ケンタウロスというエフェクターを耳にしたことはあるでしょうか。
オーバードライブ系エフェクターの中でも価格が異様に高騰し、ものによっては100万円を超える例すらあることで有名です。
近年は各メーカーがコピーモデルをリリースし、マルチエフェクターにも標準搭載されるようになりましたが、実際にその魅力を実感できていない方も多いのではないでしょうか。
実を言うと、筆者自身も10年以上前に先輩ギタリストが所有していた実機を弾かせてもらったとき、「これの何がそんなに凄いんだろう?」とピンとこなかった経験があります。
元々分かりづらい実機ですから、コピーモデルやモデリングエフェクトでも同じように「いまいち違いが分からない」「値段ばかり高い」と感じてしまう人は多いでしょう。
しかし、「ケンタウロスが分からないとマズイ気がする」という妙なプレッシャーを感じることはありませんか?
ジミ・ヘンドリックスが理解できないとマズイと感じるあの独特の気まずさに少し通じるものがあるかもしれません。
とはいえ100万円超で取引されるようなエフェクターでも、いまやコピーモデルやモデリングで手軽に体験できる時代。
だからこそ、しっかりとその本質を理解したうえで音作りに活かしたいというのは自然な流れでしょう。
そこで本記事では、「誰もがケンタウロスを効果的に使えるようになる」ことを目標に解説していきたいと思います。
ケンタウロスとは
ケンタウロス(正式名称:Klon Centaur)は、1990年代にビル・フィネガン(Bill Finnegan)氏によって開発されたオーバードライブ系エフェクターです。
特長としては「透明感」が挙げられ、ゲインを上げてもギター本来の音色やダイナミクスを損ないにくいとされています。
そのため、単純に歪みを加える用途だけではなく、ブースターとして、あるいはサウンドメイクの「つや出し」的な役割として活用されることが多いのが大きな特徴です。
開発当初は一つひとつがハンドメイドで作られていたという希少性もあって、流通量が少なく価格が高騰しました。
今でも中古市場では数十万円は当たり前、状態の良い個体や製造時期によっては100万円を超えるケースも珍しくありません。
なぜ評価されているのか
ケンタウロスが高い評価を得ている一番の理由は「ギターの生々しさを残したまま、音を押し出してくれる」点にあります。
オーバードライブペダルにありがちな色付け(特に中域の押し出しなど)が強すぎず、ギターやアンプの個性を活かしながら程よいコンプレッション感とゲインアップが得られるのが魅力です。
また、内部回路にゲルマニウムダイオードを使用している点や独自の回路構成から、同じように設計しても完全には再現しにくい独特の「ヌケの良さ」や「倍音感」があるとも言われています。
こうした“なんとも言えない”ニュアンスの差が、プロギタリストやマニアの心を掴み、結果としてヴィンテージ的な価値をも生み出す一因になっているわけです。
特徴的なバッファ
ケンタウロスが「つないだだけで音が良くなる」「魔法の箱」とまで称される理由のひとつに、独自のバッファ回路が挙げられます。
多くのオーバードライブが“トゥルーバイパス”を売りにする中、ケンタウロスはエフェクトをオフにしていてもバッファが常に音を通す設計になっており、音のロスや劣化を極力抑えながらギターの信号をアンプへ届けます。
このバッファ回路の影響で、ただシグナルチェーンに加えただけでも「ハイがくっきりする」「全体が前に出る」といった効果を感じる人が多く、結果として“魔法の箱”と呼ばれる大きな要因のひとつとなっています。
いわば、エフェクトON時だけでなく、OFF時においてもギターサウンドの質感向上に寄与するよう作り込まれているのが、ケンタウロスの特徴だと言えるでしょう。
他系統のオーバードライブとの違い
ケンタウロスは、いわゆるチューブスクリーマー系のように中域をグッと前に出したり、ファズ系のように強烈に歪ませたりするペダルとは一線を画します。
ミッドレンジの押し出しが控えめなため、ナチュラルなドライブ感を得ながらも音抜けは良く、必要に応じてゲインを上げてもギターやアンプ本来のキャラクターを失いにくいのが特徴です。
この“音を大きく塗り替えるのではなく、あくまで引き立て役に徹する”スタンスこそが、他系統のオーバードライブにはない評価ポイントと言えます。
結果的に“劇的な変化”を求める方には物足りなく映るかもしれませんが、逆に“原音の良さを最大限に活かしながら少しだけ脚色したい”という要望に対しては、これ以上ないフィット感をもたらすのがケンタウロスの持ち味です。
効果的な使い方
いくつか定番の使い方を紹介します。
ケンタウロスの特徴を念頭に入れて実際に試してみてください。
クリーンブースターとして使う
ゲインを低めに設定して出力(Volume)を少し上げると、クリーンブースターのように使えます。
いわゆる「原音をほんのり太くしつつ、音量を押し上げる」感じです。
歪ませずに音の存在感をアップしたい場合に適しています。
オーバードライブとして使う
ゲインを上げていくと、いわゆるライト〜ミディアムゲインのオーバードライブとして使用できます。
ギター本来の音を生かしつつも、しっかりと歪みが乗るので、ブルースからロックのリードまで幅広い用途で使えます。
別の歪みペダルとの組み合わせ
すでに他のオーバードライブ/ディストーションを使っている場合に、ケンタウロスを前段に置いてブーストする使い方もよく見られます。
例えば、チューブスクリーマー系のペダルの手前に置くことで、さらに倍音の豊かなリードトーンを作ったり、ハイゲイン系の歪みに薄く重ねて音の輪郭をはっきりさせるなど、“プラスアルファ”の役割を担います。
アンプのブースト
アンプをクランチ寄りにセットしておいて、ケンタウロスでブーストすることで、アンプ本来の歪みの質感を保ちつつゲインアップや音の押し出し感を向上させる手法も定番です。
アンプを限界近くまでドライブさせるとレスポンスが良くなるため、そのセッティングを活かしながら足元で切り替えるという運用が好まれます。
イマイチなところ
ケンタウロスと聞くと、魔法のように劇的な音質の変化を期待してしまうかもしれません。
ところが実際は、ギター本来のキャラクターを活かすタイプのペダルであり、いわゆる「個性爆発」系ではありません。
そのため、「音が良くなるらしい」という評判をうのみにして購入すると、想像していたようなダイナミックな効果が得られず拍子抜けする可能性もあります。
ここからは、そんなケンタウロスの“イマイチなところ”を具体的に見ていきましょう。
効果が分かりにくい
ケンタウロスは音作りに 微妙なニュアンスを加えるエフェクターなので、即座に「音が激変!」というタイプではありません。
むしろ良くも悪くもギターやアンプの素のキャラクターを生かす方向性のため、初心者には「変化が小さい…?」「これなら他のオーバードライブと同じじゃないか?」と思われることが多いです。
そういう意味では、玄人が手に取って初めて「他のペダルよりも自然なアタック感や高音域の抜け方が違う」と感じるケースも少なくありません。
コピーモデルも決して安くない
ケンタウロスのコピーモデルや派生モデルは数多く存在しますが、それでも3万円以上するものが少なくありません。
ブティック系のペダルであればコピーモデルでも5万円近くすることも普通にあります。
実機が高騰しているためコピーモデルに注目が集まるのは自然な流れですが、肝心のサウンド面での違いが分かりにくい上にコピーモデル自体も安価とは言えないとなると、「費用対効果」という観点で戸惑う方もいるでしょう。
確かにケンタウロス特有の心地よい倍音感やブースト特性には独自の魅力がありますが、それを重視しないのであれば、もっとお手頃価格で満足できるオーバードライブペダルを選んだ方が良いと考えるギタリストも多いです。
実機を体験できる機会が極めて少ない
ケンタウロスは流通量の少なさから、楽器店で試奏できること自体がほとんどありません。
したがって多くのギタリストはYouTubeなどの音源やコピーモデルを通してしか「ケンタウロスらしさ」を体感できないのが実情です。
実機を知らないまま「このコピーモデルは本家の再現度が高い」と言われても、その差を判断できる人は限られます。
そもそもケンタウロス自体が音の大きな変化ではなく「音の質感」に寄与するペダルなので、一聴して「これがケンタウロスの音だ!」と分かるものでもありません。
結果的に“UMA(未確認生物)”的な扱いを受けることもしばしば。
名は体を表すとはよく言ったものです。
コピーモデルを含めて「自分にとって使いやすいか」「音作りにどう生かせるか」を都度個別に評価する姿勢が大切になるでしょう。
おすすめのコピーモデル
ここで筆者がお薦めする、というか個人的に気になっているケンタウロスクローンモデルを紹介していきます。
コスパ
本物感
楽しさ
それぞれの観点から一台づつ選んでみました。
参考になれば幸いです。
CENTAUR OVERDRIVE
BEHRINGER ( ベリンガー ) / CENTAUR OVERDRIVE
ギタリストの間では古くから激安エフェクターでお馴染みのべリンガーからケンタウロスのコピーモデルがリリースされました。
実機を踏襲していながらもダウンサイジングされた筐体が特徴的です。
そして何より、ケンタウロス系の中でも安価で手に取りやすいのが嬉しいですね。
コスパ最高クラスのケンタウロスクローンです。
Centavo
WARM AUDIO ( ウォームオーディオ ) / Centavo オーバードライブヴィンテージのスタジオ機材のクローンなどで高い評価を得ているWORM AUDIOからリリースされている本機
ルックスはさることながらサウンド面でもほぼ実機と聴き分けできない程に高い完成度を誇ると評判です。
バッファーのオンオフも操作できるのがポイントです。
ケンタウロスを使っているんだという本物感をしっかり味わいたい方におすすめです。
Sick As Overdrive
BONDI EFFECTS ( ボンダイエフェクト ) / Sick As Overdrive
おしゃれで可愛い筐体が好印象!
また、中音重視のトーンと透明感に振り切ったリズムトーンを選択できる上に、BASS TREBLEの2バンドEQを搭載。
2モード仕様のトランスペアレント系オーバードライブとも解釈できる上質な一品。
少々値は張りますがケンタウロスの魅力も押さえつつ積極的な音作りも楽しめる筆者的に最も注目しているケンタウロスクローンです。
まとめ
ケンタウロスは、その希少価値や価格の高さだけで語られがちですが、実際には「元の音に自然な厚みやコンプレッション感を加える」など、とても使い勝手の良いオーバードライブ/ブースターペダルです。
とはいえ、激しく音が変わるタイプではないため、初心者には魅力が分かりにくいのも事実。
さらに、実機の価格が高騰し、コピーモデルやモデリングが多数存在するとはいえ、それぞれも決して安い投資ではありません。
結局のところ「ケンタウロス=魔法のペダル」ではありません。
ですが、ギター本来のキャラクターやアンプの質感を損なわずに、ワンランク上のサウンドメイクができるのは確かです。
もし予算や機会があるならコピーモデルを含めて試してみると良いでしょう。
その際は、“音色の変化”というより“音に溶け込む自然なブースト感やニュアンス”に注目して聴き比べると、本家も含めたケンタウロスの持つ魅力を少しずつ理解していけるはずです。