ギターを「特別な存在」だと思っている人ほど挫折する理由

ギターを「特別な存在」として愛しすぎると、ある日突然、関係が壊れます。
どうも、7丁目ギター教室新潟江南校の講師、吉田です。
さて、今日は少ししんみりした、けれど、長くギターを続けるためには避けて通れない話をしようと思います。
先日、友人から共通の知り合いの近況を聞きました。
「〇〇さん、結婚してギター全部売っちゃったらしいよ。今は子育てに専念してるんだって。」
あるあるなトピックではありますが今回は正直、結構なショックでした。
その人は、かつて誰よりもストイックにバンド活動に打ち込み、真面目に練習を積み重ねる「ギター愛にあふれた人」だったからです。
あんなに熱心だった人が、なぜ一本も手元に残さず、ゼロにしてしまったのか。
そこから見えてきたのは、ギターを「特別なもの」だと思いすぎることの危うさでした。
結論から言うと、ギターを長く続けられる人は、楽器に対していい意味で「ドライ」です。
情熱の炎を燃やすのではなく、歯磨きや入浴と同じ「生活習慣」にまで落とし込む、言わば格下げ出来た人だけが、ライフステージの変化という荒波を乗り越えていけるのです。



なぜ「真面目な人」ほどギターを捨ててしまうのか

かつての知り合いがギターを辞めた理由を推測すると、彼にとってギターは「特別な自分を証明するための舞台」だったのかもしれません。
ストイックに練習し、誰よりも詳しい機材知識を持ち、ステージで評価される。
それは素晴らしいことですが、ライフステージが変わり、「練習時間が取れない」「ライブができない」「誰も評価してくれない」という環境になった瞬間、その「特別さ」が重荷に変わります。
「100か0か」の完璧主義という呪い
真面目な人ほど、「やるなら全力でやらなければならない」と考えがちです。
1日2時間練習できないなら、やっている意味がない。
最新の機材で最高の音が出せないなら、弾く価値がない。
そうやって自分に高いハードルを課し続けた結果、育児や仕事で忙しくなった時、自分を許せなくなってしまうのです。
「今の自分は、理想のギタリスト像から程遠い。だったら、いっそ全部やめてしまおう。」
これはある種の「純愛」かもしれませんが、楽器との付き合い方としては非常に脆い。特別なものとして神格化しすぎるからこそ、関係が崩れた時の反動が大きくなるのです。
18年続けてわかった「ドライな関係」の強さ

一方で、何十年もギターを弾き続けている人の多くは、意外なほどギターに対して「淡白」だったりします。もちろんギターは大好きですが、そこに過度な期待や「自己の証明」を投影しすぎていないのです。
ギターを「歯磨き」と同じレベルに落とす
私がギターを始めて18年。今ではギターがない生活なんて思い出せませんが、かといって毎日「よっしゃ!今日も魂を削って弾くぞ!」と気合を入れているわけでもありません。
お腹が空いたらご飯を食べる。
寝る前に歯を磨く。
その延長線上に「なんとなくギターを手に取る」という動作があるだけです。
3日くらい弾かない日があっても、「ああ、最近忙しかったな」と思うだけで、自己嫌悪にはなりません。また気が向いた時にポロポロと鳴らす。この「あってもなくてもいいけど、気づいたらそばにある」というドライな距離感こそが、挫折を防ぐ最強のディフェンスになります。
「上達」を目的の100%にしない
上達を目指すことは大切ですが、それが唯一の目的になると、成長を実感できない「停滞期」に耐えられなくなります。
ギター上達のシステムは、RPGのレベル上げに似ています。レベルが上がるほど、次のレベルに必要な経験値は膨大になり、地味な「スライム狩り」のような練習が続きます。
ギターを特別なものだと思っている人は、このスライム狩りに「意味」を求めてしまいます。
対して、生活の一部になっている人は、スライムを狩ること自体の手応えや、弦が振動する感触そのものを楽しんでいます。
挫折しないための「生活への溶け込ませ方」

もしあなたが今、「練習が辛い」「ギターを辞めてしまいそう」と感じているなら、一度ギターを「特別な存在」から「ただの生活備品」に格下げしてみてください。
1日3分の「超低空飛行」ノルマ
「1時間練習する」と決めると、忙しい日に挫折します。けれど「1日3分、ケースから出して触るだけ」なら、どんなに忙しくても出来そうですよね。
大切なのは、「ギターとの接点をゼロにしないこと」。
習慣さえ途切れなければ、技術は勝手に維持され、ふとした瞬間にまた加速期がやってきます。
出口(評価)を求めない贅沢
「誰かに聴かせなきゃ」「上手くならなきゃ」という外部からの評価を一度遮断してみましょう。
誰にも見せない日記を書くように、自分だけのために音を鳴らす。
その「自分だけの贅沢な時間」としてギターを捉え直すことができれば、ライフステージがどう変わろうと、ギターはあなたの味方であり続けてくれます。
よくある質問(Q&A)
Q:ギターを辞めていく仲間が多くて不安になります。
A:そう思うこと自体、ギターを大切に思っている証拠です。不安になったら、あえて「一生弾かなくてもいいや」くらいの気持ちでギターをスタンドに立てかけておいてください。辞める人は「辞める」と決断して楽器を売ってしまいますが、続けている人は「辞めるかどうかも考えない」まま放置し、また気が向いた時に手に取っています。
Q:結婚や出産で物理的に時間がありません。どうすれば?
A:今は理想を目指さなくていい時期です。例えば月に一回1時間程度スタジオを借りて特に何も考えずにギターを鳴らす時間を作るとか、仕事や家事、育児を頑張ったご褒美的な感じで取り組んでも良いと思います。
それすらもままならないほど忙しい時期もあると思いますが、その瞬間だけが人生ではありません。
いつでも自分の都合で弾いたり弾かなかったりして良いんです。
まとめ
ギターを特別なものだと思っている人ほど、理想と現実のギャップに苦しみ、挫折してしまう。
その一方で、長く続けている人はギターを「生活の一部」として、ドライに、かつ習慣的に受け入れている。
完璧主義を捨てる: 100点か0点かの思考は、ライフステージの変化に弱い。
習慣化に頼る: 情熱ではなく、歯磨きと同じレベルのルーティーンに落とし込む。
距離感を楽しむ: 弾かない日があっても自分を責めない。
ギターは人生を豊かにしてくれる最高のパートナーですが、それに人生のすべてを背負わせる必要はありません。
「今日もなんとなく触っちゃったな」
それくらいの軽やかさで、あなたの音楽ライフが長く、穏やかに続いていくことを願っています。







