UAFX 1176は、スタジオで長く使われてきた名機1176を、ギタリスト向けに落とし込んだコンプレッサーだ。
ダイナコンプを使っていて「もっと自然にかかるコンプを使いたい」と感じている人にはちょうどいい位置づけになると思う。
反応が速く、アタックの鋭さがあるのに、モッタリした圧迫感がない。
カッティングでも音の粒立ちを保ったまま、しっかりまとまりが出せる。
今回ハードオフ楽器スタジオ新潟近江店さんにて実機を試奏させて頂いたので実際に触ってみた感想も交えながら紹介していこう。
1176とは

1176というのは、FET(トランジスタの一種)を使った伝統的なコンプレッサーで、超高速なアタックとリリースが特徴だ。
もともとスタジオでボーカルやギターを前に出すための機材として定番になってきた。
UAFX 1176はその挙動を小型ペダルで再現しており、足元で使える“スタジオの品質”というのがこのペダルのコンセプトだ。
UAFX1176

踏んだ瞬間にわかるのは、反応の速さだ。
強めに弾いても音が潰れる感じがなく、むしろ前に出るような気持ちよさがある。
コンプにありがちな「押しつぶされる感じ」がなく、倍音が軽く持ち上がる印象。
硬質だけど乾きすぎず、サチュレーション(軽い歪み感)のおかげで抜けがいい。
カッティングやファンク系のリズムでも、リズムのキレを保ったまま音が整うのが気持ちいい。
ここからは各パラメーターの特徴を役割の解説を交えながら紹介していこう。
インプット(INPUT)

1176はスレッショルドのつまみが無く、代わりにインプットを調整することであらかじめ決められているスレッショルドにどの位の音量で突っ込むのかでコンプを効かせる仕組み。
他のモデルと少し違った使用感だが仕組みを理解すれば怖くはない。
極端にインプットを上げることで歪ませる事ができるというのも1176ならではの芸当。
スレッショルド(Threshold)とは

しきい値「コンプが働き始める音量のライン」を示す。
スレッショルドが低いほどほぼ常時”コンプがかかるようになり、音が潰れやすい。
スレッショルドが高いほど、ピークだけを抑える動作になるため、よりナチュラルな圧縮感。
1176の場合スレッショルドは固定されているため、インプットゲインでどの程度の音量で突っ込むかでコンプの効きを調整する仕組みになっている。
実践ポイント
「ピークだけ抑えたい」→ スレッショルドは高め
「常に潰してスクイッシュ感を狙いたい」→ スレッショルドは低め
1176の場合
「ピークだけ抑えたい」→インプットは低め
「常に潰してスクイッシュ感を狙いたい」→ インプットは高め
レシオ(RATIO)

RATIOつまみでは4:1、8:1、12:1、20:1に加えて「ALL」モードがあり、これは4つの比率を同時に押し込んだ1176の裏技的設定だ。
ALLにすると圧縮が強く、歯切れのよい硬い質感が得られる。
より強めにサチュレーションさせて音を際立たせたい場面では試す価値がある。
レシオ(RATIO)とは

圧縮比の設定
スレッショルドで定めた音量に対してどの程度の圧縮を加えるのかを設定します。
例)「4:1」の場合、しきい値を4dB超えた音は出力で1dBしか上がらない。
「2:1」前後は軽い圧縮感
「20:1」などはリミッター並み。
実践ポイント
クリーントーンのカッティング:4:1~8:1程度で軽めのコンプ
ロック・メタルのリード:12:1~20:1、ALLでしっかり潰す
アタック/リリース(ATTACK / RELEASE)
ATTACKとRELEASEのつまみは、時計回りに回すと動作が速く、反時計回りにすると遅くなるという1176特有の方式。
1176はアタックタイムがかなり早い事が特徴。
アタックを回すと特にクリーンでピックを当てた時の感触が変わる印象で、弾き心地に違和感のないあたりに設定しよう。
リリースも違和感のない長さに設定しよう。
アタック(Attack)とは

コンプが音を抑え始めるまでの時間
アタックが速い(数ms): 弦を弾いた瞬間を瞬時に潰す→パーカッシブでタイト
アタックが遅い(数10ms以上): ピッキングの立ち上がりを残し、ナチュラルなアタックを再現
実践ポイント
カントリーのカッティングや速弾きフレーズ→アタック短めでスナップを抑える
バラードや表情豊かなリード→アタック長めでピッキングのニュアンスを生かす
リリース(Release)とは

コンプがかかり終わるまでの時間
リリースが長い→音がじわじわ回復する→サスティンが伸びる、ウォームな印象
リリースが短い→音が素早く回復→アタックの粒立ちが残り、パンチが出る
実践ポイント
ファンクカッティング:リリース短め→テンポに合わせてパキッと刻む
バラードのソロ:リリース長め→音が途切れず豊かな余韻を得る
3モードで変わるキャラクター

UAFX 1176は、SINGLE/DUAL/SUSTAINの3モードを搭載している。
SINGLEはもっとも素直で、一般的なコンプのイメージに近い。
自然なまとまり方で、常時オンにも向いている。
DUALは1176を2台直列にした設定を再現しており、コンプレッサーというよりオーバードライブに近いサウンド。
音の密度が上がり、リードで軽く歪ませたい時や、アンプの前段を押す用途にも合う。
SUSTAINは名前の通り、音の伸びを重視したモード。クリーンの単音やスライド、ハーモニクスを弾く時に余韻を伸ばしたいならこれがいい。
また、ドライとウェットを半々で出力するパラレルスイッチとバッファーのオンオフスイッチを装備している。
原音を残すことで輪郭をキープしたり、エフェクターボードの先頭で信号の劣化を防ぐ役割も果たせる。
DUALモードの歪み感が作る厚み

このペダルの目玉はやはりDUALモードだ。
レッド・ツェッペリンの録音で、ジミー・ペイジが1176を二台直列で使ったという逸話をもとにデザインされている。
音としては、コンプが強くかかるローゲインドライブって感じ。
アンプの歪みとは違い、トランジスタ回路の倍音で太さを作るタイプ。
コードを鳴らした時に各弦の輪郭が残りつつ、全体がまとまって押し出される感じがする。
コンプレッサーとしても優秀だが、DUALモードでのオーバードライブサウンドもまた魅力的なサウンドで、むしろオーバードライブとして使いたくなる。
楽器店で見かけたら是非試してみてほしいサウンドだ。
ダイナコンプとの違いと、乗り換えの目安

ダイナコンプは、いわば“わかりやすく効くコンプ”だ。
強くかけると音量が揃い、サステインが伸びる。が、コンプ特有の臭みも濃く出てしまう。
対してUAFX 1176は、かけても音が潰れず、全体の輪郭を保ったまま押し出してくる。
ダイナコンプを常時オンにすると少し音が引っ込むと感じる人には、1176のほうが自然で扱いやすいと思う。
つまみは多いが、基本的にRATIOとINPUTでかかり具合を決め、OUTPUTで音量を合わせればすぐ使える。ATTACKとRELEASEはまずはATTACK遅めRELEASE速めでセッティングしてみるのがおすすめだ。
価格と入手性

実売価格はおおよそ25,000円前後。
そもそもこの手のコンプは5万6万当たり前という感じで、本機は本家本元でありながら破格の安さではあるのだが、なんとユニバーサルオーディオ製品はセール時に2万円前後まで下がることもあり、そのタイミングなら中古を探さなくても更に手が届きやすい。
ハードオフで試奏させて貰ったクセに何を言っているんだって話ではあるんだけど、流石にセール価格を見ると中古はどうしても割高に感じてしまう。
ちなみに2025年11月、まさにこの記事を執筆している現在は絶賛セール中だ。
割と頻繁にセールしてるような気もするが、今はまさに安く買えるチャンス。
この期に是非入手して欲しい。
↓ロックオンカンパニーさんはセール情報とか漏れなく発信してくれているイメージ。
まとめ:常時オンで質を上げる一台
UAFX 1176は、速い反応と硬質な抜けを両立したFETコンプだ。
カッティングのキレを保ちながら全体を引き締めたい人、常時オンで自然に整えたい人には特に向いている。
またセオリー通りの繋ぎ順の他にもアンプのセンドリターンに繋いで全体の音を整えるような使い方をしても面白い。
オーバードライブのような厚みを出すDUALモードもあり、一台で幅広い使い方ができる。
「ダイナコンプの次」を探しているなら、このペダルでスタジオクオリティのコンプレッサーを体験してみてほしい。








