「弾きたい曲がない」は才能?意見のないギタリストがバンドの救世主になれる理由

「何でもいいよ」は、バンドにおける最高のホスピタリティです。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
さて、皆さんの周りに(あるいはあなた自身が)、「ギターを弾くのは大好きだけど、特にこれが弾きたい!という曲がない」という人はいませんか?
教則本をめくるのは楽しい、練習も苦じゃない。
でも「次何の曲やる?」と聞かれると「うーん、合わせられれば何でもいいかな」と答えてしまう。
本人は「自分には向上心やこだわりが足りないんじゃないか」と悩みガチなんですが……。
結論から言うと、その「こだわりがない」という性質は、バンドシーンにおける最強の武器であり、誰かにとっての「救世主」になれる才能です。



ギタリストのこだわりは、時にバンドのブレーキになる
エレキギターという楽器は、歴史的に見ても「個性の爆発」とともに進化してきました。
ジミ・ヘンドリックスが歯で弾き、エディ・ヴァン・ヘイレンがライトハンド、イングヴェイが神がかり的な速弾きで革命を起こしたように、ギタリストは常に「俺を見ろ!」というエゴと隣り合わせです。
しかし、その「俺の弾きたい曲」というこだわりが、バンドという共同体においては、しばしば致命的な摩擦を生みます。
選曲戦争という名の不毛な時間
スタジオのロビーで、1時間以上も「次やる曲」が決まらずに議論が一旦持ち帰りになったという経験はありませんか?
ギタリスト:「もっとギターが目立つハードロックがいい」
ベーシスト:「スラップが映えるファンクがいい」
ボーカリスト:「最近流行ってるJ-POPが歌いたい」
この三すくみ状態において、ヒトキワ我が強いとされているギタリストが「僕は別にこだわりないから、みんなのやりたい曲を覚えるよ」と言い出したらどうなるか。
その瞬間、バンドの停滞していた歯車が高速で回り始めます。
「意見が無い」ギタリストが重宝される3つの理由

「こだわりがない」ことは、決して消極的な姿勢ではありません。
それは、音楽的な「受容体」が広いということ。
現場では以下の3つの価値として機能します。
1. 他パートの「主導権」を全肯定できる
バンドには必ずと言っていいほど「この曲を、この世界観でやりたい!」という強いビジョンを持ったリーダー(バンマス)がいます。
他のパートに主導権がある場合、彼らにとって「自分のやりたいことを100%受け入れて、技術的に具現化してくれるギタリスト」は、ダイヤモンドよりも希少です。
あなたが自分の欲を捨てて相手の選曲に乗ることは、相手のモチベーションを最大化させる「最高のサポート職」としての役割を果たしているのです。
2. 音楽的リテラシーの幅が勝手に広がる
「自分の弾きたい曲」しか弾かない人は、特定のジャンルの手癖に閉じこもりがちです。メタルの人なら16分の刻みは凄まじいけれど、ジャズのテンションコードが出てきた途端にフリーズする、といったことがよく起こります。
そんな一点突破の個性を持ったギタリストが居る一方で、選曲を他人に委ねるギタリストは、自分の守備範囲外の球を常に投げられる環境に身を置くことになります。
昨日はアニソンの複雑な転調に対応し
今日はブルースの「溜め」を要求され
明日は歌謡曲の職人的なオブリガードをコピーする
これを繰り返すと、自分では絶対に選ばなかった「知識(リテラシー)」が強制的に蓄積されます。
気がつけば、どんな現場に呼ばれても「あ、それ前やったことあるよ」と言える、引き出しの多いプレイヤーに育っているのです。
3. 「頼まれ仕事」を完遂するプロ意識が育つ
「自分がやりたい曲」を弾くのは、いわば「趣味」です。
しかし、「誰かのやりたい曲」を完璧に仕上げるのは、非常に「仕事」に近い感覚になります。
この「他人のニーズに応える」というスタンスは、プロのスタジオミュージシャンやサポートギタリストと全く同じ思考回路です。
自分の感情を優先させるのではなく、「楽曲に奉仕する」。
この視点を持てるようになると、あなたのギターは「ただの趣味」から「誰かに必要とされる表現」へとステージが変わります。
救世主としての立ち振る舞い

もしあなたが「特に弾きたい曲がない」タイプなら、それをコンプレックスにする必要はありません。むしろ、周囲にこう宣言してみてください。
「僕はギターを弾くこと自体が好きだから、みんながやりたい曲を教えて。全力でコピーしてくるから。」
この一言で、あなたはバンドメンバー全員から「なんていい奴なんだ……!」と感謝される救世主になります。
ただし、注意点が一つ。「何でもいい」=「練習しなくていい」ではありません。
相手が選んだ曲に対して、「こだわりがないから練習も適当」になってしまうと、それはただの無責任です。
自分の意志を消して相手の選曲を受け入れるからこそ、そのクオリティには徹底的にこだわる。これが「選曲欲のない天才」の正しい姿です。
よくある質問(読者投票風)
Q:自分のこだわりがないと、個性がない「つまらないギタリスト」になりませんか?
A:そんなことはありません。
個性とは「何を弾くか」だけでなく、「どう弾くか」に宿るものです。たとえ誰かが選んだ曲であっても、あなたのピッキングのニュアンス、音作りのクセ、ビブラートの幅には必ず「あなたらしさ」が出ます。むしろ、制約がある中で滲み出てしまうものこそが、真の個性です。TOTOのスティーヴ・ルカサーやB’zの松本さんだって、膨大な「頼まれ仕事」の中で自分だけのシグネチャートーンを確立しました。
Q:何でもいいと言いつつ、どうしても苦手なジャンルを振られたら?
A:それは新しい「スライム狩り」だと思って挑戦してみてください。
今まで避けてきたジャンルにこそ、あなたの停滞を打破するヒントが隠れています。カントリーのチキンピッキングや、ファンクのカッティング。一度触れてみるだけで、あなたの「メインの武器(得意ジャンル)」がより強化されるはずです。
まとめ
選曲欲がないギタリストは、バンドの潤滑油である。
他人の「やりたい」を叶えることは、音楽的な「徳」を積む行為。
受動的な選曲は、結果としてあなたの音楽リテラシーを爆発的に高める。
「何でもいい」と言うからには、圧倒的なクオリティで応えるのがプロの流儀。
ギターの楽しみ方は、決して「自分の好きな曲を弾く」ことだけではありません。
誰かの描いた地図に沿って、最高の景色を一緒に見に行く。そんな「相乗り」のようなギターライフも、なかなかに乙なものですよ。あなたが誰かの「救世主」として輝く日を楽しみにしています。
次は、あなたが「最近のバンドメンバーが強引すぎて困っている人」に、「僕、何でも弾くよ?」と声をかけてあげるのはいかがでしょうか?
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