コンプレッサーというエフェクターは、ギタリストにとって「便利だけど扱いにくい存在」と言われることが多い。音を整えてくれる反面、「潰れすぎる」「演奏感が失われる」といった違和感を覚えた経験はないだろうか。特に初心者にとっては「どんな場面で使えばいいのか分からない」という声もよく聞く。
一方で、上級者ほどコンプレッサーを常用しているのも事実だ。クリーンを綺麗に響かせるために、また歪みの粒を整えて存在感を増すために、プロは自然に取り入れている。つまり、コンプレッサーを味方につけられるかどうかは「サウンド作りの幅をどこまで広げられるか」に直結するのだ。
そこで注目したいのが VOX Valvenergy SMOOTH IMPACT。Nutubeという次世代真空管を搭載し、従来のコンプレッサーとは一線を画すアプローチを採用している。「コンプレッションをかける」というより「チューブ感で音を包み込む」感覚を味わえるペダルだ。
Nutubeが生む「真空管コンプレッション」
SMOOTH IMPACTを他のコンプレッサーと決定的に分けるのは、搭載されている Nutube(ニューチューブ) だ。Nutubeはアノード・グリッド・フィラメントを持つ完全な三極管であり、従来の真空管の特性を小型化・低消費電力化した新技術。VOXはこのNutubeを「コンプレッションの心臓部」として活用している。
その仕組みはユニークだ。一般的なコンプは信号を直接制御する(VCA・光学式・FET式など)が、SMOOTH IMPACTはNutubeの 電源電圧変動によるゲイン変化 を利用している。
これにより:
自然な倍音が付与される
チューブアンプ的な温かみが加わる
クリッピングとは異なる柔らかなコンプレッション感
が得られる。単なる「音量調整装置」ではなく、まるでアンプの一部を足元に組み込んだかのような質感が生まれるのだ。
筆者自身、最初に弾いた時に「これはコンプなのか?それとも小型のチューブプリアンプなのか?」と混乱したほど。
確かに音は整っているのに、窮屈さはなく、むしろ弾くのが気持ちよくなる――これがSMOOTH IMPACTの本質だろう。
3つのモードで変化するキャラクター
SMOOTH IMPACTは、モード切り替えスイッチで3種類のコンプレッションキャラクターを切り替えられる。
1. VTG(ヴィンテージ)モード
アタックが速くリリースが遅い設定。クラシックなコンプレッションサウンドを再現し、カッティングやリズミカルなフレーズで「パンッ」とした立ち上がりを強調できる。70年代のファンクやカントリーのサウンドを想起させる、古き良きコンプ感だ。
2. NAT(ナチュラル)モード
最も自然で、アタック感を失わずに粒立ちを整えるモード。タッピングやアルペジオといった繊細な奏法に向いている。高速に反応しながらも違和感が少なく、「コンプを踏んでる」という意識を忘れさせてくれる。
3. SAG(サグ)モード
ビンテージチューブアンプを大音量で鳴らした時の「サグ感」を再現。音がわずかに潰れて粘り、同時にNutubeの歪みが乗る。クリーンで弾いても「クリーミーでウッディなフィール」を持ち、ソリッドステートアンプやデジタルアンプのユーザーにとっては救世主的なモードだ。
特にSAGモードは“単なるコンプ”の枠を超えており、アンプ全体をチューブライクに変えてしまう印象すらある。
VOX ( ヴォックス ) / Valvenergy SMOOTH IMPACT
シンプルな操作と奥深さ
コントロールは3ノブ+モードスイッチ。
TUBE GAIN … Nutubeに送る信号量を調整。回せば自然なチューブ歪みが増す。
COMP … 圧縮の強さを調整。TUBE GAINとの組み合わせで質感が変化。
OUTPUT … 出力音量を調整。クリーンブースト的な使い方も可能。
一見シンプルだが、TUBE GAINとCOMPの相互作用により、クリーン強調から軽いオーバードライブ手前の質感まで幅広い。が、あくまで酸いも甘いも経験した玄人向けという印象。
常時ONで使いたい
Valvenergyシリーズ全体に搭載されている新開発のバッファ回路も見逃せない。エフェクトをオフにしてもNutubeを通すため、通常のバイパスよりも自然で軽快なレスポンスを維持できる。
が、やはり常時ONにしてこそのNutube
実際、常時ONにして弾いてみると
ピッキングが柔らかくなる
音が前に出る
ウォームな質感が付与される
という効果を感じた。これを「お守り的なペダル」と表現するレビューも多いが、まさにその通り。
ダイナコンプの様なエフェクティブなタイプではなくいわゆるスタジオ系と言われるコンプレッサーだ。
そこにチューブ感のコントロールが付いているといった感じで、ペダルボードに入れておけば“ギターの地力”を底上げしてくれる存在だ。
実際の使用感と評価
SMOOTH IMPACTは非常に個性的なため、導入後に戸惑うギタリストもいる。
メリット
クリーンに温かみと深みを加えられる
デジタル環境でも真空管ライクなフィールを再現
シンプル操作で多彩な音作りが可能
常時ONでギター全体のサウンドを底上げ
デメリット
消費電流が約75mAと大きめ(電池駆動は短時間)
他の歪みペダルと組み合わせると、音がガラッと変わることがある
一般的な「無色透明なコンプ」を求める人には向かない
- 筐体は案外チープ
特に「これを通すと歪みエフェクターのキャラクターが変わってしまう」と悩む声もある。
確かにドライブサウンドの音作りは一癖ある印象で、どちらかというとクリーンや軽度な歪みサウンドを作る方が向いているかも知れない。
また消費電力だが、BOSS の定番コンプレッサーCP-3が10mAなのに対しこちらは75mAと大きめ。
かけっぱなしを想定すると電池駆動では心もとないのでやはりACアダプターの使用がおすすめだ。
ただのコンプレッサーというよりはチューブアンプの質感を再現する系のギアともとれる。
非常に面白く癖の強い1台だがその割に劇的な音の変化を楽しめるタイプではないという事は留意しておくべきだろう。
VOX ( ヴォックス ) / Valvenergy SMOOTH IMPACT
まとめ|SMOOTH IMPACTは“隠れた名機”
VOX Valvenergy SMOOTH IMPACTは、Nutubeが生み出す真空管コンプレッションによって、従来のコンプレッサーでは得られなかったサウンドを提供するペダルだ。
✔ クリーンにチューブ感を加えたい
✔ 演奏感を損なわない自然なコンプレッションが欲しい
✔ デジタル環境でも真空管らしいフィールを得たい
そんなギタリストにとって、このペダルは相棒になり得る。
また、ウォームなクリーントーンを得意としているので特にジャズギタリストには最適解と言えるギアの一つだ。
半面ソリッドなサウンドが好みのギタリストはスルーしても良いかと。
市場での注目度は決して高くないが、だからこそ今が狙い目かもしれない。
セール価格で投げ売られているケースもある。
楽器店で是非試して欲しい。