BOSS ST-2レビュー|スタックアンプを足元に。アンプライクな名機を再評価

スタックアンプの轟音を、6畳間の足元へ。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
新潟の冬は道路脇に雪の壁がそびえ立つのですが、ギタリストの心には常にマーシャルの壁(Wall of Marshall)がそびえ立っていますよね。
「自宅のアンプだとどうしてもあの『箱鳴り感』が出ない」
「スタジオのJCM900やJCM2000の状態が悪くて、いつも音がペラペラになる」
そんな悩み、ギタリストなら一度は抱えたことがあるはずです。
重たいヘッドを持ち運ぶのは腰が爆発するし、かといってデジタルのマルチエフェクターをイチから設定するのは面倒くさい。
結論から言うと、BOSS ST-2 Power Stackは、そんな悩みをたった一つのツマミで解決し、あなたの足元に「整備された極上のスタックアンプ」を召喚するペダルです。



BOSS ST-2とは?「アンプライク」の先駆け

BOSS ST-2 Power Stackは、2010年に発売された歪みエフェクターです。
このペダルの最大の特徴は、BOSSが長年培ってきたモデリング技術「COSM(Composite Object Sound Modeling)」を使用している点にあります。
通常のアナログ歪みエフェクター(DS-1やSD-1など)は、ダイオードなどで波形をクリッピング(切り取る)させて歪みを作ります。
対してST-2は、「真空管アンプが歪む挙動そのもの」をデジタルでシミュレートしています。これにより、単に波形が歪むだけでなく、キャビネットの共振や、大音量で鳴らしたときの低域の「圧」まで再現しようとしているのです。
なぜ今、あえてST-2なのか?
現在、BOSSには「MDP(Multi-Dimensional Processing)」という、帯域ごとに最適な処理を行う最新技術や、フラッグシップ機GT-1000に使われている「AIRD」という技術があります。
それらが登場した後も、ST-2がカタログ落ちせず現行ラインナップに残り続けているのには明確な理由があります。
それは、「これにしか出せない、不器用で太いロックの音」があるからです。
最新のデジタル技術は「分離感」や「解像度」を向上させる傾向にありますが、ロックギターの旨味である「音の混ざり具合(飽和感)」や「粘り」に関しては、ST-2のチューニングが絶妙にマッチしているのです。
魔法のツマミ「SOUND」の挙動を解明する

ST-2の操作系で最も特徴的なのが、「SOUND」というノブです。
これは単なるGAIN(歪み量)ではありません。回していくと、アンプのキャラクターそのものがモーフィング(変化)していくように設計されています。
SOUNDノブの領域とキャラクター変化
| SOUNDノブの位置 | アンプのイメージ | サウンド特性(工学的視点) |
| CRUNCH (~9時) | Vintage Plexi系 (1959) | ピッキングのトランジェント(立ち上がり)が速く、歯切れが良い。ボリュームを絞ると鈴鳴りクリーンに移行する。 |
| DRIVE (10時~2時) | JCM800系 | 豊かな中域(ミッドレンジ)と、適度なサグ(Sag)感が付与される。コンプレッションが効き始め、粘りのあるリードトーンに。 |
| ULTRA (3時~) | Modern High Gain系 (JVM/Mod) | 低域の共振周波数が強調され、スタックアンプ特有の「ズン」という箱鳴りが加わる。倍音成分が飽和し、ロングサスティンを実現。 |
このように、歪みの量だけでなく、EQカーブやコンプレッション感、低域のレスポンスまで連動して変化させています。
これにより、ツマミ一つで「年代の異なるマーシャルアンプ」を行き来するような体験が可能になっています。
アンプライクな弾き心地の正体

「アンプライク」という言葉はよく使われますが、ST-2においてそれを感じさせる要素は、「入力レベルに対する追従性」にあります。
通常、深く歪ませたディストーションペダルは、ギター側のボリュームを絞っても音がこもったり、急激に音が細くなったりしがちです。
しかしST-2は、プリアンプの回路動作をモデリングしているため、入力信号が下がると「歪み成分だけが減少し、クリーントーンに戻ろうとする」挙動を見せます。
これは、エドワード・ヴァン・ヘイレンやジェフ・ベックのように、手元のボリューム操作だけでクリーンからリードまでをコントロールするプレイヤーにとっては、必須の機能です。
「デジタルだから嘘くさい」という先入観を捨てて弾いてみると、そのあまりに自然なボリューム追従性に驚かされるはずです。



AIRDを用いた後継機種の可能性

ここからは少しマニアックな考察です。
BOSSは現在、フラッグシップのGT-1000やGX-100、そしてコンパクトサイズのIR-2などで、最新のAIRD(Augmented Impulse Response Dynamics)技術を展開しています。
COSMが「アンプの各パーツを仮想的に組み上げる」技術だったのに対し、AIRDは「アンプとスピーカー、そして接続先の相互作用まで含めて再現する」技術です。
もし、ST-2の実質的な後継機が出るとしたら、それはどのような形になるでしょうか?
可能性1:IR-2が実質的な後継?
実は、先日発売されたIR-2 Amp & Cabinetが、ST-2の役割をさらに高度に果たしているとも言えます。
IR-2には「BRIT(Marshall系)」や「RECT(Mesa系)」などのモデリングが入っており、キャビネットシミュレーター(IR)も搭載されています。
「アンプの音をペダルで出す」という目的においては、IR-2こそがST-2の正当進化系と言えるかもしれません。
ただし、ST-2には
「難しいことを考えずに、SOUNDノブ一発で音が決まる」
という、IR-2にはないシンプルさと即効性があります。
この「迷わせない良さ」こそが、ST-2がいまだに現行品であり続ける理由でしょう。
可能性2:技アンプ・KATANAアンプの「Brown」をコンパクトへ
現在、BOSSのWAZA AmpやKATANA Ampシリーズには、「Brown」というチャンネルが搭載されています。 これは言わずもがな、エドワード・ヴァン・ヘイレンが愛した「改造マーシャルサウンド」を元ネタにしたものです。
豊かな倍音
ピッキングへの鋭い追従性
粘りのある中域
この「Brown」サウンドは、ロック系ギタリストなら嫌いな人はいないと言えるほど完成されたコンセプトです。 しかし現状、この最高のサウンドを手に入れるには、大きなアンプを買うか、高価なエフェクターを買うしかありません。
もし、この「Brownチャンネル」だけを抜き出し、コンパクトペダル(例えば “ST-1X” や “Brown Stack”)としてリリースされたらどうでしょうか?
アンプの技術をそのままペダルに落とし込む──これこそが、ST-2が目指した「Power Stack」の現代における正当進化であり、我々ギタリストが夢見るロマンではないでしょうか。

とはいえBOSSの事ですからこういった安易な予想とは違ったアプローチで新しい提案をしてくれるんだろうな―とも思います。
過去にはFenderやJHSとのコラボもありましたから、どこかのメーカーと結託してド級のアンプライクディストーションペダルをリリースして来る。なんて可能性もゼロじゃありませんよね。
あなたはどっちのマーシャルサウンド派?
一口に「マーシャル系サウンド」と言っても、好みは分かれます。
ST-2のセッティングの参考に、あなたの好みをチェックしてみてください。
| 質問 | 推奨セッティング | 代表的なイメージ |
| Q. 枯れた味わいとピッキングのニュアンスを重視する? | CRUNCHモード (SOUND 9時) | Jimi Hendrix, Eric Clapton (Cream時代) |
| Q. 王道のロックリフと、粘りのあるソロを弾きたい? | DRIVEモード (SOUND 12時) | Guns N’ Roses (Slash), Michael Schenker |
| Q. 轟音の壁と、速弾きに適したサスティンが欲しい? | ULTRAモード (SOUND 3時) | Dream Theater (John Petrucci), Yngwie Malmsteen |
まとめ
BOSS ST-2 Power Stackは、単なる歪みエフェクターではなく、「スタックアンプの体験」をコンパクトに凝縮したペダルです。
COSM技術により、真空管アンプ特有のサグ感やキャビネットの箱鳴りを再現。
SOUNDノブ一つで、ヴィンテージからモダンハイゲインまでキャラクターを激変させる。
ギターのボリュームへの追従性が高く、**「手元で音を作る」**玄人好みのプレイにも対応。
ジャズコーラス(JC-120)対策としても非常に優秀。
最新のハイエンド機材も素晴らしいですが、約1万円ちょっとでこの「マーシャルの壁」が手に入るコストパフォーマンスは、やはりBOSSならではの凄みです。
もしあなたが「アンプ直のような太い音が欲しいけど、重い機材は持ちたくない」と思っているなら、ST-2は最高の相棒になるはずです。
ぜひ楽器店で、SOUNDノブを回した時の「アンプが変わる感覚」を体感してみてください。あなたのギターライフが、より「ラウド」で楽しいものになりますように。









