コンパクトながら複数のエフェクトを詰め込んだ「マルチストンプ型」。 小規模なペダルボードに組み込みやすく、初心者からプロまで幅広く愛用されている。
ただし注意したいのは、同時使用可能なエフェクト数やDSP処理能力に差があること。
これを理解せずに選ぶと「やりたい音作りができない」「音が劣化する」といったギャップが生まれる。
今回は BOSS PX-1 / Line 6 HX One / TC Electronic Plethora X1 / ZOOM MS-50G+ の4機種を比較し、それぞれの特徴と弱点、さらに想定される使用シーンを解説していこう。
BOSS PX-1|BOSSサウンドのアーカイブ専用機
価格: 約38,500円(税込)+DLC課金
エフェクト数: 16種類(各1,000円で追加DL可)
同時使用: 1エフェクトのみ
強み
- 歴代コンパクトペダルを精緻にモデリング。
- MIDI / USB-C / Bluetooth対応で現代的。
- 実機さながらのレスポンスやノイズ感も再現。
懸念点
- 同時に使えるのは1つだけ。
- 現状モダンなトーンは期待できない。
- DLC課金方式で、長期的にはコストがかさむ。
- 「BOSS愛」がなければ割高に感じやすい。道具というよりはファンアイテム感が否めない。
想定されるシーン
- 中級者以上のボードで「BOSSのレガシーサウンドを一枠で実現したい」場合に最適。
- GT-1000COREやHX Stompと組み合わせて使うことで、往年の名機を呼び出せる特別な1台。

Line 6 HX One|全部入りだけど“単発専用”
価格: 約35,000円(税込)
エフェクト数: 250種類以上
同時使用: 1エフェクトのみ
強み
- Helix直系のHXモデリングで音質は一級品。
- ビンテージからモダンまであらゆるトーンを網羅
- 歪みから空間系まで幅広く対応。
- Fluxコントロールで動的な表現も可能。
懸念点
- 同時に使えるのは1つだけ。
- 「1台で全部済ませたい」と思うと期待外れに感じる人も。
想定されるシーン
- 中級者以上のペダルボードで、特定の場面で「高品質な定番モデリング」を使いたい場合。
- Line 6オリジナルの個性的なエフェクトを追加したい人にもおすすめ。
- 1エフェクト機の中では、最も汎用性が高く品質も安定しているためイチ推し。
TC Electronic Plethora X1|遊び心ある“デュアル機”
価格: 約20,000円(税込)
エフェクト数: 14種類(TonePrint拡張可)
同時使用: 2スロット(同時駆動は不可)
TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / PLETHORA X1
強み
- MASHフットスイッチで表現力抜群。
- BluetoothでTonePrintを自在に追加。
- 空間系やモジュレーションの品質が高い。
懸念点
- 実際は1つしか同時に使えない。
- 歪み系は無く、システムの“後段向き”という性格。
想定されるシーン
- 中級者以上のボードで空間系の幅を増やしたい人に最適。
- MASHスイッチでエクスプレッション的に遊びたい人にもフィット。

ZOOM MS-50G+|DSP依存だが実用性No.1
価格: 約12,900円(税込)
エフェクト数: 102種類
同時使用: 最大6種類(DSPの処理能力次第)
ZOOM ( ズーム ) / MS-50G+ マルチストンプ
強み
- 圧倒的コスパ。
- 電池駆動OK、携帯性も抜群。
- DSPの許す限り複数同時使用可能で、実戦的な音作りができる。
懸念点
- DSPを使い切ると音質が落ちやすい。
- モデリング精度は上位機に劣る。
想定されるシーン
- 初心者ボードの最初の1台として非常に優秀。
- 「歪みはコンパクトを持っているけど、次は何を買ったらいいかわからない」人におすすめ。
- 価格・機能のバランスが初心者に最適で、1台で“エフェクターの世界”を一気に体験できる。
DSPとは?
DSPとは「Digital Signal Processor(デジタル信号処理プロセッサ)」の略で、
エフェクトの計算処理を担当する“頭脳”のようなチップだ。
ディレイやリバーブといった複雑なエフェクトはDSP負荷が大きく、
同時に多く使うと処理が追いつかず音質が劣化したり、ノイズが出たりする。
逆に、コンプレッサーやEQなどシンプルな処理は負荷が軽いため、同時使用しても安定しやすい。
具体例を挙げると:
DSP負荷が軽いエフェクト → コンプレッサー、EQ、ノイズゲート、トレモロ
DSP負荷が中程度のエフェクト → オーバードライブ、ディストーション、コーラス
DSP負荷が重いエフェクト → ディレイ、リバーブ、ピッチシフター
MS-50G+では最大6種類を同時に使えるが、実際にはDSPに余裕を残して4〜5種類程度に抑えると音が安定しやすい。
つまり「どのエフェクトを組み合わせるか」で実用性が変わるのが、この機種の特徴だ。
おすすめ早見表
モデル | 特徴 | 想定ユーザー | 価格帯 | 同時使用 |
---|---|---|---|---|
BOSS PX-1 | BOSS歴代ペダルを再現、アーカイブ的 | BOSSファン、中級者以上 | 約38,500円+DLC | 1 |
Line 6 HX One | 幅広いモデリング、音質最高クラス | 汎用性重視、中級〜上級者 | 約35,000円 | 1 |
TC Plethora X1 | TonePrint&MASHスイッチで表現力豊か | 空間系好き、中級者 | 約20,000円 | 1(実質) |
ZOOM MS-50G+ | コスパ最強、最大6同時使用可 | 初心者〜中級者 | 約12,900円 | 最大6(DSP依存) |
利用シナリオ事例
初心者のボード構築
→ すでに歪みペダルを持っているなら、MS-50G+を追加。
ディレイ・リバーブ・コーラスをまとめて体験でき、1万円台で“エフェクターの世界”が一気に広がる。
もちろんエフェクターデビューにも最適。
中級者の拡張ボード
→ GT-1000COREやHX Stompなどの中核マルチに、PX-1を加えてBOSSレガシーを呼び出す。
あるいはHX OneでLine 6独自エフェクトをプラス。
空間系にこだわる人
→ Plethora X1をボード後段に設置。MASHスイッチで踏み込み量に応じた残響コントロールが可能。
リードやアンビエント系で表現力を発揮。
オールラウンドで使いたい人
→ HX Oneを選べば、音質・対応ジャンル・拡張性のバランスが最も高い。
単体ペダル代替としても、既存ボードの穴埋めとしても活躍。
エクスプレッションペダルやフットスイッチ、MIDIにも対応しているので文字通り万能な単体エフェクター
まとめ|目的とレベルで選ぶのが正解
今回紹介した4機種は、いずれも「マルチストンプ」という枠組みの中に収まってはいるが、実際はまったく異なるコンセプトで作られている。
そのため「どれが最強か」というよりも、「自分のプレイスタイルや環境に合っているか」で選ぶのが正解だ。
例えば、初心者ならまずZOOM MS-50G+を選ぶのが鉄板だろう。
理由はシンプルで、価格と機能のバランスが非常に良いからだ。
歪み系はすでに持っていて「次は何を買えばいい?」と迷う人にとって、MS-50G+はリバーブ・ディレイ・コーラスを一通り試せる“実験場”になる。
DSPに余裕を残せば音質も十分で、最初のステップアップとしてこれ以上手頃な選択肢はない。
一方で、中級者以上になってくると話は変わる。
ペダルボードの軸にGT-1000COREやHX Stompのようなスーパーコンパクト・マルチを据えた場合、そこに「どんな1台を足すか」が重要になる。
BOSSの歴代名機をデジタルで呼び出したいならPX-1、Line 6の定番&個性派モデリングを活かしたいならHX One、TCの空間系を武器にしたいならPlethora X1と、選択肢が明確に分かれてくる。
筆者の視点では、最も汎用性が高く、幅広いシーンで通用するのはHX Oneだと感じている。
理由は、サウンドクオリティが高く、歪み・空間系ともに即戦力として使えるうえ、Line 6独自のエフェクト群が他社にはない魅力を持っているからだ。
単体エフェクターの代替にもなり、ボードの“隙間を埋める万能機”としても機能する。
「結局どれにすれば後悔が少ないか」と考えたとき、HX Oneは安心しておすすめできる。
最終的には、自分がどんなシーンで使いたいかを想定することが最も大事だ。
初めてのマルチ → MS-50G+
ZOOM ( ズーム ) / MS-50G+ マルチストンプBOSSファン、実機再現重視 → PX-1
BOSS ( ボス ) / PX-1 Plugout FX音質も拡張性もバランス重視 → HX One
Line 6 ( ライン6 ) / HX One空間系・表現力で遊びたい → Plethora X1
TC ELECTRONIC ( ティーシーエレクトロニック ) / PLETHORA X1
この記事を参考に、自分のギターライフに合った1台を見つけてほしい。
きっとその選択が、新しい音作りの扉を開いてくれるはずだ。