「努力は報われる」と信じてギターを練習してきた。
でも、SNSを開けばとんでもなく上手い子どもたちが速弾きを披露している。
自分よりずっと若くて、ずっと速くて、ずっと器用だ。
──このまま練習を続けて、自分は一体どこに辿り着くんだろう?
そう思ったことはないだろうか。
特に社会人や学生、趣味でギターを続けている人ほど、「上達=結果」が見えづらいと感じる瞬間があるはずだ。
今回は「勝てないと分かりつつも努力を続けること」の意味を、ギターという楽器を通じて考えていく。
努力と成果の関係は、実は想像以上に薄い?
まず冒頭から身も蓋もない話をしよう。
近年発表されたあるメタ分析では、スポーツにおいて練習が成果に与える影響はわずか18%にとどまるという。
さらにプロ選手に限ると、その数値は1%にまで落ち込む。
つまり、同じようにトレーニングしていても、結果に現れる差は「ほとんど練習以外の要素で決まる」とされているのだ。
ギターや音楽に関してもこの傾向は見られる。
たとえば、音楽大学を出ていても食べていけない人がいる一方で、譜面が読めないままプロになる人もいる。
もちろん「練習は意味がない」という話ではない。
重要なのは、練習の本当の意味をどこに見出すかだ。

練習の目的を「過去の自分」に設定すると、挫折しにくくなる
本当のところ、練習とは「他人を超える」ためのものではない。
むしろ「昨日の自分を少しだけ超えるための営み」だ。
ギターが難しいのは、一朝一夕で上手くならないこと。
最初のうちはコードも押さえられないし、ストロークもズレる。
それでも続けていると、ある日ふと「あれ、ちょっと弾けるかも」と感じる瞬間がやってくる。
たとえプロにはなれなくても、
たとえSNSでバズらなくても、
昨日より今日のほうが少し弾けてる。
この事実こそが、努力の最大の報酬だ。
ギターを練習する価値は、「勝てるかどうか」ではなく、「昨日よりも、ほんの少し前に進んだかどうか」にある。
努力することで、生活に“進んでいる感覚”が生まれる
もうひとつ、練習には重要な効果がある。
それは「前に進んでいる感覚」を得られることだ。
これはモチベーションを生み出すうえで極めて強力な要素だと、心理学的にも指摘されている。
ギターに限らず、日々の生活において「変化がない」「停滞している」と感じる時間は、心に虚無感を生む。
しかし、ギターの練習をしていると「今日も少しだけ進めた」という実感を得られる。
これは、自己肯定感や生活リズムの安定にもつながる。
だからこそ、ギターの練習は精神的な意味でも大きな価値を持っている。
たとえ「勝てない努力」だったとしても、それは自分の心を支える“生活の骨格”になる。

実際、続けているだけですごい──それがギターという趣味
「ギターを始めた人の8割は、1年以内に挫折する」と言われる。
この統計が正しいかどうかは別として、感覚的には理解できるはずだ。
Fコードが鳴らない
リズムが合わない
音作りが分からない
弦が錆びる
練習時間が取れない
──やめる理由は、探せばいくらでもある。
でも、そのなかで「今日も10分だけでもギターを触った」という人は、もう“勝っている”のではないか。
努力の成果が他人との比較で測れないならば、「続けていることそのもの」が価値あることだと考えたい。
そして実際、ギターというのは“気づいたら上達している”楽器だ。
半年ぶりに昔の録音を聴き返して、「あれ? 前より全然良くなってる」と感じた経験はないだろうか?
それが「努力の成果」なのだ。

「勝てる場所」を選ぶという努力もある
もうひとつ、現実的な視点として紹介しておきたい。
どうしても人よりも目立ちたい、評価されたいという気持ちがあるならば、
練習の量ではなく、「勝てる環境」を選ぶという選択も重要だ。
たとえば──
技術では勝てないなら、オリジナル性を磨く
人前に出るのが苦手なら、録音や動画編集に活路を見出す
ソロプレイヤーが多い場所では、伴奏に徹することで存在感を出す
これらは立派な戦略であり、努力の方向性として“正しい”。
ギターという趣味のなかには、演奏技術以外にも無数の個性の出し方がある。
自分の強みを理解し、それを活かせる場所を選ぶ──これも「努力」の一形態だ。

「勝てない努力」にも意味があると気づいた瞬間から、人生が少し楽になる
他人との比較から抜け出すのは難しい。
SNSを見れば、どうしても「上には上がいる」と思ってしまう。
でも、それでもギターを弾き続けている自分がいる。
──それはきっと、勝つためではなく、「好きだから」。
勝てないと分かっていても努力を続ける姿は、美しく、そして尊い。
音楽を通じて得られる小さな達成感や自己充足感は、他人の評価とは関係ない場所にある。
結論:努力は報われないかもしれない。でも、報われなくても意味がある
練習が成果に与える影響は意外と小さい
他人と比較するより、過去の自分と比べることが大切
練習は「進んでいる感覚」を生み、心を安定させる
「続けていること」自体が、すでに他人との差を生んでいる
努力は報われなくても、人生に意味を与えてくれる
ギターは、報われるためにやるものじゃない。
結果が出なくても、音が鳴れば楽しい。
他人に勝てなくても、昨日の自分より少しだけ音が良ければ、それで十分だ。
「勝てない努力」にも、価値はある。
むしろ、そこにこそ“音楽の本質”があるのかもしれない。