AIは完璧なメロディを作れても、あなたの代わりに「涙」を流すことはできません。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
さて、Suno AIやUdioといった音楽生成AIの進化が止まりません。
「プロ並みの曲が数秒でできる」なんて話題も落ち着き、今は「これをどう使うか?」というフェーズに入ってきています。
そこでよく議論になるのが、「AIは中島みゆきや山下達郎のような『名曲』を作れるのか?」というテーマです。
技術的にコード進行やメロディを模倣することは可能です。
しかし、聴いていて胸が締め付けられるような、あの感覚まで再現できるのでしょうか?
結論から言えば、AIは「人の弱さに寄り添う名曲」を作ることはできません。
しかし、AIには別の、もっと身近で革命的な役割があります。
それは、「あなた個人の生活を補強するツール」としての音楽です。
今回は、AI時代の「名曲」の定義と、AI音楽が切り拓く「超・個人的音楽」の可能性についてお話しします。
人間にしか描けない「弱さ」という文学

AIがどれだけ進化しても、今のところ人間に勝てない領域があります。
それは、「人の弱さや痛みに寄り添う」という機能です。
中島みゆき、荒井由実(松任谷由実)、山下達郎、草野マサムネ(スピッツ)。
彼らの楽曲がなぜ「名曲」として何十年も愛され続けるのか。
それは、音楽的である以前に、極めて高度な「文学作品」だからです。
「名曲」は、傷ついた人が作るから響く
彼らの歌詞やメロディには、強烈な実体験や、人間特有の「ままならなさ」「情けなさ」が含まれています。
失恋の痛み、都会の孤独、言葉にできないノスタルジー。
これらは、実際に心を痛めた経験がある人間が書くからこそ、聴き手の傷跡と共鳴します。
AIは「失恋っぽい歌詞」を確率論で組み合わせることはできます。
しかし、AI自身が夜中に枕を濡らしたことはありません。
「痛み」を知らない存在が作る慰めの言葉は、どれだけ整っていても、どこか空虚です。
人々が求めている「名曲」とは、単に音が綺麗なものではなく、「私の痛みをわかってくれる誰か」の存在を感じられるものなのです。
AI音楽は「誰」を救うのか?

では、AI音楽は無価値なのかと言えば、全くそんなことはありません。
むしろ、これまでの音楽の概念を覆す、とんでもない可能性を秘めています。
これまでの音楽は「大衆(マス)」に向けて作られるものが中心でした。 しかし、AI音楽が救うのは「大衆」ではありません。「あなた一人」です。
プロが介在しないからこその「超・個人的音楽」
これまで、自分だけのために曲を作ろうとすれば、高いお金を払ってプロに依頼するか、自分で何年もかけてスキルを習得するしかありませんでした。
しかしAIを使えば、「自分だけの超ニッチな要望」を即座に曲にできます。
ここには「売れるかどうか」という商業的なフィルターは存在しません。 誰かに聴かせる必要すらない。
あなたの、あなたによる、あなたのための音楽。
この「超・個人的(ハイパー・パーソナル)」な利用こそが、AI音楽の真骨頂です。
音楽の「機能」が変わる:実用ツールとしての楽曲

「名曲」を作るのが人間だとしたら、AIが作るのは「機能する音楽」です。
驚くほど安価に、湯水のように曲を量産できるAIの特性を活かすと、音楽の使い方が劇的に変わります。
例えば、こんな使い方がもう現実になっています。
1. 「テスト範囲アルバム」で暗記をハックする
学生時代、英単語や年号を覚えるのに苦労した経験はありませんか?
AIを使えば、「今回の中間テストの範囲」を歌詞にした楽曲を10曲作り、それをアルバムにして通学中に聴き込むことができます。
1曲目: 徳川15代将軍を覚えるファンク
2曲目: 化学式を連呼する高速テクノ
3曲目: 古文単語の意味を歌うバラード
教科書を棒読みするより、メロディに乗せたほうが記憶への定着率は段違いに高いはずです。
実際に一曲作ってみました。
徳川ファンク ♪
こんな感じの教材を自分で作れたらもっと楽しく勉強できたかも…と思うと本当にいい時代ですよね。
2. マニュアルやブログを「聴かせる」
会社の業務マニュアルや、このブログのような記事。 文字で読むと頭に入ってこない内容も、音楽にすればスルスルと入ってきます。
新入社員向け: 「会社のプリンターの使い方(パンクロックver.)」
ブログ読者向け: 「今日の記事の要約ソング(R&B ver.)」
当ブログでも試験的に記事の要約をAIソングにしていますが、「情報は音楽に乗せるとエンタメになる」のです。
架空のブラックコンビニ「EnemyMart」のバイトマニュアルをパンクロックにしました
EnemyMart ♪
3. 個人的な感情のログとして
日記を書くように、その日のモヤモヤした感情をAIに打ち込み、曲にして昇華する。
誰にも見せない、自分だけの「感情のゴミ箱」としての音楽。
形にすることで救われる感情があります。
まとめ:共存する2つの音楽
AIの登場によって、音楽は2つの方向に二極化していくでしょう。
人間の音楽: 文学性が高く、他者への共感や痛みを伴う「名曲」。鑑賞し、心を震わせるための芸術。
AIの音楽: 個人的な目的(暗記、情報伝達、感情整理)のために消費される「機能」。生活を便利にするためのツール。
AIは人間の作曲家を殺すわけではありません。 むしろ、「わざわざ人間がやらなくてもいい領域(BGMや機能性音楽)」をAIが引き受けることで、人間はより「人間らしい表現」に特化できるようになるのかもしれません。
あなたの生活を助けるために、今日はAIでどんな曲を作ってみますか?
「明日のゴミ出しを忘れないためのデスメタル」なんてのも、悪くないかもしれませんよ。
ということで、今回は「AIと名曲、そして実用音楽」について考えてみました。
あなたの音楽ライフ(と暗記ライフ)が、AIによって少しでも豊かになりますように。
おまけ











