エフェクター

アンプシミュレーターの元ネタと特徴を解説!歴史を知ればマルチの音作りは劇的に変わる

アンプの『履歴書』を知れば、マルチの音作りはもっと自由になる。

どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。

さて、マルチエフェクターを使っていると、「Brit 800」「US High Gain」「Cali Rect」みたいな、「大人の事情」で少しだけ名前を変えられたアンプモデルに遭遇しますよね。

なんとなく「これはマーシャルかな?」「これはメサかな?」と予想して使っている人も多いはず。
※マニュアルを見ればいい話ですが。

でも、元ネタとなった実機が「どんな時代に、誰のために、どんな回路思想で作られたか」を知っていると、パラメータのいじり方が劇的に変わります。

結論から言うと、アンプの歴史的背景と構造的特徴(クラスA動作、整流管の種類など)を理解することが、マルチエフェクターで「使える音」を最短で作るための攻略本になるのです。

今回は、マルチエフェクターに必ずと言っていいほど収録されている「定番アンプ」の元ネタを、歴史とロジックを交えて一挙に解説します。

ゲイン・アゲ美
ゲイン・アゲ美
マルチの中身って、結局は歴史的名機のカタログみたいなもんだよね。スタジオミュージシャン的には、JC-120とFender Twinがあれば仕事は回るけど、最近のモデリングは質感がリアルだから、あえて実機にはない設定で遊ぶのも楽しいかな。

アド・リブ代
アド・リブ代
あら、私はやっぱりMarshallの1959が無いと始まらないわ。あのボリュームを上げた時のサグ(Sag)感と、咽び泣くようなフィードバック…デジタルでどこまで再現できているかが勝負よね。ゲイリー・ムーアの魂は、数値だけじゃ測れないのよ。

モダン・テク子
モダン・テク子
ふん、感情論ばかりだな。現代のメタルコアやDjentにおいて重要なのは、低域のタイトさとトランジェント(過渡特性)の速さだ。5150やRectifierの挙動を正しく理解していれば、EQで迷走することもない。今日はその辺り、徹底的にロジックで詰めさせてもらうぞ。

王道中の王道:Marshall(マーシャル)

ロックギターの歴史そのものと言っても過言ではない英国の雄、Marshall。

マルチエフェクターでは「Brit」「MS」などの頭文字で収録されることが多いですが、年代によって回路構成もサウンドも全く異なります。

1959 Super Lead (Plexi)

 

歴史と特徴:

1960年代後半に登場した「プレキシ(パネルの素材に由来)」と呼ばれる伝説のアンプ。マスターボリュームが存在せず、歪ませるには爆音にするしかないという、極めて男らしい仕様です。

回路的にはFender Bassmanをベースにしつつ、真空管をEL34に変更し、負帰還(ネガティブ・フィードバック)やトーンスタックを調整することで、より攻撃的で倍音豊かなサウンドを実現しました。

サウンドの傾向:

低域が暴れ、高域が突き刺さるようなダイナミクスレンジの広さが特徴。入力信号に対する追従性が高く、ピッキングの強弱でクリーンから歪みまでコントロールできます。
UAFX Lion '68 Super Lead Amp
UAFX Lion ’68 Super Lead Amp

JCM800 (2203/2204)

 

歴史と特徴:

1981年登場。マスターボリュームを搭載し、プリアンプ部で歪みを作ってから音量を調整できるようになった、80年代ハードロックの象徴。

カスケード接続(増幅回路を数珠繋ぎにする)を採用し、1959よりも容易に深い歪みを得られるようになりました。

サウンドの傾向:

中高域(ハイミッド)に強烈なピークがあり、アンサンブルで絶対に埋もれない「抜ける音」の代名詞。ザック・ワイルドやスレイヤーなど、ブースター(SD-1等)でプッシュしてさらにゲインを稼ぐ使い方が定番です。

JCM900 & JTM45

 

  • JCM900 (4100): JCM800の後継。回路内にクリッピングダイオード(歪みを作る素子)を組み込むことで、アンプ単体でより深いディストーションを実現。90年代のスタジオ定番機。少しコンプレッションが強く、扱いやすいが「線が細い」と言われることも。

  • JTM45: Marshallの初号機。Fender Bassmanのほぼコピー回路で、整流管(Rectifier Tube)を使用しているため、アタックに独特の「たわみ(サグ)」があり、ブルージーで太い音が特徴。

 

モデル名真空管(パワー)特徴的なサウンド想定ジャンル
1959 (Plexi)EL34暴れる低域、鋭い高域、ピッキングニュアンスクラシックロック, ブルース
JCM800EL34突き抜ける中高域、タイトな歪み80s HR/HM, パンク
JCM900EL34/5881深いゲイン、扱いやすいコンプ感90s ロック, メロコア
JTM45KT66太く甘い、サグ感のあるクランチブルース, 初期ロック

 

クリーン・クランチの基準:Fender(フェンダー)

「US Clean」「Tweed」「Blackface」などの名称で収録されます。

煌びやかなクリーンから、泥臭いクランチまで、アメリカンサウンドの祖です。

Bassman (5F6-A)

 

歴史と特徴:

もともとはベーシストのために開発されたアンプですが、その太い音とブレイクアップ(歪み始め)の心地よさからギタリストに愛されました。

ツイード期の回路はシンプルで、ピッキングに対する反応速度が異常に速いのが特徴。これが後のMarshallアンプの設計図となりました。

サウンドの傾向:

中低域がふくよかで、ボリュームを上げると「ジャリッ」とした粗い歪みが加わります。これを「ツイード・トーン」と呼びます。

UAFX WOODROW / 55 Amplifier
UAFX WOODROW / 55 Amplifier

Twin Reverb & Deluxe Reverb

 

歴史と特徴:

60年代半ばの「ブラックフェイス」期の代表格。

  • Twin Reverb: 6L6GC管を4本使用した85W〜100Wの大出力。どこまで上げても歪まない圧倒的なヘッドルーム(余裕)を持ちます。

  • Deluxe Reverb: 6V6管を使用した22W。出力が低いため、バンドの音量でも自然なパワー管の飽和感(パワー管ドライブ)が得られます。

サウンドの傾向:

「きらびやかな高域(鈴鳴り)」と「えぐれた中域(スクープ・ミッド)」が特徴。いわゆるドンシャリ傾向の美しいクリーンです。

UAFX DREAM / 65 Amplifier
UAFX DREAM / 65 Amplifier

【コラム:知っておくと差がつくアンプ用語】

  • サグ (Sag): 大きな音を出した瞬間に電源電圧が落ち、音が少し圧縮されてから膨らむ現象。「弾きごたえ」や「粘り」の正体。整流管タイプのアンプで顕著。

  • 負帰還 (Negative Feedback): 出力の一部を入力に戻して歪みを抑え、帯域を広げる回路技術。これを減らすと音は暴れ、増やすとタイトになる。Presenceノブはこの量を調整していることが多い。

ブリティッシュの象徴:VOX(ヴォックス)

Fenderがアメリカの音なら、こちらはイギリスの音。「UK 30」「Class A」「Diamond」などの名称で収録されることが多い、ブリティッシュ・ロックの始祖です。

AC30 / AC30 Top Boost

歴史と特徴:

1950年代後半、より大音量を求めたシャドウズやビートルズのようなミュージシャンのために開発されたアンプです。

最大の特徴はパワー管にEL84を使用し、「クラスA動作」を採用していること(厳密にはカソードバイアスのAB級動作ですが、プレイヤーの体感としてはクラスA特有の挙動をします)。

後に高域を強調する「トップブースト(Top Boost)」回路が追加され、ロック・サウンドの基準となりました。クイーンのブライアン・メイが愛用していることでも有名です。

サウンドの傾向:

Fenderのガラスのようなクリーンとは異なり、「チャイム・サウンド」と呼ばれる金属的でリッチな高域の倍音が特徴。

ボリュームを上げると、ミッドレンジに独特の粘りがある極上のクランチ・サウンドに変化します。ピッキングの強弱だけでクリーンと歪みを行き来できるレスポンスの良さは、多くのアンプの中でも随一です。

UAFX RUBY / 63 Amplifier
UAFX RUBY / 63 Amplifier

モデル名真空管(パワー)特徴的なサウンド想定ジャンル
AC30 Top BoostEL84煌びやかな高域、粘る中域、速いレスポンス60s ロック, UKロック, オルタナ

日本が誇るトランジスタの至宝:Roland JC-120

真空管アンプばかりが注目されがちですが、マルチエフェクターにおいて「JC-120 Jazz Chorus」は絶対に外せない存在です。

歴史と特徴:

1975年登場。世界初のコーラスエフェクト内蔵アンプであり、日本のスタジオやライブハウスに必ずある「基準機」。真空管を使わないソリッドステート(トランジスタ)回路のため、個体差が少なく、極めてフラットで頑丈です。

サウンドの傾向:

色付けのない、どこまでも透明で硬質なクリーン。エフェクターの特性をそのまま出力するため、マルチエフェクターで作った音を素直に再生する「モニター」的な役割としても優秀です。

ハイゲイン・レボリューション:
MESA/Boogie & Soldano & Peavey

80年代後半から90年代にかけて、より深く、より激しい歪みを求めた「ハイゲインアンプ」の時代が到来します。

MESA/Boogie Rectifier & Mark Series

 

  • Dual/Triple Rectifier: 90年代グランジ、ニューメタルの象徴。
    「整流管(Tube)」と「シリコンダイオード」を切り替えられる仕様が名前の由来。特にシリコン整流時の、低域が膨張するような「壁のような轟音」は唯一無二。
    負帰還を減らすことで、あえて低域をルーズに暴れさせています。

  • Mark Series: サンタナやドリーム・シアターで有名。
    Rectifierとは対照的に、実際の回路も複雑ですが、プレイヤー目線では「EQが歪みの前に配置されているような挙動」をするのが特徴。
    中域が凝縮されたスムーズで歌うようなリードトーンが得られます。
    5バンドのグラフィックEQで「V字ドンシャリ」を作るのがメタルの鉄板。

UAFX Knuckles '92 Rev F Dual Rec Amplifier
UAFX Knuckles ’92 Rev F Dual Rec Amplifier

Soldano SLO-100

 

歴史と特徴:

「Super Lead Overdrive」。ハイゲインアンプの始祖にして最高峰。

多段増幅回路を極めて高品質なパーツで組み上げ、それまでのアンプにはなかった「深く歪むのに音が潰れず、クリーミー」なサウンドを実現しました。この回路設計は後のRectifierや5150に多大な影響を与えています。

サウンドの傾向:

きめ細かく、コンプレッションがありつつもダイナミクスが失われない、極上のリードトーン。80年代後半のLAスタジオミュージシャン(ルカサーなど)がこぞって使用しました。

SOLDANO ( ソルダーノ ) / SLO Pedal

SOLDANO ( ソルダーノ ) / SLO Pedal

5150 (Peavey / EVH)

 

歴史と特徴:

エディ・ヴァン・ヘイレンのシグネチャーモデル。Soldano SLO-100の影響を色濃く受けつつ、よりアグレッシブにチューニングされています。

現在は「6505(Peavey)」や「EVH 5150 III」として継承されています。

サウンドの傾向:

圧倒的なゲイン量と、中低域の「ゴリッ」とした塊感。メタルコアやジェント(Djent)において、とりあえずこれを選べば間違いないという業界標準機です。

UAFX ANTI 1992 High Gain Amp
UAFX ANTI 1992 High Gain Amp

 

ゲイン・アゲ美
ゲイン・アゲ美
SLO-100は一度弾くと戻れないよね。あのコンプ感は「上手くなった」と錯覚させてくれる魔法がある。ルカサーがあれを愛用したのも、スタジオワークでの信頼性が抜群だったからだろうね。

モダン・テク子
モダン・テク子
ふっ、SLO-100は素晴らしいが、現代のメタルリフを刻むなら5150 IIIのRedチャンネルだぞ。あの低域の締まり具合と、ミュートした時の「ズンッ」という音圧の速さは、多弦ギターには必須条件だ。ペトルーシもMarkシリーズ一辺倒かと思いきや、場面に応じて使い分けているしな。

アド・リブ代
アド・リブ代
あなた達、歪みの量ばかり気にして…。Mark Iの甘いクリーントーンでサンタナのように泣くのも一興よ。MESAはハイゲインだけじゃなくて、実はクリーンの色気も凄いのを知らないの?

ブティックアンプと欧州の怪物たち

ここからは、より現代的で多機能、あるいは特定のトーンを突き詰めたモデルたちです。

Matchless DC-30

 

歴史と特徴:

VOX AC30をベースにしつつ、究極のハンドワイヤード(手配線)で再構築したブティックアンプの走り。

プレイヤーの間では「クラスA動作」のアンプとして知られていますが、厳密にはカソードバイアスのプッシュプル動作(擬似クラスA的な挙動)です。この設計により、「タッチレスポンスが異常に速い」のが最大の特徴。

サウンドの傾向:

「ガラスのよう」と形容される硬質で煌びやかなクリーン〜クランチ。ピッキングの粗が全て露呈するため、「下手なギタリストを殺すアンプ」とも呼ばれます。

 

Diezel Herbert & VH4

 

歴史と特徴:

ドイツのハイエンド・アンプメーカー。メタリカやトゥールが使用したことで有名。

4チャンネル仕様で、MIDI制御が可能という現代的なスペックを持ちます。

サウンドの傾向:

「ハイファイ・ヘヴィ」。これはあくまで聴感上の表現ですが、まるでサブウーファーがあるかのような超低域まで再生されるレンジの広さと、どんなに歪ませてもコードの分離感が保たれる解像度の高さが特徴です。

DIEZEL ( ディーゼル ) / VH4-2 Pedal
DIEZEL ( ディーゼル ) / VH4-2 Pedal

ENGL Powerball

 

歴史と特徴:

こちらもドイツ製。中域に特徴的なコンプレッション(圧縮感)があり、非常に弾きやすいハイゲインアンプ。

サウンドの傾向:

ダークで滑らか。ザクザク刻むリフも得意ですが、流麗なレガートプレイにも向いています。

 

Friedman BE-100

 

歴史と特徴:

デイブ・フリードマンが、数々のトッププロ(ヴァン・ヘイレンやスティーブ・スティーブンス)のMarshallを改造(モディファイ)してきたノウハウを詰め込んだアンプ。「Brown Eye」の略。

サウンドの傾向:

「改造マーシャルの完成形」。Marshallの荒々しさを残しつつ、低域をタイトにし、ゲインを上げてもノイズが少ない。ギタリストが脳内で想像する「最高のMarshallの音」が最初から出ます。

FRIEDMAN ( フリードマン ) / BE-OD
FRIEDMAN ( フリードマン ) / BE-OD

これってどれのこと?マルチでの名称対応表(例)

メーカーの権利関係で名前が変えられていますが、大体以下のような法則で命名されています。お手持ちのマルチと照らし合わせてみてください。

実機モデルマルチでの名称例 
Marshall 1959Brit Plexi, MS 1959, 1959 Super
Marshall JCM800Brit 800, MS 800, 2203
Fender Twin ReverbUS Double, Twin, FD Twin
Fender Deluxe ReverbUS Deluxe, Deluxe, FD Deluxe
VOX AC30UK 30, Diamond, VX Combo
MESA RectifierCali Rect, Recto, Treadplate
Peavey 5150PV Panama, 5150, Lead 5150
Matchless DC-30Match 30, DC Modern, MS 30
Diezel HerbertDz Hbert, German High Gain

よくある質問(Q&A):あなたはA派?B派?

 

Q1. メタルをやるなら「Rectifier」と「5150」、どっち?

 

A. 重低音の壁を作るならRecti、リフのキレなら5150。

  • Rectifier (MESA): 低域がルーズで広がるため、音圧の壁を作れます。90s〜00sのニューメタル(Linkin Park, Korn)のような重厚感が欲しいならこちら。

  • 5150 (Peavey/EVH): 中域にピークがあり、低域がタイト。刻み(Djent, Metalcore)のリズムが聴き取りやすく、バンドアンサンブルで前に出ます。

Q2. 泣きのソロには「Marshall」?それとも「Soldano」?

 

A. 感情を叩きつけるならMarshall、美しく歌うならSoldano。

  • Marshall (1959/800): ピッキングのニュアンスに荒々しく反応します。ゲイリー・ムーアの「Parisienne Walkways」のような、咽び泣くフィードバックには最適。

  • Soldano (SLO-100): 滑らかでサステインが長く、レガートが繋がりやすい。TOTOの「I Will Remember」のような、洗練されたスタジオ・リードトーンならこちら。

まとめ

 

アンプシミュレーター選びは、単なる「音色の選択」ではなく、「そのアンプが生まれた時代背景と設計思想を選ぶこと」です。

  • ダイナミクスとタッチを磨きたいなら、Marshall 1959Matchless DC-30

  • アンサンブルでの抜けを重視するなら、JCM800Friedman BE-100

  • 圧倒的な音圧と歪みを制御するなら、Diezel5150

マルチエフェクターの中に眠るこれらの名機たちは、それぞれが「良い音」の正解を持っています。

「なんとなく歪むやつ」で選ぶのではなく、「EL34管のサチュレーションが欲しいからMarshall」「クラスAのレスポンスが欲しいからMatchless」といった視点で選べるようになれば、あなたのギターライフと音作りは、もう一段階深いレベルへ到達するはずです。

さあ、今日はどのアンプの歴史を鳴らしましょうか?

ゲイン・アゲ美
ゲイン・アゲ美
知識が増えると、ツマミを回す理由が明確になるよね。とりあえずFriedmanでバッキング作ってくるわ。

アド・リブ代
アド・リブ代
私はやっぱりJTM45で、ボリュームをフルテンにして…心の叫びを音にするわね。

モダン・テク子
モダン・テク子
よし、私はAxe-FxでDiezelとRectiをステレオで鳴らして、位相の干渉をチェックするぞ。ロジックこそが最強のトーンを生むんだ。

おまけ

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ABOUT ME
吉田寛定
新潟市在住のギターインストラクター。 趣味ギタリストに向けた“ちょうどいい温度感”の発信を心がけています。 新潟市江南区のギター教室|7丁目ギター教室にて無料体験レッスン受付中。亀田・横越エリアの方はぜひどうぞ。

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