的な音」を出す。よく聴くと、それはメタルで培った手癖やフレーズの応用だったりする。速弾きの精度や、ピッキングの鋭さが、ジャズという文脈で新たな意味を持ち始める。
逆もまた然りだ。ジャズのセンスを持った人間がメタルに触れた時、その“外からの視点”が独特の色を持ち始める。
こうした“交差”が生まれるのは、どちらかを深く掘った経験があるからこそ。それぞれのジャンルに存在する美意識を理解しているから、別ジャンルに足を踏み入れたときにも「借り物感」のないプレイができる。
深く掘ることは、結果として“応用力”になる。
幅広い=強い、ではない
多彩に見える人がいる。何でも弾けて、どんな現場でもこなしてしまう。
でもその人が世の中のギターの仕事をすべてやっているかといえば、そんなことはない。どれだけ器用でも、ニーズは分散している。
そもそも、求められるニュアンスやキャラクターは千差万別だ。 「テクニック」だけではカバーできない、“文脈”の違いがある。
だからこそ、ジャンルごとの専門家が必要とされている。
「このジャンルならあの人だよね」と言われる人は、みんな自分の“好き”を信じて、徹底的に掘り下げてきた人たちだ。そこには信頼と説得力がある。
幅広くこなす人も凄い。だが、それは“軸”があるから応用できるのであって、軸なき応用はただの器用貧乏に終わる。器用さで立てる舞台もあるが、深さがなければ長くは続かない。
そして何より、表現の厚みが違う。掘ってきた人の音には“体温”がある。
異ジャンルのリスペクトが“深さ”を物語る

メタルで速弾きを極めた人が、ブルースの“間”に感動する。
逆に、ブルースのグルーヴを突き詰めた人が、メタルの精密さに舌を巻く。
これは、どちらかが優れているわけではない。身体感覚がまるで違うから、互いにリスペクトが生まれるのだ。
そして、そういう感覚を持っている人は、必ずと言っていいほど“深掘り”してきた経験を持っている。音楽に向き合う姿勢が真剣だからこそ、他ジャンルに出会ったときにも敬意が自然と生まれる。
深く掘った人間は、他ジャンルに対しても謙虚でいられる。ジャンルを超えた感動を素直に受け取れる。その姿勢が、さらなる音楽的成長を促す。
だからこそ、新しいものと出会ったときに、吸収できる幅も広くなる。
「好きな音楽ばかり聴くな」の正体
この言葉、冷静に聞いてみると何だか変だ。
本当に言いたいのは「お前、こんなのも知らねぇの?」というマウントだったりする。情報量で相手をねじ伏せようとする、よくあるパターンだ。
言ってる本人も大してそのジャンルに詳しくない。ただ知識の広さをチラつかせたいだけ。リスナーでありながらクリエイターぶってくるやつほど厄介だ。
そんな言葉に惑わされる必要はない。浅い言葉には浅い背景しかない。
深く掘っている人間は、そんな軽口を叩かない。語るよりも“出す”方にエネルギーを注ぐ。だからこそ音に説得力が宿る。
自分の“好き”を掘れ。話はそれからだ

他人の意見を気にして動いても、自分の音は見つからない。誰かの“正解”をなぞっても、それは単なる模倣でしかない。
「そのジャンルしかやってこなかったんです」って、むしろ誇っていい。そこにしかないニュアンス、そこにしかない響きが確実にある。
好きで続けてきたことは、誰にも奪えない強さになる。
周りが何と言おうと、自分が掘っている穴の中に必要なものは眠ってる。センスかもしれないし、表現の核かもしれない。あるいは、自分にしか伝えられないメッセージかもしれない。
だったら、他人の声なんて適当にあしらって、最短で撒けばいい。うなずいて、流して、自分のフィールドにさっさと戻れ。
役に立つアドバイスなんて、他人の口から出てくると思うな。評価されるかどうかなんて、他人が決めることじゃない。掘り続けた末に、自分の音が勝手に評価を呼ぶようになる。
掘れ。黙って掘れ。 音楽に限らず、没頭した先にしか本当の個性なんて生まれないんだから。
この記事のまとめ
- 「好きな音楽ばかり聴いてると幅が狭くなる」という意見に流されなくていい。
- 一つのジャンルを深く掘り下げた経験は、他ジャンルでも武器になる。
- 多彩に見える人も“軸”を持って応用しているだけ。
- 深く掘った人間ほど、他ジャンルにも敬意と吸収力を持っている。
- 他人のアドバイスより、自分の“没頭”に価値がある。
- 掘れ。黙って掘れ。その先に、唯一無二の個性がある。