どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
新潟はそろそろ冬の気配がしてきて、木曜日に雪マークが…
週末は天気が良かったので皆さんタイヤ交換されてましたね。
ちなみに私は2週間前に済ませちゃいました。
さて、ギターを練習していると、ふとこんな疑問を持つことはありませんか?
「テレビで見るあの有名バンドのギタリスト、ずっとパワーコードしか弾いてなくない?」 「プロなのに、なんで速弾きしないの? もしかして下手なの?」
正直に言います。私も学生時代はそう思っていました。
「速く弾けるやつが偉い」「難しいフレーズこそ正義」だと。
でも、講師として、そして一人のプレイヤーとして長く音楽に触れてきて、その認識は間違いだったと断言できます。
結論から言うと、彼らが簡単なフレーズを弾くのは「弾けない」からではなく、
「楽曲にとってそれがベストだからあえて選んでいる」のです。
「簡単=手抜き」ではない。アンサンブルという名のパズル

「簡単なフレーズしか弾かない」ことに対してモヤモヤするのは、ギターを「スポーツ」として見ているからかもしれません。 確かに、速く正確に指を動かす技術は素晴らしいですし、アスリート的な感動があります。しかし、音楽は「料理」にも近いものです。
ギターはあくまで「スパイス」である
メジャーアーティストの楽曲、特に歌モノにおいて、主役はあくまで「ボーカル(歌)」です。
料理で例えるなら、ボーカルがメインディッシュのステーキだとしましょう。
ギターの役割は、その肉の旨味を引き立てるソースやスパイス、あるいは付け合わせの野菜です。
もし、ギタリストが「俺の技術を見てくれ!」と全編で超絶速弾きをしていたらどうなるでしょうか?
それは、ステーキの上に激辛スパイスと生クリームと大量のパクチーを全部乗せたような、何が何だか分からない料理になってしまいます。
プロのギタリストは、「この曲(料理)を美味しくするために、自分はどの位置にいるべきか」を徹底的に計算しています。
その結果、「ここは全音符(ジャラーンと鳴らすだけ)が一番エモい」という判断になれば、迷わずその簡単なフレーズを選びます。
それは手抜きではなく、「最適な選択」なのです。
「休符」を弾くという技術
音楽において、「音を鳴らさない時間(休符)」は、「音を鳴らしている時間」と同じくらい重要です。 ずっと弾きまくっていると、リスナーの耳は疲れてしまいますし、曲の抑揚(ダイナミクス)が失われます。
メジャーのギタリストが簡単な単音フレーズをポツンと弾くとき、彼らはその前後の「空白」を演出しています。
「ここで俺が入ることで、サビの爆発力を最大化する」 そういった全体の構成を俯瞰で見えているからこそ、引き算のプレイができるのです。
これは、指先の運動神経とは別の、非常に高度な音楽的知能指数(リテラシー)が必要なスキルです。
実は「簡単そうに見えること」こそ一番難しい

「じゃあ、俺でもメジャーの曲なら弾けるじゃん」と思ったあなた。 確かに、指の動きだけをコピーすることは簡単かもしれません。タブ譜を見れば、初心者でも数日で形になるでしょう。
しかし、「プロと同じクオリティで聴かせる」ことは、至難の業です。
タイム感とリズムの解像度
プロとアマチュアの決定的な違いは、「リズムの解像度」にあります。
例えば、ただの8ビートのダウンピッキング。
プロは、その一音一音の音量、長さ、アタックの強さが、機械のように正確でありながら、人間的なグルーヴを持っています。
B’zの松本孝弘さんや、布袋寅泰さんのカッティングを聴いてみてください。
やっていること自体は(譜面上は)シンプルに見えることもありますが、あのノリ、あのキレを再現しようとすると、途方もない壁にぶつかります。
簡単なフレーズほど、ごまかしが効きません。「誰でも弾けるフレーズを、誰にも出せないグルーヴで弾く」。これがプロの凄みです。
「音色」への執着心
彼らが高度な技術練習の代わりに費やしているのが、「音作り」への情熱です。
「このサビの裏で鳴るアルペジオは、どのギターで、どのアンプで、どのエフェクターを通せば、ボーカルの声を邪魔せずに輝くか?」 これにとてつもない時間とコストをかけています。
U2のThe Edge(ジ・エッジ)なんかは良い例です。
彼は決して速弾きギタリストではありませんが、ディレイというエフェクターを駆使して、たった数音でスタジアム全体を包み込むようなサウンドを作り上げます。
これは「指が速く動く」ことと同等か、それ以上に価値のある「サウンドデザイン」という技術です。
プロならではの「大人の事情」と「役割」

少し視点を変えて、業界的な側面からも見てみましょう。 メジャーアーティストには、我々が想像する以上のプレッシャーと制約があります。
リスク管理と安定性
ドームツアーやテレビの生放送。数万人、数百万人が見ているステージで、失敗は許されません。 ここで、成功率80%の超絶テクニックを披露するのと、成功率100%のシンプルなフレーズで確実に会場を揺らすのとでは、プロとしてどちらが正しいでしょうか?
多くの場合、求められるのは「圧倒的な安定感」です。 どんなに体調が悪くても、機材トラブルがあっても、確実に80点以上のパフォーマンスを出す。
そのためには、リスクの高いプレイよりも、堅実で、かつ効果的なプレイを選択するのは、プロとしての責任感の表れでもあります。
実は裏ですごいことやってるパターン
「ライブでは簡単そうに弾いてるけど、実はめちゃくちゃ上手い」というパターンも多々あります。
彼らは楽屋やSNSでは、超絶テクニックを披露して遊んでいたりします。
「弾けない」のではなく、「ステージでは封印している」のです。
能ある鷹は爪を隠す。爪を見せびらかすのは、まだ自分の強さに不安がある証拠かもしれません。必要な時にだけ刀を抜く、そういうギタリストは案外多いのです。
よくある質問:あなたはどっち派?

Q. あなたがバンドを組むなら、どっちのギタリストに来てほしい?
A派: 超絶テクニカル!ソロは速弾きで埋め尽くし、リハでも常にピロピロ弾いている「ギターヒーロー」タイプ。
B派: 普段はニコニコしてバッキングに徹するけど、ここぞという一音で曲の雰囲気をガラッと変える「仕事人」タイプ。
まとめ:彼らも僕らと同じ「ギター小僧」である
メジャーアーティストが簡単なフレーズを弾く理由、なんとなく見えてきたでしょうか?
楽曲ファースト: ボーカルや曲の世界観を邪魔しないための「引き算」の結果である。
リズムと音色の職人: シンプルだからこそ、リズムのヨレや音色の良し悪しが露骨に出る。そこを極めている。
プロの責任: 失敗できない大舞台で、確実に観客を感動させるための「最適解」を選んでいる。
そして最後に伝えたいのは、彼らも元々は私たちと同じように、Fコードで挫折しかけたり、初めて歪みエフェクターを踏んで「うおおお!」と興奮したりした、ただの「ギター好き」だということです。
難しいことができるから偉いわけでも、簡単なことしかしないから手抜きなわけでもありません。
彼らは、「その音楽に一番必要な音」を、愛情を持って選び取っているだけなのです。
もし次にテレビやライブで「簡単そうなプレイ」を見かけたら、「なんで弾かないんだ?」ではなく、「なぜ今、その音を選んだんだ?」と耳を澄ませてみてください。
きっと、今まで聞こえなかった「音楽の深み」が聞こえてくるはずです。
おまけ











