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いつかは欲しい、ギター練習椅子|北欧の名品、アルテック スツール60

ギター練習の集中を阻害するもの
それはスマホの通知音だったり、車の音や話し声などの雑音、照明や温度なども挙げられるが、割と見落とされがちなのは“椅子の不安定さ”だ。

練習中に座面が回る。肘掛けにボディが当たる。キャスター回って位置がズレる。
そう言われるとなんだか気にならないだろうか。

結論から言えば、集中して練習するための椅子とは、何の変哲もないシンプルなスツールだ。

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そして、その代表格がArtek(アルテック)の〈スツール60〉

なぜなら、背もたれ・肘掛け・回転・キャスター・過剰なクッションといった“ノイズ”を排し、三本脚の安定適度な座面でフォームを乱さないから。

結果、フォームが安定し、右手は迷わず、左手は素早く移動できる。練習の質が上がり、効率的に上達できる。

本記事ではギターの練習に最適な特徴を持ちつつ、使い込むことで味が出るこのスツール60をギター練習用の椅子という視点で紹介していく。

筆者もいつかは欲しいと思っている一脚なので、是非とも魅力を共有していきたい。

スツール60がギター練習用の椅子として優れている理由と根拠

1) 三本脚の“がたつかない”安定

スツール60は三本脚の木製スツールだ。
四本脚は三本脚より倒れにくいというメリットがある一方で、脚一本のわずかな歪みで途端にガタついてしまう。三本脚は幾何学的に常に平面を確保できるから、微細な床のうねりやフェルト摩耗でもガタつきにくい。フォームを決める最初の1秒で、毎回“座り直し”が要らない。

2) L-レッグ × 無垢バーチの強度と剛性

1933年、アルヴァ・アアルトが開発した曲げ木の「L-レッグ」は、無垢のバーチ材にスリットと薄板を差し込み、熱と水で直角に曲げる独創的な構造。強度と軽快さを両立し、座面はネジ留めのみの合理的な設計。必要な剛性を最小限の要素で実現している。

3) “広すぎない”フラット座面

深いクッションや大きすぎる座面は骨盤の角度を寝かせてしまいがち。〈スツール60〉のフラットで適度な直径は、骨盤を立てやすく胸郭が開く。 また広すぎず狭すぎない座面は安定感を確保した上で座奏時のギターの種類や構え方を制限しない。

4) スタッキングの合理性(螺旋スタック)

三本脚ゆえに脚が干渉せず積み重ねやすい。複数人での練習などを想定する場合も部屋を圧迫しないので都合がいい。とはいえ一脚最低でも約四万円とするとスツール60の螺旋スタックはまさに富の象徴だ。

5) 長寿命・メンテ性(“一生モノ”の設計)

ネジの締め直しやフェルト交換程度で長く使える。経年による味が生まれ、愛着が維持される。結果、道具が練習の習慣を支える

ロマンを“理解したうえで”使う

スツール60の選択は、100%の合理性だけで語れない。普段使いの道具に趣味性を持たせ、愛着を注いで接することで、練習はもっと楽しくなる。
ここに矛盾を見出す人もいるだろう。しかし、合理性で裏打ちされた構造(三本脚とL-レッグ)と、職人技と素材の物語(フィンランドの無垢バーチや積層の手業)が同居しているからこそ、使うほどに愛着が湧く。
ロジックとロマンの交差点こそがスツール60だ。

ギターも同様にスペック表の数値だけでは測れない魅力がある。
プレイヤーと共に成長し、味わいを深めていく。塗装の艶が落ち、フレットの摩耗が刻まれるほど、あなたの音色に寄り添う道具になっていく。スツール60は、ギターのそれに近い魅力のある椅子だ。

フィンランドバーチの“手触り”が支える説得力

  • L-レッグの革新無垢材に扇状の切り込み(ケルフ)を入れ、薄いベニヤを差し込んでから蒸気・熱・圧力で直角に曲げ、乾燥・整形する独自工法。これにより一本の木をL字に成形しながら割れを抑えた。
    • 曲げ強度×ねじり剛性を確保(脚内側のベニヤ層が“筋交い”として働く)。
    • 座板への取り付けはダボ+ネジの合理構造で、分解・再組立が容易。
    • 脚先の面取り(R)とフェルトで床当たりを均一化。ガタつきや共振音を抑える。
    • 3本脚は120°等間隔で配置でき、製造の基準出しとスタッキング安定が両立。
  • 1933年のオリジンアルヴァ・アアルトは、当時主流のスチールパイプ家具に対し、地域材を現代技術で生かす視点を提示。L-レッグは1933年に特許化され、
    • フラットパック(座・脚・ネジのユニット化)で輸送効率を改善。誰でも簡単に組み立てられる思想を実現。
    • 建築と同様に人の動きに沿う曲線を家具へ応用。日用品としての量産性と倫理を両立。
    • スタッキングは螺旋塔状に無限に積め、公共空間から住まいまで運用コストを下げた。
  • フィンランドバーチの質感寒冷地で育つバーチは年輪が緻密で均質。軽すぎず重すぎない比重バランスが脚材に最適で、
    • 導管が細かく手触りがなめらか。塗装越しにも木理の“微粒感”が伝わる。
    • 経年でほんのり飴色に転じ、打痕や小傷もとして馴染む。
    • 乾燥・含水の管理が行き届いた個体はねじれや反りが出にくい。結果、長期にわたる座りの安定に寄与する。

この背景を合理的に理解したうえで選ぶ。その“矛盾”に、長年使い込むほどのロマンが宿る。

ギターと同じ“愛着の成熟”

愛着を持って長年使い込むという意味で、スツール60はギターと似ている
小傷や日焼け、締め直したネジの跡——どれもがプレイヤーと共に過ごした時間の証拠になるだろう。
練習の記憶が椅子に刻まれ、経年による味が練習の継続を後押しする。道具とプレイヤーが互いに成長するような感覚が、ここにはある。

合理だけで選ぶなら他の選択肢もある。だが、“分かったうえで”あえて趣味性を受け入れる選択は、練習に前向きなエネルギーを与えてくれる。
結果として、練習の満足度を向上させ、短時間練でも音が良くなる。ロマンが合理を支える瞬間だ。

実践:ギターでの“正しい座り方”とサイズの選び方

高さの目安(アコギ/エレキ共通)

  • 座面高45±2cmから始める(一般的なスツール60の標準)。
  • 太腿がほぼ水平~わずかに下がる角度だと、骨盤が立ちやすく手首の無理が減る
  • 低めに感じたら足台を追加。ハイポジ移動が楽になる。

足台の使い方

  • 右脚 or 左脚、スタイルに合わせる
  • ネック角度10~20°を目安に。手首の折れが減り、指板の見やすさも向上。
  • 楽器の位置が高くなる事で腿、脇、腕の三点でのホールドがより安定する。

微調整TIPS

  • 床が硬い部屋はフェルト or ゴムを脚先に。
  • 座面は薄手のスツールパッドを敷くことでクッション性を確保。
  • 月1でネジ増し締め。たわみやきしみは早期ケア。

 

スコープ別注スツール60

日本の北欧デザインショップ〈スコープ(scope)〉は、日用品を“長く使う”視点で選びつつ、メーカーと組む別注企画でも知られる。

アルテック〈スツール60〉では、天板にリノリウムを用いた別注シリーズを2013年から継続
豊富な色、組立済みで届く手軽さ、そして手に取りやすい価格が魅力だ。

ギター練習用の椅子としても、マットで滑りにくい天板や帯電防止の性質が相性◎。

ここから、(1)スコープ別注の要点 → (2)リノリウムの基礎 → (3)通常品との違い の順で解説する。

スコープ別注スツール60の概要

スコープ別注の〈スツール60〉は、天板にリノリウムを採用したシリーズだ。

2013年から継続展開され、現在は18色という豊富なカラーバリエーションをそろえる。

価格はアルテックの定番リノリウム仕様(46,200円)に対して38,500円(税込)と手に取りやすい。

コンテナ単位での仕入れやパッケージ省略など、無駄をそぎ落とした運用でこの価格を実現している。

さらに、すべて組み立て済みの完成品で届くため、箱を開けてすぐ使える。

ヴィンテージのスツール60にもリノリウム仕様のものがあったようで、経年による味の出方が魅力的だったことから別注での取引が始まったとのこと。

長く使う事を想定する場合はこちらも是非検討したい。

リノリウムとは

天然素材由来のサステナブルな表面材

19世紀後半の英国発明。

主原料は亜麻仁油、ロジン、ジュート、石灰岩、木粉などで、焼却時に有害物質を出しにくく、最終的に土に還るとされる。

特徴

  • 質感:洗練されたマットな見た目と、ややざらりとした温かな触感。
  • 機能:抗菌・抗ウイルス・脱臭、帯電防止、耐久・耐水に優れる。
  • 経年変化:使い込むほどパティナが生まれ、色味・艶が落ち着く。

お手入れと注意

  • キズ:硬質だが表層は傷が入りやすい。浅い擦り傷はアマニ油を馴染ませて拭き上げると目立ちにくくなる。
  • 熱・日光:高温・直射日光は変形・変色の原因。鍋や機器の熱は避ける。
  • 洗剤アルカリ性に弱い。日常は乾拭き、酷い汚れは中性洗剤の薄めで対応。

通常品(木天板)との違い

通常品の天板はバーチ無垢(クリアや着色ラッカー等)で、対してスコープ別注はマットで手触りのよいリノリウム貼りだ。

反射が少なく静電気も帯びにくいため、作業灯の下でも視界が落ち着き、楽譜や機材まわりのホコリも付きにくい。

価格は定番リノリウムの46,200円に対し、別注は38,500円(税込)と手に取りやすい。

さらにスコープ別注は18色展開の豊富なカラーバリエーションを用意し、完成品出荷で届いてすぐに使い始められる点も違いだ。
※色展開はリノリウムメーカーの在庫状況によって増減する様だ。

経年の表情は、リノリウムが艶が落ち着き色に深みが増していくのに対し、木天板は打痕や日焼けが味として現れる。同じ“育つ素材”でも、育ち方のキャラクターが異なることを理解して選びたい。

特に豊富なカラーラインナップが魅力だ。
リノリウムメーカーの在庫状況によって売り切りとなってしまうカラーもあるようなので気に入った色があれば早めに入手しておきたい。

スツール60は“座る=決まる”、そして“育つ”道具

背もたれ・肘掛け・回転・キャスター・過剰クッション——練習の邪魔になる要素を捨て、三本脚とL-レッグで“座る=決まる”を提供する。正直値は張る。けれど、毎日の着座1秒を最短化し、練習を続けた時間が味へと変わる。それは、ギターと同じ楽しみ方だ。

合理性と趣味性の交差点に、フィンランドバーチによる三本脚のロマンを。

ニトリの木製スツールを愛用している筆者もいつかは迎えたい一本——いや、一脚だ

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ABOUT ME
吉田寛定
新潟市在住のギターインストラクター。 趣味ギタリストに向けた“ちょうどいい温度感”の発信を心がけています。 新潟市江南区のギター教室|7丁目ギター教室にて無料体験レッスン受付中。亀田・横越エリアの方はぜひどうぞ。