ギタリストにとって「次に導入する1台」を選ぶとき、ワクワクと同時にシビアな目線も必要になる。
先日発表された BOSS PX-1 は、BOSSファンにとって夢のようなプロダクトに見えるかもしれない。だが冷静に見極めるほど、その立ち位置は限定的であることに気付く。
一方で、競合機種である LINE6 HX ONE は、価格改定で値下げされ、検討しやすいレンジに入ってきた。結果として「PX-1が出たことで、むしろHX ONEの評価が自分の中で爆上がりしている」という現象が起きている。
この記事では、PX-1を慎重に見た方が良い理由と、HX ONEが“現実的な選択肢”として輝きを増している背景を整理していこう。

BOSS PX-1は慎重に見極めた方が良い理由
PX-1は「BOSSコンパクトの名機をまとめてアーカイブ化する」というコンセプト自体は面白い。だが、その実態を追っていくと以下の懸念点が浮かぶ。
- サウンドがBOSSコンパクトに限定されている
「BOSSらしい音」が得られる安心感は大きい。しかし逆に言えば、音色の幅はBOSSに縛られる。多様な音作りを求めるプレイヤーにとっては制約になる。
- 追加エフェクトが有料DLC方式
今後もちまちま音色が増えていくのは間違いない。ただし1つあたり約1,000円。サブスク化の懸念もあり、長期的に見ると割高感が増す可能性がある。
- 10年以上前にZOOMが同じ仕組みをやっている
PX-1の「Bluetooth経由でエフェクトを追加購入する」というシステムは、2013年にZOOMが MS-100BT で既に実現している。つまり、BOSSが打ち出している方式は「革新的」ではなく「後追い」に近い。
- 価格の割高感は否めない
本体価格が38,500円。HX ONEやTC Electronic Plethora X1など競合機種と比較すると、どうしてもコストパフォーマンスに劣る印象を受ける。
- 実用面での弱さ
チューナー非搭載、パッチリコール非対応。ライブやレコーディングでの使い勝手を考えると不足が目立つ。
- 結局はファンアイテム感が強い
「BOSSファンのための特別な一台」という評価に落ち着く。つまり万人向けではなく、思い入れがある人のための製品という位置づけだ。
要するに、PX-1は“熱烈なBOSS愛”がある人には刺さるが、そうでない人にとっては投資判断が難しいプロダクトだ。
インフルエンサーに乗せられて買ってしまうと痛い目を見る可能性が高い。
BOSS PX-1 vs HX ONE 比較で見えるHX ONEの強み

ではなぜPX-1の登場で、HX ONEの評価が逆に上がったのか。理由はシンプルだ。
- エフェクトの種類が250と必要十分
歪み系から空間系、シンセやピッチシフトまで幅広く網羅。1台でペダルボードの大半をカバーできる。
- 現状この手のマルチストンプ系で音質が圧倒的に良い
HXファミリー譲りのプロクオリティ。Eventide H9と比較しても「半額で同等以上」と評価される事もある程。
- 実機モデリングとLINE6オリジナルの両立
名機の再現度と独自アルゴリズムの両方を楽しめる。単なるコピーでは終わらない。
- 操作性と拡張性が高い
2つのフットスイッチ搭載、外部ペダルやMIDI対応。実際の使用シーンで自由度が高い。
- 価格が下がり、アップチャージも不要
値下げ後に約30,000円台となり、追加エフェクト課金の心配もない。
その上突発的なアップデートによる機能改善、エフェクト追加などもあり今なお進化を続けているモデルでもある。
- 実用機能の充実
チューナー、ルーパー、バイパス選択など、ボードに組み込んで即戦力になる要素が揃っている。
つまりHX ONEは、機能面・音質面・コスト面の三拍子が揃った“実用的な選択肢”なのだ。
導入シナリオ別おすすめ
- BOSSファン・コレクター → PX-1
歴史的名機をコンパクト気軽に使いたい人向け。 - 初めてのマルチストンプを探す人 → HX ONE
音質、機能、価格のバランスが優れている。 - プロ志向・サブ機を探す人 → HX ONE
拡張性と信頼性を重視するならこちらが無難。
価格・コスパ比較表
製品名 | 本体価格 | 追加課金 | 搭載エフェクト数 | 主な特徴 |
---|---|---|---|---|
BOSS PX-1 | 38,500円 | 有料DLC(1つ約1,000円) | 限定的(BOSS系中心) | BOSSファン向けアーカイブ |
Line 6 HX ONE | 約35,000円(値下げ後) | なし | 250種類以上 | 高音質・実用機能充実 |
ZOOM MS-100BT(2013年) | 当時約15,000円前後 | 有料DLC | 約100種類+追加 | DLC方式の先駆け |
PX-1は「愛」、HX ONEは「合理」
PX-1は「BOSSの歴史を愛する人」のためのプロダクト。
HX ONEは「現場で使える合理的な一台」を求める人のためのプロダクト。
しかもPX-1のシステムは、実はZOOMが10年以上前に通った道でもある。
そう考えると、PX-1の存在はむしろ「BOSS愛がある人向けのコレクターズアイテム」という位置づけに落ち着くのではないだろうか。
冷静にスペックとコストを見比べると──PX-1の発表によって「HX ONEでいいじゃん」という判断が一層強まった、というのが正直なところだ。
筆者ならどちらを買うか?
とはいえ、どちらも魅力的なプロダクトだ。
もともとBOSSを愛用してきた筆者にとって、PX-1は非常に魅力的で心を揺さぶる存在である。
しかし同時に、結局は“アーカイブの焼き増しシステム”でしかないという現実に対して落胆も覚える。
今の筆者の気持ちとしては、やはりHX ONEに軍配を上げるほかない。
価格、機能、そして即戦力としての実用性を考えるとHX ONEが合理的な選択肢だ。
ただしPX-1はまだ発売前であり、将来的に化ける可能性を秘めたモデルであることも間違いない。
プラットフォームを介して音色を移す仕組みを採用している以上、その環境をBOSSが長期的に維持していく覚悟が問われるだろう。
その動きを見極めることが、PX-1を評価する上で最大のポイントになりそうだ。


