アンプの『履歴書』を知れば、マルチの音作りはもっと自由になる。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
さて、マルチエフェクターを使っていると、「Brit 800」「US High Gain」「Cali Rect」みたいな、「大人の事情」で少しだけ名前を変えられたアンプモデルに遭遇しますよね。
なんとなく「これはマーシャルかな?」「これはメサかな?」と予想して使っている人も多いはず。
※マニュアルを見ればいい話ですが。
でも、元ネタとなった実機が「どんな時代に、誰のために、どんな回路思想で作られたか」を知っていると、パラメータのいじり方が劇的に変わります。
結論から言うと、アンプの歴史的背景と構造的特徴(クラスA動作、整流管の種類など)を理解することが、マルチエフェクターで「使える音」を最短で作るための攻略本になるのです。
今回は、マルチエフェクターに必ずと言っていいほど収録されている「定番アンプ」の元ネタを、歴史とロジックを交えて一挙に解説します。
王道中の王道:Marshall(マーシャル)

ロックギターの歴史そのものと言っても過言ではない英国の雄、Marshall。
マルチエフェクターでは「Brit」「MS」などの頭文字で収録されることが多いですが、年代によって回路構成もサウンドも全く異なります。
1959 Super Lead (Plexi)
歴史と特徴:
1960年代後半に登場した「プレキシ(パネルの素材に由来)」と呼ばれる伝説のアンプ。マスターボリュームが存在せず、歪ませるには爆音にするしかないという、極めて男らしい仕様です。
回路的にはFender Bassmanをベースにしつつ、真空管をEL34に変更し、負帰還(ネガティブ・フィードバック)やトーンスタックを調整することで、より攻撃的で倍音豊かなサウンドを実現しました。
サウンドの傾向:
低域が暴れ、高域が突き刺さるようなダイナミクスレンジの広さが特徴。入力信号に対する追従性が高く、ピッキングの強弱でクリーンから歪みまでコントロールできます。

UAFX Lion ’68 Super Lead Amp
JCM800 (2203/2204)
歴史と特徴:
1981年登場。マスターボリュームを搭載し、プリアンプ部で歪みを作ってから音量を調整できるようになった、80年代ハードロックの象徴。
カスケード接続(増幅回路を数珠繋ぎにする)を採用し、1959よりも容易に深い歪みを得られるようになりました。
サウンドの傾向:
中高域(ハイミッド)に強烈なピークがあり、アンサンブルで絶対に埋もれない「抜ける音」の代名詞。ザック・ワイルドやスレイヤーなど、ブースター(SD-1等)でプッシュしてさらにゲインを稼ぐ使い方が定番です。
JCM900 & JTM45
JCM900 (4100): JCM800の後継。回路内にクリッピングダイオード(歪みを作る素子)を組み込むことで、アンプ単体でより深いディストーションを実現。90年代のスタジオ定番機。少しコンプレッションが強く、扱いやすいが「線が細い」と言われることも。
JTM45: Marshallの初号機。Fender Bassmanのほぼコピー回路で、整流管(Rectifier Tube)を使用しているため、アタックに独特の「たわみ(サグ)」があり、ブルージーで太い音が特徴。
| モデル名 | 真空管(パワー) | 特徴的なサウンド | 想定ジャンル |
| 1959 (Plexi) | EL34 | 暴れる低域、鋭い高域、ピッキングニュアンス | クラシックロック, ブルース |
| JCM800 | EL34 | 突き抜ける中高域、タイトな歪み | 80s HR/HM, パンク |
| JCM900 | EL34/5881 | 深いゲイン、扱いやすいコンプ感 | 90s ロック, メロコア |
| JTM45 | KT66 | 太く甘い、サグ感のあるクランチ | ブルース, 初期ロック |
クリーン・クランチの基準:Fender(フェンダー)

「US Clean」「Tweed」「Blackface」などの名称で収録されます。
煌びやかなクリーンから、泥臭いクランチまで、アメリカンサウンドの祖です。
Bassman (5F6-A)
歴史と特徴:
もともとはベーシストのために開発されたアンプですが、その太い音とブレイクアップ(歪み始め)の心地よさからギタリストに愛されました。
ツイード期の回路はシンプルで、ピッキングに対する反応速度が異常に速いのが特徴。これが後のMarshallアンプの設計図となりました。
サウンドの傾向:
中低域がふくよかで、ボリュームを上げると「ジャリッ」とした粗い歪みが加わります。これを「ツイード・トーン」と呼びます。
Twin Reverb & Deluxe Reverb
歴史と特徴:
60年代半ばの「ブラックフェイス」期の代表格。
Twin Reverb: 6L6GC管を4本使用した85W〜100Wの大出力。どこまで上げても歪まない圧倒的なヘッドルーム(余裕)を持ちます。
Deluxe Reverb: 6V6管を使用した22W。出力が低いため、バンドの音量でも自然なパワー管の飽和感(パワー管ドライブ)が得られます。
サウンドの傾向:
「きらびやかな高域(鈴鳴り)」と「えぐれた中域(スクープ・ミッド)」が特徴。いわゆるドンシャリ傾向の美しいクリーンです。
【コラム:知っておくと差がつくアンプ用語】
サグ (Sag): 大きな音を出した瞬間に電源電圧が落ち、音が少し圧縮されてから膨らむ現象。「弾きごたえ」や「粘り」の正体。整流管タイプのアンプで顕著。
負帰還 (Negative Feedback): 出力の一部を入力に戻して歪みを抑え、帯域を広げる回路技術。これを減らすと音は暴れ、増やすとタイトになる。Presenceノブはこの量を調整していることが多い。
ブリティッシュの象徴:VOX(ヴォックス)

Fenderがアメリカの音なら、こちらはイギリスの音。「UK 30」「Class A」「Diamond」などの名称で収録されることが多い、ブリティッシュ・ロックの始祖です。
AC30 / AC30 Top Boost
歴史と特徴:
1950年代後半、より大音量を求めたシャドウズやビートルズのようなミュージシャンのために開発されたアンプです。
最大の特徴はパワー管にEL84を使用し、「クラスA動作」を採用していること(厳密にはカソードバイアスのAB級動作ですが、プレイヤーの体感としてはクラスA特有の挙動をします)。
後に高域を強調する「トップブースト(Top Boost)」回路が追加され、ロック・サウンドの基準となりました。クイーンのブライアン・メイが愛用していることでも有名です。
サウンドの傾向:
Fenderのガラスのようなクリーンとは異なり、「チャイム・サウンド」と呼ばれる金属的でリッチな高域の倍音が特徴。
ボリュームを上げると、ミッドレンジに独特の粘りがある極上のクランチ・サウンドに変化します。ピッキングの強弱だけでクリーンと歪みを行き来できるレスポンスの良さは、多くのアンプの中でも随一です。
| モデル名 | 真空管(パワー) | 特徴的なサウンド | 想定ジャンル |
| AC30 Top Boost | EL84 | 煌びやかな高域、粘る中域、速いレスポンス | 60s ロック, UKロック, オルタナ |
日本が誇るトランジスタの至宝:Roland JC-120

真空管アンプばかりが注目されがちですが、マルチエフェクターにおいて「JC-120 Jazz Chorus」は絶対に外せない存在です。
歴史と特徴:
1975年登場。世界初のコーラスエフェクト内蔵アンプであり、日本のスタジオやライブハウスに必ずある「基準機」。真空管を使わないソリッドステート(トランジスタ)回路のため、個体差が少なく、極めてフラットで頑丈です。
サウンドの傾向:
色付けのない、どこまでも透明で硬質なクリーン。エフェクターの特性をそのまま出力するため、マルチエフェクターで作った音を素直に再生する「モニター」的な役割としても優秀です。
ハイゲイン・レボリューション:
MESA/Boogie & Soldano & Peavey

80年代後半から90年代にかけて、より深く、より激しい歪みを求めた「ハイゲインアンプ」の時代が到来します。
MESA/Boogie Rectifier & Mark Series
Dual/Triple Rectifier: 90年代グランジ、ニューメタルの象徴。
「整流管(Tube)」と「シリコンダイオード」を切り替えられる仕様が名前の由来。特にシリコン整流時の、低域が膨張するような「壁のような轟音」は唯一無二。
負帰還を減らすことで、あえて低域をルーズに暴れさせています。Mark Series: サンタナやドリーム・シアターで有名。
Rectifierとは対照的に、実際の回路も複雑ですが、プレイヤー目線では「EQが歪みの前に配置されているような挙動」をするのが特徴。
中域が凝縮されたスムーズで歌うようなリードトーンが得られます。
5バンドのグラフィックEQで「V字ドンシャリ」を作るのがメタルの鉄板。

UAFX Knuckles ’92 Rev F Dual Rec Amplifier
Soldano SLO-100
歴史と特徴:
「Super Lead Overdrive」。ハイゲインアンプの始祖にして最高峰。
多段増幅回路を極めて高品質なパーツで組み上げ、それまでのアンプにはなかった「深く歪むのに音が潰れず、クリーミー」なサウンドを実現しました。この回路設計は後のRectifierや5150に多大な影響を与えています。
サウンドの傾向:
きめ細かく、コンプレッションがありつつもダイナミクスが失われない、極上のリードトーン。80年代後半のLAスタジオミュージシャン(ルカサーなど)がこぞって使用しました。

5150 (Peavey / EVH)
歴史と特徴:
エディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデル。Soldano SLO-100の影響を色濃く受けつつ、よりアグレッシブにチューニングされています。
現在は「6505(Peavey)」や「EVH 5150 III」として継承されています。
サウンドの傾向:
圧倒的なゲイン量と、中低域の「ゴリッ」とした塊感。メタルコアやジェント(Djent)において、とりあえずこれを選べば間違いないという業界標準機です。
ブティックアンプと欧州の怪物たち

ここからは、より現代的で多機能、あるいは特定のトーンを突き詰めたモデルたちです。
Matchless DC-30
歴史と特徴:
VOX AC30をベースにしつつ、究極のハンドワイヤード(手配線)で再構築したブティックアンプの走り。
プレイヤーの間では「クラスA動作」のアンプとして知られていますが、厳密にはカソードバイアスのプッシュプル動作(擬似クラスA的な挙動)です。この設計により、「タッチレスポンスが異常に速い」のが最大の特徴。
サウンドの傾向:
「ガラスのよう」と形容される硬質で煌びやかなクリーン〜クランチ。ピッキングの粗が全て露呈するため、「下手なギタリストを殺すアンプ」とも呼ばれます。
Diezel Herbert & VH4
歴史と特徴:
ドイツのハイエンド・アンプメーカー。メタリカやトゥールが使用したことで有名。
4チャンネル仕様で、MIDI制御が可能という現代的なスペックを持ちます。
サウンドの傾向:
「ハイファイ・ヘヴィ」。これはあくまで聴感上の表現ですが、まるでサブウーファーがあるかのような超低域まで再生されるレンジの広さと、どんなに歪ませてもコードの分離感が保たれる解像度の高さが特徴です。

DIEZEL ( ディーゼル ) / VH4-2 Pedal
ENGL Powerball
歴史と特徴:
こちらもドイツ製。中域に特徴的なコンプレッション(圧縮感)があり、非常に弾きやすいハイゲインアンプ。
サウンドの傾向:
ダークで滑らか。ザクザク刻むリフも得意ですが、流麗なレガートプレイにも向いています。
Friedman BE-100
歴史と特徴:
デイブ・フリードマンが、数々のトッププロ(ヴァン・ヘイレンやスティーブ・スティーブンス)のMarshallを改造(モディファイ)してきたノウハウを詰め込んだアンプ。「Brown Eye」の略。
サウンドの傾向:
「改造マーシャルの完成形」。Marshallの荒々しさを残しつつ、低域をタイトにし、ゲインを上げてもノイズが少ない。ギタリストが脳内で想像する「最高のMarshallの音」が最初から出ます。
これってどれのこと?マルチでの名称対応表(例)

メーカーの権利関係で名前が変えられていますが、大体以下のような法則で命名されています。お手持ちのマルチと照らし合わせてみてください。
| 実機モデル | マルチでの名称例 |
| Marshall 1959 | Brit Plexi, MS 1959, 1959 Super |
| Marshall JCM800 | Brit 800, MS 800, 2203 |
| Fender Twin Reverb | US Double, Twin, FD Twin |
| Fender Deluxe Reverb | US Deluxe, Deluxe, FD Deluxe |
| VOX AC30 | UK 30, Diamond, VX Combo |
| MESA Rectifier | Cali Rect, Recto, Treadplate |
| Peavey 5150 | PV Panama, 5150, Lead 5150 |
| Matchless DC-30 | Match 30, DC Modern, MS 30 |
| Diezel Herbert | Dz Hbert, German High Gain |
よくある質問(Q&A):あなたはA派?B派?
Q1. メタルをやるなら「Rectifier」と「5150」、どっち?
A. 重低音の壁を作るならRecti、リフのキレなら5150。
Rectifier (MESA): 低域がルーズで広がるため、音圧の壁を作れます。90s〜00sのニューメタル(Linkin Park, Korn)のような重厚感が欲しいならこちら。
5150 (Peavey/EVH): 中域にピークがあり、低域がタイト。刻み(Djent, Metalcore)のリズムが聴き取りやすく、バンドアンサンブルで前に出ます。
Q2. 泣きのソロには「Marshall」?それとも「Soldano」?
A. 感情を叩きつけるならMarshall、美しく歌うならSoldano。
Marshall (1959/800): ピッキングのニュアンスに荒々しく反応します。ゲイリー・ムーアの「Parisienne Walkways」のような、咽び泣くフィードバックには最適。
Soldano (SLO-100): 滑らかでサステインが長く、レガートが繋がりやすい。TOTOの「I Will Remember」のような、洗練されたスタジオ・リードトーンならこちら。
まとめ
アンプシミュレーター選びは、単なる「音色の選択」ではなく、「そのアンプが生まれた時代背景と設計思想を選ぶこと」です。
ダイナミクスとタッチを磨きたいなら、Marshall 1959やMatchless DC-30。
アンサンブルでの抜けを重視するなら、JCM800やFriedman BE-100。
圧倒的な音圧と歪みを制御するなら、Diezelや5150。
マルチエフェクターの中に眠るこれらの名機たちは、それぞれが「良い音」の正解を持っています。
「なんとなく歪むやつ」で選ぶのではなく、「EL34管のサチュレーションが欲しいからMarshall」「クラスAのレスポンスが欲しいからMatchless」といった視点で選べるようになれば、あなたのギターライフと音作りは、もう一段階深いレベルへ到達するはずです。
さあ、今日はどのアンプの歴史を鳴らしましょうか?
おまけ
















