ライブ、レコーディング、セッション、人前での演奏──
ギターを弾く上で避けて通れないのが「本番」というステージだ。
「普段はもっと弾けるのに…」「なぜか指が震える」「コードチェンジでミス連発した」──
こんな経験に心当たりのある人は決して少なくないはずだ。
実は筆者も、何度も似たような失敗をしてきた。
練習ではスムーズにできていたのに、本番になった瞬間なぜか頭が真っ白になったり、
ピッキングがやたらと強くなってしまって音がバキバキになったり……。
考えてみれば今でも楽器店で試奏する時でさえ緊張してうまく弾けなくなったりする。
そんな時、真っ先に探すのが「緊張しない方法」だ。
深呼吸、ルーティン、ストレッチ、ルイボスティー……様々試してみたが
しかしそれでも緊張は消えなかった。
その時ふと思ったのが、「そもそも緊張って、どういう状態なの?」という疑問だった。
そこから、”緊張そのもの”について調べていくうちに考え方が大きく変わった。
今回は、ギターの本番で「緊張してしまう自分」と、どう向き合えばいいのか。
そして、緊張を“無くす”のではなく、“味方にする”という考え方を紹介していく。
リラックスしている方が実力を出せる?
「本番でもリラックスして挑めるようにしよう」
これはよく聞くアドバイスだ。もちろん間違いではない。
だが実際には、リラックス状態には意外な落とし穴もある。
それは、集中力や“張りつめた感覚”が不足してしまうこと。
たとえば、ライブ慣れしてきて緊張を感じなくなった頃に、
なんでもないミスを連発したり、集中が切れて演奏が雑になったりする人がいる。
これは「リラックス=油断」と紙一重だからだ。
ギターというのは感覚の楽器だ。ほんの少しの“気のゆるみ”で音に現れる。
逆に言えば、緊張している時というのは、
身体が本番モードに切り替わり、感覚が研ぎ澄まされているという状態でもある。
つまり、緊張は必ずしも“敵”ではない。
むしろ、うまく扱えば最高の集中状態に導くスイッチになり得る。
緊張すると身体能力は上がる。でも、気が散る。
「緊張して手が震える」「心拍が早くなる」
これは交感神経が優位になる、ごく自然な身体反応。
アスリートやアーティストにとっては“臨戦態勢”とも言える状態だ。
血流が良くなり、瞬発力も上がり、感覚も鋭くなる。
身体的にはむしろパフォーマンスに最適な状態だとも言える。
だが問題は、脳の働きにある。
緊張すると、思考があちこちに飛びやすくなり、
「失敗したらどうしよう」「うまくいってるかな」「今のところミスってないよな」など、
集中が内側から外側へと移動してしまう。
これが、本番でミスが起きる本当の原因だ。
緊張によって鋭くなった感覚がどうでもいい方向に向いてしまう。
これがよくない緊張の正体だ。
イアン・ソープの実話が教えてくれた「集中力の本質」
オーストラリアの元競泳選手、イアン・ソープ。
彼はオリンピックで複数の金メダルを獲得した名選手だが、
若い頃は“極度の緊張しい”だったという。
レース中に他の選手の泳ぎが気になってしまい、
「集中できなかった」と語っている。
だがその後、コーチの助言で
「他人ではなく、自分の動きに集中するトレーニング」を始めた。
これにより彼の記録は急激に向上し、
後に“水の怪物”とまで称される選手になった。
このエピソードから学べるのは、
集中をどこに向けるかで緊張の効果が変わるということ。
他人の評価、会場の空気、間違いへの恐れ──
これらを意識した瞬間に集中は外に向き、演奏に乱れが出る。
大事なのは、「自分が今やるべきこと」に意識を戻すことだ。
緊張を味方にする3つの実践的アプローチ
① 緊張=本気のサインと認識する
「うわ、緊張してきた…やばい…」と感じた時、
まずは「よし、身体が全力モードに入った」と言い換えてみよう。
これは一種のメンタルリフレーミングだ。
「緊張=悪」ではなく、「緊張=自分の準備完了サイン」と捉えるだけで、
その後のパフォーマンスが変わってくる。
② 外側への意識を、内側に戻す練習をしておく
「誰かに見られてる」「失敗したらどうしよう」と感じたら、
その瞬間、自分の指先の感覚、リズムの流れ、演奏するフレーズに意識を戻す。
この練習は、日頃のギター練習でも取り入れられる。
スマホで録音・撮影して弾いてみる。SNSに投稿してみる。
人前で披露する習慣をつけることで、“注目されてる感”に慣れることができる。
③ “失敗しても死なない”という現実を知る
本番での失敗が怖いのは、「評価が下がる」「恥ずかしい」という思いがあるからだ。
でも実際には、ほとんどの失敗は観客も気づいていない。
自分が思っているほど、他人は自分を見ていないし、
見ていても「がんばれ」と思ってくれていることの方が多い。
これを理解するだけで、心理的なハードルはぐっと下がる。
本番で緊張するあなたへ
緊張するということは、それだけ真剣に向き合っている証拠だ。
逆に何も感じない人は、どこかで諦めているか、慣れすぎてしまっている可能性もある。
本番で強くなるとは、「緊張しない人」になることではない。
「緊張してもやるべきことに集中できる人」になること。
それが本当の“本番力”だ。
Q&A|緊張と本番のギター演奏についてよくある質問
Q1:緊張しないようにするにはどうすればいいですか?
A1:「緊張しない」ことを目指すのではなく、緊張しても集中できる状態をつくるのが現実的で効果的です。緊張は身体が本気モードに入っている証拠なので、「緊張=準備完了」と捉えるようにしましょう。
Q2:緊張すると手が震えたり、頭が真っ白になります。どう対処すれば?
A2:身体反応に気づいたら、意識を“自分の演奏”に戻すことが重要です。指先の感覚やリズム、ピッキングの感触などに集中することで、外側への意識を遮断できます。事前に“人に見られる練習”をしておくのも有効です。
Q3:練習ではできるのに本番になるとできなくなるのはなぜ?
A3:これは集中のベクトルが“外”に向いていることが主な原因です。本番では「うまくやらなきゃ」「失敗したらどうしよう」などの雑念が入りやすく、普段通りの演奏ができなくなります。集中の向き先を意図的に内側へ戻す訓練が効果的です。
Q4:緊張を活かすために、どんな練習をすれば良い?
A4:本番を想定した“模擬プレイ”が効果的です。
・スマホで撮影しながら弾く
・SNSに演奏動画を投稿する
・他人の前で1曲弾いてみる
など、軽く緊張感を持てる状況を日常に取り入れると、徐々に本番の空気に慣れていけます。
Q5:そもそも緊張する自分はメンタルが弱いんでしょうか?
A5:いいえ、緊張できるのは「本気で向き合っている証拠」です。むしろ何も感じない方が問題です。緊張する自分を責めるのではなく、そのエネルギーを演奏に変えるマインドセットに切り替えていくことが、本番に強くなるための第一歩です。