初心者向けのギターを選ぶとき、よく「まずは低価格のギターで始めてみよう」という話を耳にします。
実際、最初から高価なギターを買うのはハードルが高いですし、「とりあえず触れてみる」には安価なギターが魅力的なのも事実です。
ただ、一方で安いギターは「価格以外に褒めるところがあんまりない」と感じてしまうことも多く、楽器屋のスタッフも「この価格帯なら…」と大きく時間をかけたセッティングをしてくれるわけではなかったりします。
しかし、それでも初心者向けギターの存在には大きな価値がありますし、昨今は昔に比べて品質も向上していると感じます。
今回は、初心者向けギターのメリット・デメリットや、特にYAMAHAのギターを経験者が推しがちな理由などに触れながら、「初心者向けギターとはなんぞや?」という疑問に個人的見解を交えて解説してみたいと思います。
安いギターの最大の魅力は「気軽さ」
最初のギターを選ぶとき、まず大きなポイントは「コストを抑えて気軽に始められること」です。
趣味を始める上で、いきなり10万円近いギターを買うのは勇気が要りますが、1万円前後の入門ギターであれば「合わなかったらやめてもいいや」という気持ちで挑戦できます。
心理的ハードルの低さ
お小遣いやバイト代、あるいはちょっとしたお祝い金で手が届く価格帯だと、とにかく始めやすいですよね。
また、手が届く価格とは即ち、頑張ればすぐに取り返せる価格であるともいえます。
安いことで挫折や飽きに対する保険が効いているという状態が心理的ハードルを大幅に下げてくれている要因です。
練習の動機づけ
とはいえ、1,000円、2,000円という価格でもないので、始めた頃は特に「せっかく買ったからには練習しよう」と思えますし、実際に弦を押さえてみる、音を出してみるとそれだけで楽しいものです。
しかし、こうした「始めやすさ」を追求したギターの多くは、価格をとことん抑えているため、質に関しては正直“突っ込みどころ”があるのも事実。
特に弾きやすさに大きな影響を及ぼしているフレット処理やナット溝の深さ、ネックの剛性などが不十分なものも多く、弦高調整が困難であったり、音詰まりを興してしまう場合もあります。
安価なギターが抱える課題
どの分野でも同じですが、商品やサービスを安価に提供しているからには極力コストをかけない工夫がされているという事です。
ただし、コストカット=企業努力かと言われると必ずしもそうではありません。
ユーザーにとってあまり望ましくないコストカットがされている場合も多く散見されます。
1. 楽器店のスタッフがセッティングに時間をかけれない
安価なギターほど利益率も低く、スタッフがそこまで時間をかけられないという現実があります。
弦高やネックの調整、オクターブチューニングなど、「ちょっとした手間」で演奏性が改善するものですが、そんな「ちょっとした手間」にすら手が回らないことも珍しくありません。
2. セッティングが動きやすい
安価な素材やパーツを使っていると、湿度や温度の影響を受けやすく、弦高やネックの反りなどが変化しやすい傾向があります。
スタッフが時間を割いてせっかく調整してもすぐ元に戻ってしまう、ということもあるので、「メンテナンスコスト」と「安定性」という面で難しさを抱えています。
3. 高い確率で挫折に追い込む
経験のない初心者が、ギターの弾きにくさに気付けるかと言われればほぼ不可能でしょう。
弾きにくい、音の出にくい楽器を触ることで、結果的に自分には向いてないんだなと判断されてしまい、挫折者を量産しているのではないかと感じます。
筆者は楽器店に勤務していた経験もありますが、本人のモチベーションやポテンシャルを帳消しにする程粗悪な楽器というのは案外多い印象です。
もし仮に
弾きにくさを気にしない人や、うまく弾けていると勘違いしている人を業界が求めて選別しようとしているならばその試みは大成功です。
しかし、それは絶対にないのと、少しでも意欲のあった人の芽を摘むことは業界の為にはならないと思うので粗悪な楽器が減ってくれることを望みます。
それでも良い点は?
「安いギターはとにかく弾きにくい」という声もありますが、その不便さを乗り越えた後に、少しランクアップしたギターを手にしたときの感動は大きいです。
「こんなに弾きやすくなるのか!」という劇的な変化を体験できるのも、ある意味で安いギターを経験したからこそ。
さらに、「弾きにくいギターでもがんばった」という思い出は、その後のギター人生にとっての財産になります。
一番最初に買ったギターはボロボロになっても捨てられない人が多いのは、そこに頑張った証や思い入れが詰まっているからかもしれません。
なぜYAMAHAが評価されているのか
初心者向けギターとして、よく名前が挙がるのがYAMAHA Pacificaです。
YAMAHAは世界的な大手メーカーでありながら、比較的リーズナブルな価格帯のモデルでも一定の品質を維持していることで定評があります。
低コストでも品質を維持できるのは大企業YAMAHAならではの強みです。
誰もが知っているメーカーの入門機を買うのは非常に安心感がありますね。
安定した生産体制・品質管理
大きなメーカーだからこそ、ある程度のスケールメリットがあり、低価格帯でも“及第点”を超える品質を出すことができます。
モデル数を絞っている
YAMAHAの楽器は、バリエーションや型番こそいくつかありますが、他のメーカーのように細かく乱立させているわけではありません。
モデル数を絞ることで、安定した品質管理がしやすく、コストを抑えながらも同価格帯の他社製品よりは一段上の品質を提供しています。
サポート体制
国内メーカーということもあり、万一の不具合や調整の相談などもしやすいのがメリット。
楽器初心者にとっては心強いポイントです。
「選ぶ楽しさ」が少ない?
「初心者向けギターは選択肢が少ないし、見た目も無難でつまらない」と感じるかもしれません。
しかし、「楽器を選ぶ楽しさ」は、ある程度上達した後に大きく広がります。
目指す音やスタイルが明確になってからの方が選びやすい
最初からたくさんのモデルを見ても、違いがわからず迷うだけ。
しかし、しばらく弾いているうちに「こんな音が欲しい」「もっとこういうスタイルで弾きたい」というイメージが生まれてきます。
そのとき、本格的にギター探しをする方が納得感のある選び方ができるでしょう。
上級者になるほどギター選びは奥が深い
高価格帯はもちろん、ヴィンテージやカスタムギターなど、上達すればするほど楽器の世界は奥深くなります。
初めての1本で「選ぶ楽しさ」が薄かったとしても、後々いくらでも「沼」にハマるチャンスはあります。
おすすめの入門モデル3選
実際に筆者が「おすすめの入門モデルってなんですか?」と聞かれたとき挙げる3本を紹介します。
YAMAHA PAC112

YAMAHA ( ヤマハ ) / PAC112VM SOP エレキギターPACIFICA(パシフィカ)
入門モデルとして圧倒的な人気を誇るパシフィカ
シングルコイル2発、ハムバッカー1発と高い汎用性がある。
筆者も過去勤務していたスクールで使用していたのですが、チューニングの安定性も悪くなくストレスが少ないのが好印象でした。
1万円台のギターから始めた人が2本目に選ぶというのも悪くはない選択ですし。
さしあたって憧れのギターとか特にないんですよねという方は迷わずパシフィカで良いでしょう。
カラーバリエーションも比較的豊富なのでどれかしらピンとくるものがあればいいですね。
Ibanez AZES40

パシフィカに似たスペックでありつつ、このモデル最大の特徴はサウンドバリエーションの豊富さです。
AZESにはアルタースイッチという機構があり、全9種類のサウンドを扱う事が出来るのがポイント。
また使用する材の特徴からか、パシフィカと比べた時に、より軽量な個体が多い印象です。
ある程度高価な楽器を所有していてもついつい軽量な楽器を手に取って練習してしまう、というのもよくある話なので、軽量な個体に出会えればより練習のはかどる環境を作れるかと思います。
指板面はやや丸みを帯びたカーブになっているので弾き心地はクラシック寄りです。
今後Fenderなどのトラディショナルなスペックのギターにアップグレードしたいという人にはパシフィカよりもこちらを推したい。
4種類ほどのカラーバリエーションがありますが、どれもクラシカルな雰囲気が出ているのも特徴。
Ibanez GRG170DX

Ibanez ( アイバニーズ ) / GRG170DX-BKN
こちらはハムバッカー2発、シングルコイル一発のよりパワフルな仕様で24フレットと音域も広い。
また2点支持トレモロを装備しているのでアーミングも上記の2種より滑らかという傾向があります。
ネックは薄く、指板は平たいので速弾きなどテクニカルな奏法を会得するのに向いているので、メタルやラウドな音楽が好きな人にはうってつけの入門モデルです。
カラーバリエーションは黒一色のみの展開となっています。
まとめ
初心者向けギターは、正直「安い」以外にあまり褒めどころが見当たらない楽器もあるのは事実です。そのため楽器店としても過剰な時間をかけづらく、プレイヤーにとってもチューニングが狂いやすかったり弾きにくかったりと、扱いにくい面があるでしょう。
それでも「まずはコストを抑えて始められる」というアドバンテージは大きく、少しずつでも練習を続けていけば、上位機種に変えたときに大きな喜びを味わえます。YAMAHAやIbanezのギターが支持されているのも、低価格帯でも“最低限の品質”を担保しているため、初心者にとって心強い選択肢といえるからでしょう。
結局のところ、最初の1本は「長く使う」というよりは「挑戦してみる」ための道具に近い存在。
弾きにくくてもその分練習量を増やせば、いずれそれが糧となり、大切な思い出にもなります。
ですから、「安くてもいいから始めてみる」という選択は、初心者にとっては大いにアリ。
「どんなギターでも、弾き続けることでギター生活が開ける」と思えば、最初のハードルはそんなに高くないはずです。
ぜひ気負わずに一歩を踏み出してみましょう。