ギターがうまい人って、なぜか話も面白いし、ステージに立つと雰囲気が明るくなる。
ただフレーズを正確に弾けるだけじゃなく、どこか「余裕」を感じさせる。
そんな光景をライブやYouTubeでも見たことがあるだろう。
でも、自分がステージに立つと、緊張で体はカチカチ。真面目に練習してきたのに、いざ人前に出ると固くなってしまう。
せっかく覚えたフレーズも、うまく活かせない。
そこで一つの視点として注目したいのが、「ユーモア」だ。
ユーモアといっても、単なる“ふざけ”ではない。
むしろ、「面白いことをやろう」という意識自体が、表現力を広げ、プレイヤーとしての引き出しを増やすトレーニングにもなる。
結論を言えば、ユーモアとは、ギター上達における“創造性”と“挑戦力”を支えるスキルだ。
練習に取り入れれば、気持ちも演奏も軽くなり、アウトプットの質も変わってくる。
ユーモアは「ふざけ」と「面白い」の2本立て
まず押さえておきたいのは、「ユーモア=ただのおちゃらけ」ではないということ。
実際、ギターがうまい人ほど、“笑いをとる力”と“面白がらせる力”の両方を持っている。
ふざける=失敗を恐れないマインド
例えば、わざとピックを落として拾うフリをしつつ、そこからキメのフレーズに入る──
こういう“ふざけ”は、見る人を笑わせつつ、プレイヤーにとっては「失敗OK」という強いメンタルを育てる手段になる。
面白い=意外性やアイデアで惹きつける
ジャンルの違う曲のモチーフをこっそり混ぜたり、童謡のメロディーをジャズ風に弾いてみたり──
これは完全に“クリエイティブ”の領域。音楽的センスも必要だが、何より「遊び心」と「余白を使うセンス」が養われる。
「笑わせる」「楽しませる」というのは、実は高等テクニックだ。
そこには、聴く人を観察し、空気を読み、言葉や音を選ぶ力が必要になる。
ライブで映えるユーモアの使い方【実践編】
ライブでの「面白さ」は、ただ目立つためではなく、演奏力や構成力を引き出す武器になる。ここでは、実際に効果のあったテクニックを紹介する。
落語の“枕”風MCで空気をつかむ
ライブのMCに悩んでいるなら、「落語の枕(導入)」を参考にするといい。
最初の30秒で観客の心をつかむことができれば、演奏の滑り出しもスムーズになる。
例)関係のない話題から言葉遊び的に曲へ繋げる
「えー、今月末からルパン三世の新作映画が公開されるそうですね。
ルパンと言えば“カリオストロの城”なんて名作がありますけども、最後の銭形警部の名言が印象的ですよね。
で、“城”って言うと、西洋の石造りの要塞みたいなのを想像する方もいれば、姫路城みたいな日本の天守閣を思い浮かべる方もいて、それぞれ趣があって面白いんですよ。
でも一方で、“俺の城”なんて言葉もありますよね? 男のロマンが詰まったガレージとか、ギター部屋とか、そういうのを“俺の城”って呼んだりする。そう考えると、城って人それぞれの想いが詰まってる場所なんだなぁ…なんてね。
……まぁそんなことをグダグダと喋ってるとですね、「そろそろいい加減にしろ」なんて怒られそうですけども。
というわけで、“しろ”つながりでこの曲を──King Gnuの『白日』。」
のような感じで他のカルチャーを取り入れるとキャラ付けになるし、
他にも漫談や演劇風の繋ぎを使う事でちょっと気になる存在になれる。
2-2. ジャンル違いのモチーフをこっそり差し込む
ブルースセッションの中にアニメの主題歌を挟む、ロック曲に演歌のメロディーを混ぜてみる──
意外性と気づきの面白さで、お客さんの反応がガラッと変わる。
筆者もアコースティックユニットを組んでいた頃にT.REXの20th Century Boy のリフからスタートして美空ひばりの真っ赤な太陽を演奏するネタをよく使っていた。
演奏者にとっても、気付きのレベルを上げる訓練になる。
意識して取り入れていくうちにセッション中の閃きでオマージュを含んだアドリブなどが出来るようになってくる。
2-3. 「無駄に難しい」ことをやる遊び
たとえば、単なるCメジャースケールをあえてスウィープやストレッチ運指で弾いてみる。
客席から「なんでそんなことするの(笑)」というツッコミが飛べば成功。
筆者もInstagramでナチュラルハーモニクスだけで曲のメロディーを弾く動画をアップしているが、これもお笑いのつもりでやっている部分もある。
シンプルな演奏ではあるけど相当練習したんだろうなーと想像してもらい、そのタイパコスパの悪さも含めて楽しんでもらおうという狙いもある。
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この“わざわざ感”のある演奏もまた、ギターへの理解を深める事の一環になる。
ユーモアを鍛えるトレーニング法
1. フレーズいじり練習
覚えたフレーズを、ブルース・ジャズ・ファンク・レゲエとアレンジを変えながら弾く練習。
これを友人と交互にやると、笑いも生まれるし、耳も鍛えられる。
2. “ズラし”メトロノーム遊び
わざと裏拍から入ったり、クオーターノートを三連符のタイミングで弾いてみる。
これが意外と楽しい。ずれていることに気づく→修正する→笑う→記憶に残る、のサイクルが自然に回る。
3. 短尺ネタ動画チャレンジ
短い尺で、笑える・意外性のある演奏動画を作ってSNSに投稿する。
例えば、皆が知っている番組のSEやジングルを弾いてみるなど。
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評価が数字で返ってくるのも、モチベーション維持に効く。
なぜ“笑える”と上達するのか?
ユーモアの効果は心理学的にも実証されている。
社会的ドーパミン効果
笑いを誰かと共有することで、脳の報酬系が活性化し、練習の継続が楽になる。
「楽しい=もっとやりたい」となるのは、脳の自然な反応だ。
即興力が鍛えられる
笑いには“タイミング”が必要。だからこそ、アドリブやソロ構成にも良い影響が出る。
ギャグで滑っても、すぐ切り替える力がつくのも大きな強みだ。
他人視点を獲得できる
「これ面白いかな?」「どこで笑ってくれるかな?」と考えることが、そのまま“聴かせる演奏”の思考に直結する。
笑える人は、伸びる人
ギターがうまくなる人の多くは、演奏だけでなく“遊び”や“笑い”も大事にしている。
その根底には、「楽しみながら続ける」ことの価値を知っているからだ。
ユーモアは、〈余裕〉を作り、〈クリエイティブ〉な視点を育て、〈ミスを糧〉に変える。
あなたの今日の練習に、ぜひ1つ“笑える仕掛け”を加えてみてほしい。
笑いながら練習できる人は、きっと長く、そして深く、音楽と付き合えるはずだ。