音作りが上手くいかないのは、耳のせいじゃなくて「画面」のせいかもしれない。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の吉田です。
さて、マルチエフェクターを使っていると、
「機能はすごいはずなのに、なぜか良い音が作れない」
「パラメータをいじっているうちに、何がしたいのか分からなくなった」
という経験はありませんか?
それはあなたのセンスがないからではなく、脳の処理能力(CPU)が「画面操作」に奪われすぎているからかもしれません。
結論から言うと、マルチエフェクターの画面サイズとUI(ユーザーインターフェース)は、プレイヤーの「認知負荷」に直結し、結果として音作りのクオリティを左右する重要なスペックなのです。
認知負荷とは?ギタリストの脳内で起きている「処理落ち」

なぜ画面サイズが音に関係するのか。これを解く鍵は、認知心理学における「認知負荷(Cognitive Load)」という概念にあります。
人間の脳が一度に処理できる情報量(ワーキングメモリ)には限界があります。
マルチエフェクターの音作りでは、以下の2つの処理を同時に行っています。
聴覚処理: 音色の変化、帯域のバランス、ダイナミクスを聴き分ける。
視覚・操作処理: パラメータの位置を探す、数値を読む、ボタンを押す。
「ページめくり」が音への集中力を奪う
画面が小さく、一度に表示される情報量が少ない機種では、目的のパラメータに辿り着くまでに「ページめくり」や「階層移動」が発生します。
この「操作の手間」が脳のメモリを食いつぶすのです。
画面が大きい場合: EQの全体像が見える → 脳のリソースを「音の判断」に全振りできる。
画面が小さい場合: 帯域ごとにページを切り替える → 「今どの帯域だっけ?」という短期記憶にリソースが割かれる → 音を聴く力が低下する。
結果として、「面倒だからこの辺でいいや」という妥協が生まれ、音作りの質が下がるのです。
「アフォーダンス」の違い:視覚情報が行動を誘導する

デザインの世界には「アフォーダンス(Affordance)」という言葉があります。
「物は、その形によって使い方を人間に教えている」という意味です。
マルチエフェクターの画面デザインも、私たちの音作りを無意識に誘導しています。
グラフィカルUI vs 数値リストUI
| UIタイプ | 特徴 | ギタリストへの心理的効果 |
(GX-100, Helix等) | アンプやペダルの絵が表示される | 「直感」が働く。
アナログ機材を扱うように、信号の流れ(シグナルチェーン)をイメージしやすい。 |
(GT-1000, 昔のラック機) | パラメータ名と数値が並ぶ | 「分析」が働く。
感情よりも論理で音を作るモードになる。正確だが、全体像を見失いやすい。 |
カラー液晶でペダルのアイコンが並んでいると、脳は「あ、ここにブースターを足そう」と直感的に判断できます。
これは視覚情報が「そう使うものだ」とアフォード(誘導)しているからです。
「木を見て森を見ず」現象:スクロール地獄の弊害

画面が小さいコンパクトマルチ(HX StompやGT-1000COREなど)で陥りがちなのが、「木を見て森を見ず」状態です。
複雑なルーティングやEQ設定をする際、画面内に全ての情報が収まらないため、横スクロールを繰り返すことになります。
すると、「全体としてのトーンバランス」よりも、「今表示されている目の前のパラメータ」だけに意識が集中してしまいます。
低域(Bass)をいじっているときに、高域(Treble)の設定が見えない。
結果、全体のバランスが崩れていることに気づかず、一部の帯域だけを過剰にいじってしまう。
これが、小型マルチで音作りが迷宮入りする最大の原因の一つです。
タッチパネル vs 物理ノブ:触覚フィードバックの重要性

GX-100などで採用されているタッチパネルは、スマホ世代には馴染み深いですが、ここにも落とし穴があります。
それは「触覚フィードバックの欠如」です。
物理的なノブを回すとき、指先には「重み」や「抵抗」が伝わります。この触覚刺激は、脳に対して「今、操作をしている」という確かな信号を送ります。
一方、タッチパネルのスライダー操作は、指先の感触が一定(ツルツル)です。
物理ノブ: 目線を外しても、手先の感覚で微調整が可能。演奏に集中しやすい。
タッチパネル: 目視が必要なため、視覚リソースを占有する。
ライブ中など、視覚的リソースが限られる場面では、物理ノブやフットスイッチの「手応え」が安心感(=認知負荷の低減)に繋がります。
機種別:画面サイズと認知負荷の比較
市場の主要なマルチエフェクターを「認知負荷」の観点から比較してみましょう。
| 機種 | 画面タイプ | 認知負荷の特徴 | おすすめのユーザー |
| BOSS GX-100 | 大型カラータッチ | 低(直感的)
アイコン操作でシグナルチェーンが一目瞭然。脳のリソースを消費しにくい。 | 機械が苦手な人、感覚的に音を作りたい人。 |
| BOSS GT-1000 | モノクロ大型LCD | 中(論理的)
情報は多いがテキスト主体。色による誘導がない分、硬派な操作感が求められる。 | 正確な数値を把握したいエンジニア気質な人。 |
| Line 6 HX Stomp | 小型カラーLCD | 高(要慣れ)
高機能だが画面が狭い。ページ切り替えが多く、全体像の把握には脳内補完が必要。 | PCエディタ併用派、ボードへの組み込み重視の人。 |
| ZOOM MS-50G+ | 小型LCD | 中~高
エフェクト1つずつの表示は見やすいが、チェイン全体を見るには切り替えが必要。 | コンパクトさ最優先、割り切って使える人。 |
よくある質問:あなたはどっち派?
Q1. 結局、スマホ/PCエディタを使えば画面サイズなんて関係なくない?
A. 半分正解、半分間違いです。
自宅(宅録)ならPCの大画面が最強です。視覚的探索(Visual Search)が容易で、認知負荷は最小になります。
しかし、スタジオやライブハウスの現場ではどうでしょうか? PCを広げるスペースも時間もない場合、頼れるのは本体の画面だけです。「現場での対応力」は本体UIに依存します。
Q2. 画面が大きいと音が良くなるの?
A. 直接的には変わりませんが、結果的に良くなります。
画面が見やすいと、EQのQ幅(帯域の広さ)や、コンプのレシオとスレッショルドの関係性など、パラメータ同士の相関関係を理解しやすくなります。
「何をしているか」が明確になれば、迷いが消え、意図(イメージ)したサウンドへの到達速度が上がります。TOTOのルカサーのような洗練されたサウンドは、迷いのない音作りから生まれるものです。
まとめ:自分の脳に合ったUIを選ぼう
マルチエフェクター選びにおいて、「音質」や「DSPパワー」は確かに重要です。
しかし、「その画面を見て、ワクワクするか? ストレスなく操作できるか?」という視点も忘れてはいけません。
また音作りをする際も良い環境で音を聴くことが重要です。
モニターヘッドホンを使用する事でより細かいニュアンスまで音を追い込む事が出来るので、マルチエフェクターを使うなら一つは持って置きたいところ。
自分にとって「認知負荷」が低い機材を選ぶこと。それが、あなたの脳のリソースを「音を楽しむこと」に全振りするための最短ルートです。
機材に使われるのではなく、機材を使いこなして、最高のギターライフを送りましょう。
おまけ



















