「最高のケーブル」を探す旅の終着点は、意外にも「普通のケーブル」だったりする。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
さて、ギタリストなら一度は陥る「シールドケーブル沼」。
「1本1万円のケーブルなら音が太くなるのか?」「方向性ありのケーブルで解像度が上がる?」
そんな風にカタログスペックと睨めっこし、財布を痩せ細らせて音を太くしようと必死になった経験、ありますよね。
結論から言うと、一周回って「CANARE(カナレ)」に行き着くのが、精神衛生上もっとも健全な選択かもしれません。
筆者も何本もハイエンドケーブルを使ってきましたが結局CANAREを使うことが多いです。
今回は、日本のスタジオ標準でありながら「安すぎる」と軽視されがちなCANAREの実力を、工学的・心理的側面から再評価していきます。
CANAREね。はいはい、いわゆる「ザ・標準」。スタジオに行けば絶対にあるし、現場でトラブルが起きた時にPAさんが貸してくれるのも大体これだね。
あら、私はちょっと苦手かも。なんかこう…「色気」がないのよね。もっと音が艶やかで、ピッキングの瞬間に“キュン”とくるようなロマンが欲しいのよ。CANAREって普通すぎてつまらないわ。
甘いな、リブ代。機材において「つまらない」は「信頼性」の裏返しだぞ。
数値的に安定していて、どこでも手に入る。物理的な耐久性も高い。我々が演奏に集中するためのインフラとして、これ以上のスペックはないんだ。今日はそのロジックを叩き込んでやるから覚悟しろ。
「音質が普通」であることの工学的価値

CANARE(特に定番のGS-6)の音質をレビューすると、多くの人が「可もなく不可もなく」「フラット」と表現します。
これを「つまらない音」と切り捨てるのは簡単ですが、エンジニアリングの視点で見ると、これは「リファレンス(基準点)」として極めて優秀であることを意味します。
静電容量とハイ落ちの「味付け」
ギターケーブルの音質変化の正体は、主に静電容量(キャパシタンス)によるローパスフィルター効果です。
ハイエンドケーブルの多くは、この静電容量を極限まで下げて「ハイ落ち」を防ぎ、「ワイドレンジで煌びやか」な音を作ります。
対してCANARE GS-6の静電容量は決して「低容量」ではありません。
が、適度に高域が削れ、落ち着いた中低域が残る味付けになっています。
この「適度な劣化」こそが、私たちが普段耳にしている「エレキギターらしい音」の正体なのです。
「単純接触効果」による安心感
心理学に「単純接触効果(ザイアンスの法則)」というものがあります。
繰り返し接するものに対して、人は好意や安心感を抱くという心理現象です。
日本のリハーサルスタジオ、ライブハウス、レコーディング現場の多くでCANAREが採用されています。
見方によってはどこにでもある平凡なケーブルですが、それは業務に耐えうるスペックを持っていることの証明であり、CANAREのブランド力の源泉となっているのです。
物理法則を無視するかのような「耐久力」

CANAREの凄さは、音よりもその物理的な頑丈さにあります。
「ケーブルは消耗品」という常識を疑いたくなるほど、CANAREは断線しません。
編組シールドの恩恵
安価なケーブルの多くは「横巻きシールド」を採用していますが、CANARE GS-6は「編組(へんそ)シールド」を採用しています。
銅線を網目状に編み込む構造のため、屈曲に対する耐性が異常に高いのです。
横巻き: 柔らかいが、曲げ伸ばしを繰り返すと隙間ができやすく、ノイズや断線の原因になる。
編組(CANARE): 網目が密度高く結束しているため、踏んだり引っ張ったりしても内部構造が崩れにくい。
この構造のおかげで、ステージでモニターの下敷きになろうが、ドラムのハードウェアに踏まれようが、CANAREは涼しい顔をして信号を送り続けます。
たしかに…。昔買った高いケーブルは半年でガリが出たのに、学生時代から使ってるCANAREはいまだに現役だわ。あれ、なんなの? ゾンビなの?
ゾンビではなく技術力の結晶だ。
しかもCANAREは被膜(ジャケット)の質もいい。適度な弾力があって、巻き癖がつきにくいんだ。ライブの撤収時に「8の字巻き」が決まりやすいのも、地味だが重要なスペックだぞ。
現場だと「トラブルが起きない」のが一番の性能だから音質より優先されることもあるよね。
それに、もし断線してもCANAREなら日本中どこの楽器屋でも売ってるから、ツアー先で現地調達できる安心感はデカいよ。
自作するより完成品が安い?「コストの逆転現象」

機材好きなら一度は通る道、「ケーブル自作」。
「良いプラグと良い線材を買って自分でハンダ付けすれば、安く高品質なケーブルが作れる!」
これは真理ですが、CANAREに関しては少し事情が異なります。
市場価格のバグ
サウンドハウスやAmazonでCANAREの完成品ケーブル(3m〜5m)の価格を見てみてください。2,000円〜3,000円でお釣りが来るレベルです。
もしこれを自作しようとすると…
CANARE GS-6 切り売り(数メートル)
CANARE製プラグ × 2個
ハンダ、予備備品
制作にかかる時間と労力
これらを合計すると、完成品を買うのとほとんど変わらない、あるいは完成品の方が安いという「コストの逆転現象」が起きます。
大量生産によるスケールメリットが効きすぎていて、個人のDIY精神をへし折るほどのコストパフォーマンスを実現しているのです。
「気楽さ」がパフォーマンスを向上させる

最後に、プレイヤー心理の観点からCANAREを推したい理由があります。
それは「認知負荷の軽減」です。
1本1万円以上のハイエンドケーブルを使っているとき、無意識にこう考えていませんか?
「踏まないようにしなきゃ」
「アンプの角に引っ掛けないようにしなきゃ」
「ジャックの抜き差しは慎重に…」
この「機材を気遣うストレス」は、微量ながら脳の処理能力(CPU)を食います。
その分、演奏への集中力が削がれているのです。
CANAREならどうでしょう?
「踏んでも平気」「壊れてもまた買えばいい(安いしそもそも壊れない)」
この圧倒的な心理的安全性。
機材への気遣いをゼロにして、100%演奏やパフォーマンスに没頭できる環境を作ることこそ、CANARE最大のメリットかもしれません。
よくある質問(Q&A)
Q1. レコーディングでもCANAREで大丈夫ですか?
全然OKです。むしろ「基準の音」としてプロの現場でも多用されています。
ただ、ハイレンジで煌びやかなクリーン(TOTOの『Rosanna』のような鈴鳴りサウンド)を狙いたいなら、OyaideやVital Audioなどのハイエンド系を選ぶのも戦略の一つです。使い分けが大事ですね。
Q2. 色がいっぱいあって迷います。音は違いますか?
音は同じです。
黒が定番ですが、あえて赤や青などの派手な色を選ぶのもおすすめ。ステージ上の暗がりでも自分のケーブルが見つけやすく、撤収時の取り違え防止になります。「視認性」も立派な機能の一つですよ。
また、役割ごとに色分けするという使い方もできるのもCANAREの強みです。
まとめ
CANAREのケーブルは、決して「妥協の産物」ではありません。
エンジニアリング: 編組シールドによる圧倒的な物理耐久性。
サウンド: 業界標準の「リファレンス」となるフラットな特性。
コスト: 自作する気を失せさせるほどのコストパフォーマンス。
心理: 「壊れても平気」という安心感が、演奏への集中力を生む。
初心者の最初の一本としてはもちろん、機材沼に疲れた中級者が「実家のような安心感」を求めて戻ってくる場所としても最適です。
結局、ボードの中はこだわりのパッチケーブルで固めても、ギターからボードへ繋ぐメインのシールドはCANAREってプロ、結構多いんだよね。
消耗品であることを忘れさせる耐久性…これこそが工業製品としての完成度だ。私はこの「質実剛健」さがたまらなく好きだぞ。
あえてCANAREを使うというロマンもある気がしてきたわ。それに、浮いたお金で美味しいランチでも食べたほうが、結果的にいい演奏につながるかも知れないものね!
あなたのギターライフが、断線の恐怖から解放され、より自由なものになりますように。
とりあえず1本、ギグバッグに入れておきましょう。絶対に損はさせません。

CANARE ( カナレ ) / LC03 BLACK シールドケーブル 3m

CANARE ( カナレ ) / LC05 BLACK シールドケーブル 5m
おまけ











